このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2020年1月に掲載されたものを移設したものです。
ライター
業務変革PJに従事し、プロセス可視化・工数計測、業務分析・課題抽出、KPIフレームワーク設定等を経験。その後、一連のRPA導入支援に携わる。近年、製造業におけるデータマネジメントの構想策定、標準ルール策定、人材育成プログラム構築に取り組んでいる。(2021年6月時点)
本コラムの第1回と第2回では、RPAの現状と本格展開を成功に導くポイントについてご紹介しました。
今回の第3回では、このようなRPAやAIなどを含めたデジタルツールを活用している、またはこれから導入を検討している企業へ、デジタル変革に向けた次の一手としてツール活用の進め方・ポイントについてご紹介します。
1.デジタル変革の流れ
デジタル変革で業務のあり方が変わる
現在に至るまで、アナログからデジタルへの変化は段階的に進展してきました。昔は手書きだったものが機械を使った文字入力に置き換わることで再利用や保管が容易になり、手紙は電子メールに置き換わり情報伝達の時間はゼロに近づきました。企業内の情報が紙から電子データに置き換わったことで、現在は多くの企業の経費申請や給与明細なども電子化されていると思います。紙の給与明細や給与の現金支給を実際に経験したことがない人も増えてきました(ちなみに私も経験がありません)。これらの変化によって、給与計算後に行われていた給与明細の印刷や現金の取り扱いといった作業は姿を消しました。デジタル化による生産性の向上の分かりやすい一例だと思います。今後、未来に向けて更にデジタル化は進み、自動化やデータ活用による予測・分析につながることが予想されます。情報の伝達はメールやSNSなどデジタルツールを使うことが当たり前になったように、人がRPAやAIと協働して業務を担うことが当たり前の時代が来るのではないでしょうか。
デジタルシフトが必須となる時代に
まず前提として、デジタルツールの活用は目的ではなく手段であり、企業の目的は事業による顧客への提供価値を向上させることです。しかし、前述した通り事業運営にデジタルを活用していく流れは効率化・生産性向上に向けて必須の命題になっています。従来はアナログからデジタルへの移行が比較的緩やかに進んでいましたが、現在は変化の速度が加速する中で、すでにデジタル化している企業内外のデータや今後新たに生まれるデータをどう扱うかが、業界での生き残りを分ける時代になっています。
1980年代まで世界一のシェアを誇っていたアメリカの巨大小売企業「シアーズ」は、80年代後半から90年代にかけて、同じくアメリカの小売大手である「ウォルマート」に追い抜かれ、ついに2018年10月に事実上の倒産となりました。デジタルシフトの流れに乗れなかったことが倒産に至った大きな原因の1つであり、それはシアーズに限った話ではありません。Amazonが驚異的な成長を見せる一方で、デジタルシフトに消極的な企業は著しく業績を落としています。技術革新とデータ活用によるイノベーションにより、既存業界への外からの新規参入が相次いでいます。
2.デジタル変革の次の一手とは
企業を取り巻く環境が激しく変化する中、既存業務の自動化・効率化だけでは新たな判断材料を見出し、さらなる提供価値を生み出すことが難しくなってきています。このようなデジタル時代の中で企業が生き残り今後も成長していくには、①変化に柔軟・迅速に対応すること(ビジネスアジリティ)、②データを活用して新しい価値を生み出すことが求められる、と考えています。
1つ目の、変化への柔軟・迅速な対応(ビジネスアジリティ)については、別のコラムで紹介していますので、興味がある方はそちらをご覧ください。
このコラムでは、タイトルにあるようにRPAやAI活用に向けた打ち手として、2つ目のデータ活用について考えていきます。
データ活用の目的とは何でしょうか。例えば顧客データであれば、営業プロセスやサービスの改善に活用できると思いますが、そのような活用には「必要な人が、必要な時に、必要な形で情報を取得し、適切な判断や、新たな発見につながること」までができる状態が前提となります。さらに企業にはさまざまなデータがありますので、目的に合わせてデータを可視化・予測・最適化することによって、業務効率化を助けたり、経営判断を助けたり、顧客体験価値を向上させるなどに活用することができます。
それでは、データの活用をRPAやAIといったデジタルツールを通して見てみましょう。業務効率化の観点でのデジタルツール適用領域は、大きく3つに分類されます。1つ目は「非デジタル化領域・非定型業務の自動化」、2つ目は「判断業務・経営判断のサポート」、3つ目は「業務可視化・分析のサポート」です。これを1枚の絵にすると下図の「AIとRPAの適用領域の棲み分け」のようになります。
