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デジタルテクノロジー

製造業におけるデータマネジメントの第一歩② データマネジメント活動の方法論

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2021年3月に掲載されたものを移設したものです。

ライター

日下部 真夕(LTS コンサルタント)

大手小売業におけるRPA導入や、製造業の経営管理業務可視化・標準化を支援。現在は大手製造業のデータマネジメント構想策定支援に携わり、全社横断的なデータ活用に向けた取り組みを行っている。(2021年6月時点)

こんにちは、LTSコンサルタントの日下部真夕です。本コラム「製造業におけるデータマネジメントの第一歩」は、3回に分けてお送りしています。第1回では「データマネジメントの考え方と、データが使えるための条件」をご紹介しました。第2回では「データマネジメント活動の方法論」についてご紹介します。第1回をまだ読んでいない方は、ぜひ以下からご覧ください。

データマネジメント活動の進め方

データマネジメントとは、「効率的にデータを管理できる状態」と「データが“使える状態”であること」を実現する活動です。今回のコラムでは、どのように活動を進めたらよいか、事例を元にご紹介します。
以下に、データマネジメント活動の推進ステップを示しています。データマネジメントは一時的に取り組んでおしまいではなく、図の右で示しているように、活動を定着化させて継続することが大切です。

まず企画では、データを使って実現したいこと、データマネジメント活動の目的を設定します。実現したいことが決まると、必要なデータの種類や状態が決まり、テーマを絞り込むことができます。テーマ選定のポイントは、小さなテーマから始めることです。はじめからデータの種類や関係者の多いテーマに取り組んでしまうと、難易度が高く、取り組みがうまく進まなくなってしまいます。まずは、小さなテーマで成功体験を積み重ねることが大切です。
次の現状把握と施策検討について、具体的な活動内容をご紹介します。施策実行・ルール運用と評価については、次回コラム「データマネジメント活動の方法論を動かす仕組み」にてご紹介します。

データマネジメント活動の3つの観点

データマネジメント活動では、3つの観点が必要であると考えています。データの流れに着目する「データの流れ管理」、細かい視点でデータの関係性、意味に着目する「メタデータ管理」、更に細かい視点でデータの中身に着目する「データ品質管理」です。データの可視化~データの改善方針策定で何をすべきか、それぞれの観点で事例を見てみましょう。

①データの流れ管理

データは発生してから活用されるまで、加工や統合を経て、形を変えて流れています。このようなデータの流れと人・業務・システムの関係性を、「データMAP」で見える化します。データMAPとは、データが「データオーナー」によって入力され、システムを通り、データ利活用者に活用されるまでの流れを表したデータの地図です。データオーナーとは、データの発生源である部門責任者を指します(詳細は次回コラム)。
以下にデータMAPのサンプルを示しています。ある製造業の会社における、設備の評価結果データの流れを見える化しました。どんなデータの流れの課題があるか、詳しく見てみましょう。

まず技術部門が評価を行い、承認した評価結果をシステムに入力します。製造部門はシステムを見ながら、評価結果を設備リストに入力します。どちらもデータの加工や統合はしておらず、転記しているだけのようです。設備リストは、製造部門が配台計画を作るために利用されます(現状の可視化)

なぜ技術部門で評価結果を管理しているのか、担当者に話を聞いてみます。すると、技術部門は昔からの管理を引き継いでいるだけで、評価結果を利用していないようです。更に、評価結果は既に技術部門の承認を得ているので、技術部門のシステムを通さず、直接設備リストに登録してよいことがわかりました(あるべき設計)

つまり、技術部門と製造部門で評価結果を二重管理してしまっています(課題抽出)。これによりムダなデータの流れが発生し、業務に問題が起きていました。まず、技術部門が評価結果をシステム登録するまで、製造部門が設備リストを更新できず、ムダな待ち時間が発生していました。また、技術部門の入力もれによって、製造部門が設備リストを更新できず、技術部門に問い合わせる手間が発生していました。

このような課題を解決するためには、評価結果が直接設備リストに流れるように、データの流れを変えることが必要です。更に、Excelの設備リストをデータベース化することで、今まで通りデータを蓄積することができます(改善方針策定)

