生成AIはあらゆるビジネスを置換する 5年後すら予測はできない<DXのリアル~ビジネスRe:design>坂内匠×山本政樹(上)のサムネイル
デジタルテクノロジー

生成AIはあらゆるビジネスを置換する 5年後すら予測はできない<DXのリアル~ビジネスRe:design>坂内匠×山本政樹(上)

LTSは「デジタル時代のビジネス変革」を再構築するため、常務執行役員CSOの山本政樹がファシリテーターとなり、LTSのリーダーと議論を重ねています。戦略コンサルティング事業本部 Data&Technology Consulting事業部 部長、坂内匠との議論(上)、「生成AIはあらゆるビジネスを置換する」では、進化し続ける生成AIによる社会へのインパクトと変化について考察します。
※議論の成果は2026年に出版予定です。

山本 政樹(LTS 常務執行役員 CSO 経営企画本部長)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。システム開発案件におけるプロセス設計や現場展開、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の導入など、ビジネスプロセス変革案件を中心に手掛け、現在はビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓発を中心に活動している。(2025年4月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

坂内 匠(LTS データ分析事業部 部長、ME-Lab Japan代表取締役社長)

データ分析、AI開発領域の様々な業界のプロジェクトを担当。コンサルタントとして企画立案から、エンジニア・データサイエンティストとして分析の実装まで幅広く経験。気候変動対応に向けた企業変革支援や人工衛星を用いた災害モニタリング等の気候・環境系の案件や大学と連携した研究にも従事。国際ジャーナルへの論文執筆や学会発表も経験。(2024年6月時点)   ⇒プロフィールの詳細はこちら

AIはリアル世界に進出する

山本
LTS本社の一角に、ロボットアームがお目見えしました。坂内さんのチームの取り組みということですが、何をしているのですか。(写真1)

坂内
チームのメンバーがロボットアームを買ってきて、AIでロボット制御する研究をしています。生成AI技術を使い、動画を教師データとして繰り返し学習させ、「関節はこう動かす」「モノはこう持つ」と覚えさせるわけです。

写真1:AIでロボットアームを制御する様子

山本
アスリートがイメージトレーニングで、感覚的に得た学びを自身の動きに反映させるのと似ていますね。ロボティクス領域で生成AIはどんな役割を担うのでしょうか。

坂内
AIによる制御方法は従来の制御と抜本的に異なります。従来型制御はルールや物理モデルを使ってロボットの動き、加速度や圧力といった動作を全てプログラミングして逐次処理します。一方でAIベースの制御だと基盤モデルを使って、いくつかの動画やシミュレーション情報を追加学習させることでロボットに動きを覚えさせていきます。

ファインチューニング(データ基盤モデルに追加データを与え、特定の目的に合わせて再調整すること)も簡単です。製造ラインを想定すると、職人技で作業している映像データを追加で学習させれば、特定の目的に沿った能力を獲得させることができるのです。(図1)

図1:ロボット制御方法の違い

山本
LTSが生成AIとロボティクスの研究に着手するとは感慨深い。いよいよ、AIが物理世界に進出するわけですね。世界的にはヒューマノイドの開発も盛んになっており、ビジネス、社会全体が変わりそうです。

坂内
2025年3月に、NVIDIAがオープンソースのAIロボティクスの基盤モデルを発表しました。ただ、物理的にモノを動かし、作る領域への適用はまだ発展途上です。台頭するのは2030年手前くらいと想定しています。現段階だと、生成AIのホワイトカラー業務への導入がメインですね。

メリットはイメージのしやすさ

山本
坂内さんはAI領域に10年以上携わってきた専門家です。いまはホワイトカラー業務への導入がメインということですが、従前は期待した成果が得られずAIブームは沈静化しました。しかし、2000年代から始まった現在の第3次ブームは継続というか加速していますね。

※第1次ブームは黎明期の1950年代後半から1960年代。第2次はコンピューターが普及し、政府による「第五世代コンピューター」計画が進められた1980年代。

坂内
データ領域を含めブームは終息することはないでしょう。2024年にはRAG、2025年にはAIエージェントが一般化し、さまざまな企業がPoC(Proof of Concept、新しいアイデアや技術・手法の「実現可能性」を小規模・短期間で検証すること)に取り組んでいます。さらにここ数年は、PoCからの実装も増えています。

