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デジタルテクノロジー

RPAの現状と本格展開に向けた課題 効果を出すRPA導入からAI活用に向けた一手(前編)

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2019年12月に掲載されたものを移設したものです。

ライター

髙橋 賢人(LTS マネージャー)

業務変革PJに従事し、プロセス可視化・工数計測、業務分析・課題抽出、KPIフレームワーク設定等を経験。その後、一連のRPA導入支援に携わる。近年、製造業におけるデータマネジメントの構想策定、標準ルール策定、人材育成プログラム構築に取り組んでいる。(2021年6月時点)

こんにちは、LTSコンサルタントの高橋賢人です。2019年現在、多くの国内企業がRPA導入に着手しています。国内における働き方改革の特効薬として注目を集めているRPAですが、RPA導入検証を経た後、本格展開がなかなか進まないといった悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。本コラムでは、効果を出すRPA導入・拡大からAI活用に向けた次の一手と題し、第1回では「RPAの現状と本格展開に向けた課題」について、第2回では「RPA導入の本格展開を成功に導くポイント」について、第3回では「デジタル変革に向けた次の一手としてデータ活用の進め方・ポイント」についてご紹介します。

RPAの現在地

まずは、RPAがブームとなった背景を見てみましょう。1つ目は、生産労働人口の減少です。労働人口は、2025年までの5年間で約4%減少すると言われています。2つ目は、業務量の増加です。テクノロジーの活用による、顧客接点・サービス・決済方法等の多様化への対応が容易になりました。しかし、複雑化・細分化した業務パターンに対して企業内ITなどの仕組みの整備は遅れており、結果として人が対応する業務量は増加し、業務品質の担保も課題になっています。3つ目は、働き方改革です。2019年4月から、働き方改革が法令化されたことに伴い、休暇取得や残業時間に対するチェックは厳しくなっています。このような背景の中、働き手1人あたりの生産性を向上させる味方として、ちょうど良くはまったのがRPAでした。

RPAは、これまで人間が行っていた単純で反復的な業務を代わりに行ってくれるため、人間は判断やコミュニケーションの必要な業務に集中することができ、更に、付加価値の高い業務へシフトすることができるようになります。このように、人手不足解消、業務の生産性・品質・付加価値向上、残業時間・有休休暇に関する法令順守のための特効薬として、注目が集まりました。

国内企業のRPA導入割合(2019年1月時点)
RPA国内利用動向調査(MM総研, 2019年1月調査、https://www.m2ri.jp/news/detail.html?id=336

MM総研の調査によりますと、2019年現在、RPAを「導入済み」の企業が32%、導入検証を含む「検討中」の企業が36%と、合わせて7割弱の企業が何らかの形でRPAを試していることがわかります。

RPAが急速に普及した背景

このように、RPAが急速に普及した背景について、私たちLTSは主に3つの理由があると考えています。
1つ目は、単純業務の自動化による工数削減という分かりやすい効果が説明できたこと。
2つ目は、PC1台にRPA1体(無償~年間100万円以内)からスモールスタートでの検証が可能だったこと。
そして3つ目は、比較的操作性の高いGUIのため、IT専門知識のない社員にとってもハードルの低いソフトウェアだったことが考えられます。

これまでコンサルティング会社という立場で様々な企業様の業務改善に携わった経験がもとになりますが、業務可視化や工数計測という地道な業務改善の取り組みには「定量的に改善活動の効果を説明しにくい」という特徴があります。その点でRPAは予測値であっても定量的な工数削減効果の説明がしやすいため、説明する側と投資する経営側の双方にとって実行のハードルを下げることができました。

また、業務の改善手段として活用されてきたITツールの導入は、一度の投資が高額になるため、こちらも意思決定のし難さにより導入を見送ることがありました。さらに、これまで「ITはIT部門の人がやってくれるもの」という認識がありましたが、RPAは現場主体での検証のハードルが低かったこともあり、現場の社員でも抵抗なく受け入れることができました。これら、定量的な効果の説明と理解の容易さ、投資の意思決定のし易さ、IT知識の高くない現場での活用のし易さ、の3つの点が活用のハードルを下げた結果、急速な普及を後押ししたのではないかと考えています。