②メタデータ管理

メタデータとは、データを説明するためのデータです。例えば図書館で本を探すとき、タイトルや著者名から探しますよね。欲しい本を探して、手に取った本が探していた本と同じであると判断するための情報を、メタデータといいます。メタデータ管理の目的は、誰が見てもデータの意味がわかる状態を維持すること、データを検索しやすくすることです。メタデータ管理には2つの視点があります。

まず、細かい「データ項目」ごとの視点で、項目名称や意味など詳細情報を管理します。データ項目とは、テーブルやExcelファイルのカラム名を指します。更に、より大きな「データソース」ごとの視点で、ファイル名称や形式など基本情報を管理します。データソースとはデータの保管場所であり、システム内のテーブルやExcelファイルを指します。

メタデータ管理では、異なるデータソース間でデータ項目がどう関係しているか、「データ項目関連図」で見える化します。下図の左では、データMAPで示した設備リストと配台計画のファイルについて、データ項目の関係性を見える化してみました。

設備リストと配台計画の品名に着目します。設備リストでは“品名”、配台計画では“配台品名”というデータ項目が使われていることがわかります。データの中身を見ると、“配台品名”のコード(A)は、“品名”のコード(XYZ_A)の略称に見えますね。担当者に聞いてみると、配台計画を立てやすいようにコードを省略しているだけで、データ項目名は違っても、同じ製品を指しているようです(現状の可視化)

現場担当者からするとただの略称でも、外部の人は同じ製品だとすぐにわかりません(課題抽出)。他部門の人が稼働状況を確認したくて配台計画を見ても、どの製品を指すかわからず、誤った解釈をしてしまう等のリスクがあります。

目指すべき状態は、 “配台品名”は“品名”の略称であることが、経験や知識によらずわかる状態です(あるべき設計)

これを実現するために必要なのが、上図の右で示している意味定義表です。意味定義表ではデータ項目名と、意味を管理します。更に、前述のデータソースの基本情報(名称や形式、格納先など)も、意味定義表で管理します。例えばある工程の配台計画を使いたい場合、意味定義表を参照することで、欲しい配台計画がどこにあるか検索し、データ項目の名称や意味を理解することができます。また、今回は単純な略称でしたが、データ項目の複雑な変換が発生している場合は、変換表を作成する必要があります(改善方針策定)

③データ品質管理

データ品質とは、データ活用者の要求(品質基準)を満たす度合いです。データ品質管理の目的は、現状のデータ品質が品質基準を満たしているか評価・改善を行い、高品質で維持することです。データ品質管理では「品質チェックシート」を使って、品質を管理する項目ごとにデータ品質を評価します。

先ほどのデータMAPで示した設備リストの評価結果について、品質を管理する項目の一つである「最新性」について詳しく見てみましょう。

最新性とはデータの鮮度を管理する項目であり、設備リストの評価結果の更新頻度を指します。ある工程での更新頻度を調査すると、3か月に1回しか更新していないようです(現状の可視化)

設備の種類や新旧によって評価の頻度は異なるので、更新頻度が高ければいい、というわけではありません。毎日更新といった無理な品質基準では現場の負担となり、活動を維持することができません。データ活用者の求める更新頻度はどの程度か、妥当な要求か、を整理する必要があります。設備リストの利用者が求める更新頻度を調査すると、1か月ごとであることがわかりました(あるべき設計)

よって、今の評価結果データは品質基準を満たしておらず、最新性が低いことがわかります(課題抽出)。最新性が低いと、他部門の人が古い情報を利用してしまったり、情報が合っているか実態を確認する手間が発生したりしてしまいます。

これらのリスクや手間は、更新ルールを策定・実行することで軽減されます。品質基準を満たすために、設備リストの更新ルールを決めて守ることで、最新性が向上します。②メタデータ管理でご紹介した意味定義表では、データに関する業務ルールも管理します。更新ルールを意味定義表に記入することで、データ活用者も更新頻度を確認することができます(改善方針策定)

ここまでの説明で、データの現状把握・施策検討の活動内容を、事例を用いてご紹介しました。データの流れ管理、メタデータ管理、データ品質管理の3つの視点で、データにアプローチすることがポイントです。これらの活動を定着化させるためには、仕組み・ルールづくりだけではなく、組織設計・人材育成も必要です。一体どのような組織体制で、誰が、どのような役割を担えばデータマネジメント活動ができるのでしょうか。第3回では、データマネジメント活動の方法論を動かす仕組みについてご紹介します。