このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2021年4月に掲載されたものを移設したものです。
前回の第3回ビジネスシーンで使える心理学では、人間関係の中で「魅力的な人」とは、について解説をしました。
今回第4回では、目から読み取る相手の心理を行動心理学の側面から解説予定です、と告知していましたが、前回の更新からずいぶんと世の中が変化していますので、内容を変更し、非対面におけるコミュニケーションポイントを行動心理学の側面から解説していきたいと思います。
ちなみに、第3回のコラムを執筆した後からこれまで、育児休暇をいただいていました。育児休暇の取りやすい環境もLTSには整っています。
はじめに
約1年前ごろから、新型コロナウイルスへの感染対策で働き方や人との距離が大きく変わりました。それ以前に執筆していたこのコラムでは、コミュニケーションを取る相手が目の前にいることを想定して、身近なビジネスシーンにおける行動を行動心理学の側面から紹介してきました。
しかし、今やリモートワークでパソコンの画面越しに、相手の上半身や時には首から上しか見えない状態が続いています。その状態では、以前紹介した、「おへその向きからわかる心理」や「足を組み直したり閉じたりする人の心理」を確認することが難しくなります。パソコンの画面に映る範囲も限られていて、通信状況で画面や音声が動かなくなってしまうこともありますよね。そのような中で、少しでもコミュニケーションを円滑にするためのヒントが、行動心理学の中にあるだろうか、と考えていました。
このような非対面の状態で、わたし自身「相手の気持ちや考えを正確に受け取ることは難しいな」と感じています。また、「自分の気持ちや考えを正確に伝えることも難しいな」と感じます。みなさんも、自分が思っていることがうまく伝わらなかったり、相手の思っていることが読み取りづらいなぁと感じたりすることはありませんか。
そこで今回は、リモートワークという非対面で使える「4つのかかわり技法」と「6つの相手を理解する技法」をビジネスシーンに置き換えて解説していきます。
この技法は、アレン・E・アイビィというアメリカのカウンセリング※1心理学者が考案したマイクロカウンセリング※2技法のうちの2つです。このカウンセリング技法はピラミッド型の階層表に分かれており、「4つのかかわり技法」は、ピラミッド型の最下層の一番基本的な技法です。これは、相手を理解するうえで一番基本的なコミュニケーションポイントということです。このベーシックな技法の上に、「6つの相手を理解する技法」があります。ピラミッドの階層はまだまだ上までありますので、興味のある方はぜひ調べてみてください※3。
また、このコラムではわかりやすいようにピラミッド内の言葉とは少し異なる表現をしています。
※2 マイクロカウンセリング…1990年代にアイビイ(Ivey, A. E)とその共同研究者によって開発されたカウンセリング手法
※3マイクロ技法の階層表(micro skills hierarchy)
4つのかかわり技法
まずは、「4つのかかわり技法」についてみていきましょう。この技法はカウンセリングにおいて、導入部分の信頼関係構成の際に用いられます。これをビジネスに応用して、相手への理解・共感を深めるためのポイントとして解説します。
1.視線
これは、視線の配り方に留意しましょうというポイントです。
相手に長い間直視されたり、逆に、長い間目が合わなかったりし、不安を感じたことはありませんか。視線は上半身全体にまんべんなく配ると、自然な印象になるといわれています。対面・非対面に関わらず、会議などの場で資料ばかり見て、相手を見ることを忘れないようにしたいですね。
パソコンの画面越しに目を合わせることは難しいですが、そちらに関心を寄せていますよ、という意図を伝えるためにも、自分の視線に気を付けてみましょう。
2.声の調子
これは、自分の声のトーンと話の内容に差異がないか、留意しましょうというポイントです。
相手から読み取れるジェスチャーが少ない分、声から読み取れる情報は多いといわれています。高い声や低い声が、気持ちや心の状態を反映しているからです。もちろん個人差はありますが、普段自分の声のトーンを把握し、高くしたり低くしたりすることで相手に与える印象がどう変わるか、試してみるのも面白いですね。
3.ジェスチャー
これは、相手のしぐさや表情から読み取れる内容がないか、留意しましょうというポイントです。
今回はパソコン画面に映る範囲で、という条件付きです。そんなに広くないな、と感じるかもしれませんが、第1回のコラムで取り上げた「手の位置」を始め、首の動かし方・表情はとても多くの情報を発信しています。
自分の表情に気を配るのは難しいですが、何気ない表情で相手に不安感を与えないようにしたいですね。こちらについては別途コラムを設け、詳しく解説したいなと考えています。
4.言語的追及
これは、相手が答えやすく、話しやすいような質問をするように留意しましょうというポイントです。