RPA導入企業の悩み

一方で、RPAの検証を終え拡大展開に入った企業からは「効果が出ない」「拡大展開が進まない」といった声が聞こえています。
このように、拡大展開が進まない原因は次のような点が考えられます。1つ目は「RPA人材不足」、2つ目は「RPAを“そのまま”適用できる業務が少ない」、3つ目は「社内関係各所がRPA導入に懐疑的で協力を得られない」です。それぞれを詳しく、見ていきましょう。

①RPA人材不足

現在、外部のRPA開発人員の確保が難しくなっています。これは、現場での爆発的な広がりに対し、外部ベンダーの人材の育成が間に合っていないという背景があります。また、確保できたとしても、外注コストが効果に見合わない、といった課題も見えてきています。そもそも一般的なシステム開発等と異なり、RPAは1体ずつ作る必要がありますのでスケールメリットが効かず、発注側にとっても外部ベンダーにとっても、外注で全てをまかなうことは得策ではありません。

そして、最も問題になるのが、運用コストが新規開発予算を圧迫するということです。RPAの運用コストは、ロボットの数に比例して増えていきますので、運用まで外注で賄うとなると、予算はかつかつになるでしょう。結果、新規ロボの数が増えず、拡大展開が進まないという結果になります。RPA人材の確保が難しくなっている今、増え続けるロボを運用しながら、効果に見合ったコストで新規開発を進めることが難しくなってきているのが現状です。

②RPAを“そのまま”適用できる業務が少ない

多くの場合、未整備の現行業務は、取引先や商材によってフォーマットが異なる、担当者による手順のバラつきなどの課題があります。それらは、人間にとってはやりやすいものかもしれませんが、ロボットにとっては困難なプロセスになっていることが多く“そのまま”RPAを適用できるケースは多くありません。また、仮に現状業務をそのまま置き換えたロボットを量産した場合、個別最適の「その場しのぎのロボ」が乱立し、全体最適の観点から非効率になってしまう可能性があります。そうなった場合、システム刷新や業務変更に対応できず、ロボが使われなくなってしまう、他の担当者や他部門に横展開できない、といった課題が発生します。個別最適なロボの量産によってロボットの数では一見拡大しているように見えるかもしれませんが、効果の観点、また、長い目で見れば、拡大展開が進まないのです。

③社内関係各所がRPA導入に懐疑的で協力を得られない

RPA導入にはいくつかのリスクが想定され、それらのイメージから社内関係各所が懐疑的になり協力を得られないといったケースがあります。まず考えられるのが業務停止リスクです。ロボットの実行した結果が間違っている、または間違った箇所を特定できずリカバリーできないといった状況や、実行端末(画面/OS)や関連システムの更新によって突然ロボットが動かなくなるというようなことが想定されます。また、改修が必要な時に元の作成担当者が不在でブラックボックス化してしまったり、稼働状況を把握できない“野良ロボット”が横行してしまうこともリスクとして存在します。さらに、ロボットが使用するID/パスワードが不正に盗まれ、なりすましてシステムに侵入し、最悪の場合、個人情報や秘匿情報の外部流出につながってしまう、ロボットが不正に改修または利用されシステム内データの改ざんなど悪意のある攻撃にさらされてしまう、などの不正アクセスや情報漏洩リスクも考えられます。

多くの場合、ロボットを1人の人格ととらえて、社内システム上でのデータの入出力を実行させますが、ロボットというロールは、既存のIT規定で定義されていないものであるため、ロボットが実行した業務の責任のあり方や、ロボットが停止した場合のリカバリー方法が定められていません。結果、上記のような想定リスクを恐れ、システム管轄部門や監査部門から待ったがかかってしまうことがあります。しかしRPAは、社内の複数のシステムにまたがって働くときに真価を発揮するため、システム管轄部門や、監査部門との連携は必要不可欠です。

ここまでが第1回となります。実際にRPA導入を成功に導くポイントについては第2回でご紹介します。