山本
生成AI以前は、「PoCをしたが実装にたどり着かない」という話をよく耳にしました。投資効率や業務への実装可能性、生産性への影響判断が難しいからです。しかし、生成AIによりその難しさが解消されたということでしょうか。

坂内
生成AIはテキストや画像、動画で出力される”モノ”があります。「こう改善すれば使い物になりそう」というイメージを持ちやすいのです。旧来AIの出力は基本的には数値やパラメーターなので、業務担当者にはどうしてもイメージがつきづらかったですね。

山本
「AIが実務に落とし込まれてきた」と言っても、階層(図2)によって進捗程度は異なると思います。いかがですか。

図2:企業内の業務階層

坂内
最上段の組織レベルの変化はまだ進んでいません。ただし、組織やシステムを裏で動かすエンジニアリング、DXへの生成AIの影響は顕著で、ビジネスモデルも変化せざるを得ないでしょう。

人月ビジネスは破壊される

山本
DX投資において、エンジニアの人件費の割合は大きいですが、生成AIを活用したシステム開発が進むと、人月あたりの成果物も増加します。エンジニア中心で進めている開発・サービス提供モデルへの影響は甚大ですね。特に「人月で稼ぐ」受託開発型ビジネスモデルへのインパクトは破壊的になりそうです。

坂内
私たちの仕事でもすでに、スピード面で変化がでています。最近は、AI関連サービスの最終報告では、パワーポイントではなくデモを見て頂くようにしています。これまではデモ作成に2週間ほど必要でしたが、生成AIにより数時間で作成できるようになったからです。お客様も稼働イメージを実際に体感できるため好評です。生成AI活用が進めば、コンサルティングプロジェクトのあり方も大きく変わるでしょう。

山本
それでは、先ほど(図2)に示した「機能レベル」「作業レベル」にあるホワイトカラーの業務の変化はいかがでしょう。

坂内匠

坂内
ここは先ほど触れたように比較的、業界問わず導入が進んでいます。生成AIの技術的な特性からメール関連、資料作成など現場タスクとの相性が良いです。さらに、現場主導の業務改善で成果が見えやすいのも理由の一つでしょう。

山本政樹

山本
カスタマーサービス領域、アーティスティックなデザイン検討が多くを占める領域も、ビジネスモデルが大きく変わる可能性が高いと考えられますね。

坂内
そうですね。そうした領域も世界的には生成AIが実用化されていますが、日本ではまだあまり浸透していません。「技術的には親和性が高いはずなのに、なぜか進まない日本のマーケット」と言われており、動向を追っているところです。

山本
なるほど。ここまでビジネス視点での変化について解説してもらいました。社会全体への影響についてはいかがですか。

天気予報の裏側の劇的変化

坂内
社会的影響で言えば、気象領域が分かりやすいです。現在の天気予報は、数式や法則をもとにした物理モデルをスーパーコンピューターで計算し、出力された難しい結果を人間が解釈して予測しています。しかし最近、マイクロソフトやアルファベット(グーグル)傘下の企業がAIを使った気象予測に取り組んでいます。

図3:気象予報の発信フローの違い

坂内
数年前まで気象コミュニティでは「AIは物理のことは分からない。気象のように重要な情報は、信頼できる物理モデルを使うべき」との認識が主流でした。しかし、それも変化しています。すべての産業ではないでしょうが、これまでのルールベース・物理モデルベースの手法を生成AIが代替していく産業は確実に増えるでしょう。

山本
そういう意味では、見えない部分も含めさまざまな領域でAIが入っていく余地はまだまだあり、社会を変え得るということですね。

坂内
はい。新しいAIモデルが次々と誕生しています。AGI (Artificial General Intelligence、汎用人工知能)のような人間に匹敵するAIができなかったとしても、あるいは万が一に技術的発展が今後、止まったとしても、すでにできているAIだけでも非常に大きな社会的インパクトがあり、5年後の世界でさえ大きく変わっているでしょう。

山本
天気予報の裏側を意識することは普段、ほとんどありません。しかし、AIは確実に人間や社会に実装され、変化していきますね。そんなAIを育てるのは人間とデータです。

(中)では、「探索の人間と深化のAI」をテーマに、またデータマネジメントについて考えましょう。


エディター・ライター

natsuki(LTS CLOVER編集部員)

2021年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味は旅行、食事、犬猫動画を漁ること。(2024年6月現在)