「質問力」と呼ばれたりもするようですが、質問の仕方によっては会話が続かない時もありますよね。相手との会話の前にどのような質問をすると、相手が答えやすいか、自分ならどう聞かれたら答えやすいか、立場を置き換えて考えてみるのも参考になるかもしれません。
6つの相手を理解する技法
次に「6つの相手を理解する技法」についてみていきましょう。
この技法はカウンセリングにおいて、クライエントへの理解・共感を深める際に用いられます。こちらもビジネスに応用して、相手への理解・共感を深めるためのポイントとして解説します。
1.沈黙
これは、相手が沈黙しているとき、それは自分にとって相手を洞察できる大切な時間だということです。
会話の中で沈黙があると、なんだかぎこちない雰囲気になりますよね。しかし、この技法の中では、その時間は相手のことをよく洞察するとても大切な時間だといわれています。もちろん、じーっと洞察するのではなく、うなずきや視線の移動と合わせて、相手が何を言いたいのか・何を考えているのか理解しようとする姿勢が大切だということです。これが、相手にも伝わると「自分を理解しようとしてくれている」と思ってもらうことができ有効な時間になります。
わたしも、沈黙の間はモゾモゾしてしまう癖があるのですが、その時間を相互理解のために使うことができるようになりたいです。
2.相槌
これは、相手に対して適切な相槌を打つことで、相手に「受け止めてもらえている」「自分のことを理解しようとしてくれている」と感じてもらうことです。
以前、同じプロジェクトにアサインされていた先輩は、この相槌がとても上手でした。話している側は気持ちよく話を進めることができ、沈黙の間でもぎこちない雰囲気にならないのです。業務中も普段の会話でも、同じでした。プロジェクトの現場のお客様からも大きな信頼を得ている先輩でした。わたしも長い間お手本にしているのですが、なかなか難しいなと感じます。
3.くり返し
これは、相手の言葉をくり返しことで、相手の気持ち・考え・価値観に注目することです。
これによって相手が「自分を理解しようとしてくれている」と感じ、コミュニケーションが円滑になることが期待されます。また、相手の言葉をくり返すことで、相手が自分の言葉を客観視することもできます。
4.ドアオープナー
これは、相手の気持ち・考え・価値観をより具体的に掘り下げる質問をすることです。
ここで用いるのは、前述「4つのかかわり技法」の『4.言語的追及(相手が答えやすく、話しやすいような質問をするように留意しましょうというポイント)』です。
一般的に質問には2種類あり、オープンクエスチョン(答えを相手に委ねる質問)とクローズドクエスチョン(答えがYesかNoになる質問)があり、この場合は前者の質問の仕方が推奨されます。そうすることで、相手にも気づきが生まれる機会ができるそうです。
5.要約
これは、前述の繰り返しに似ていますが、こちらは相手の話した内容を要約し、短いセンテンス文で返すことです。
わたしにも経験がありますが、自分の話していることにまとまりがなくなり、着地できなくなることはありませんか。そんな時に相手が自分の話をまとめて、返答してくれると「そうそう!そうです!ありがとうございます!」と思いますよね。これができるような人になりたいですが、まだまだ道のりは長そうです。
ここで注意が必要なのは、自分の意見や解釈を付け加えないことです。あくまでも、相手の言葉のみを要約します。
6.気持ちを汲む
これは、相手の感情のグラデーション(時間的な気持ちの移り変わりや感情の強弱)を感じ取ることです。
会話をしていると相手から感情を表すようなワードがでてくることがあります。その場合に、その言葉から背景にあるものに注目し、共に感情を味わっていることを伝えると、相手は自分のことをより深いところで受け止めてくれていると感じることができるそうです。
「すごくうれしく感じた」という言葉に対し「○○(嬉しく感じるまでの過程や背景を先の会話から引用する)だから嬉しく感じたんですね」という具合です。相手のことを理解・共感するという視点では、この返答が相手に安心感を与えることは、何となく想像がつきますね。
まとめ
今回は、非対面におけるコミュニケーションポイントを、マイクロカウンセリング技法のうちの2つを用いて、ビジネスシーンで使えるよう、行動心理学の側面から見ていきました。
もちろん、非対面でなくても用いることができます。わたしたちLTS社員も、日々変化する世の中でも試行錯誤を繰り返し、お客様により良い価値を提供できるように努めています。会議が対面からリモートになっても、ビジネスにおける一つの会議という位置づけや重要性に変化はありませんので、そこをよりよい場にするための努力はこれからも続けていきたいですね。
次回は、リモート会議でも読み取れるしぐさや表情について解説予定です。今回もお読みいただきありがとうございました。
ライター
自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)