絵の上部中央には、これまで皆さんが自動化してきた定型業務があります。定型業務を中心にして、左にある「非定型業務」、右にある「判断/承認業務」、そして中央の「データ基盤」を挟んで下に「業務分析・改善」といったプロセスが考えられます。最近はAIとRPAがセットで語られている事例やソリューションが増えているように感じますが、上図のように適用領域を整理すると、RPAとAIは必ずしも延長線上にあるわけではありません。適用する業務やデータ活用の目的に応じて組み合わせることによって、それぞれの強みを高めることができます。
組み合わせの例を挙げると、RPAは紙や音声、自然言語といった非定型なデータについては読み込めませんので、AI-OCRやAIチャットボット、ワークフローなどを使ってデジタル(構造化された)データにしてから、RPAが処理を行うといった活用方法があります。「判断/承認業務」では、AIを利用した判断業務のサポート、様々なデータをBIツールで統合し意思決定の材料とするなども考えられます。さらに今後は、ワークフローやグループウェア、業務アプリケーション、基幹システムといったデータ基盤上の情報を「業務分析・改善」につなげ、業務プロセスを可視化・問題箇所の抽出や改善プロセスの提案といった形で、新しい業務プロセス、あるべき業務プロセスを作成し、それをRPAで実行させるという世界になっていくのではないでしょうか。
3.データ活用の取り組みの進め方
それでは、実際にデータ活用の取り組みをどう進めていけばよいのか、について考えてみたいと思います。データの活用に必要な要素は、1.データ活用の目的や活用シーンの想定、2.活用できる整備されたデータの存在、3.データの基盤となるシステムやツール、そして4つ目にデータの取り扱いができる人材です。すべての要素を完璧なレベルにする必要はありませんが、欠けている要素が1つでもあるとデータ活用は成り立ちません。
データ活用を視野に入れた取り組みを検討した際、特に多いのはデータが整備されていないためにデータ活用がうまくいかないケースです。データは大量にあるが活用に必要な属性情報が不足して使えない、データが個人持ちや部署持ちのために他のデータとの連携ができない、クラウドサービスにデータをためているが各所で統制のないままデータ入力されており、正しいデータが分からない等といった状況が多く見られます。また、ツールの選定が先行してデータ基盤やBIツールを導入したものの、肝心のデータがリアルタイム化できておらず、最新の情報を把握できない、といった話もよく聞かれます。
これらの問題は、経営トップから「データを有効活用して成果を上げろ」との指示を受け、現場がデータ活用の目的が不明確かつ現状データを精査しないままに取り組みを進めてしまうために起きる事象です。このような状況に陥るのを防ぐには、データ活用を適切なステップで進める必要があります。以下にデータ活用のステップを例示していますが、データ活用の取り組みも業務変革と同様のステップを経て、必要な要素を網羅することが重要です。
このステップを初めから大きな目標に向かって取り組むことは難易度が高く、ステップが進む前に取り組みが頓挫してしまうため、できることからスモールスタートで始めていきます。既に活用しているツールとそのデータで小規模な範囲から開始し、徐々に規模とレベルをアップしていく方法が現実的な進め方だと思います。実際にLTSが支援しているお客様のデータ活用のケースでも、最初はすでにある基幹システムのデータを利用しBIツールで定型的な分析帳票を利用するところからスタートし、徐々にユーザの要望を取り入れることで改善・成功事例を積み重ね、さらに外部データやデータ分析を利用した予測まで実現しています。
4.データ活用もトップダウンとボトムアップが重要
ここで我々が重要と考えているポイントは、データ活用においてもトップダウンとボトムアップのアプローチが必要だということです。素早くPDCAを回しデータ活用を改善・スケールアップしていくには、素早い現状把握と素早い施策実行が必要になってきます。現状業務の可視化や課題の発見は現場の視点が必要ですので、現場の協力なしには取り組みが進められません。またデータ収集や蓄積、統合といった、活用できるデータの整備も現場の業務(必要に応じて業務の見直し)を軸に進めていくべきだと考えます。一方でトップダウンでしか実現できないこともあります。データ活用のゴール、KPIの設定、あるべきデータの流れや業務の設計、データを収集・蓄積・統合・活用するための施策・ツール・基盤・人材の検討といったところは全体最適でしか進められないためトップダウンで取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。
5.まとめ
データ活用においてもトップダウン、ボトムアップの融合が成功の鍵となります。特に、ボトムアップの現場の業務改善への意識変革や、テクノロジー・データに関する社員全体のリテラシー向上という観点では、RPAの活用をスタートとして延長線上にデータの活用もできる組織作りがあるのではないかと考えています。全社最適、かつ変化に対応したスピーディな検証サイクルが求められるこれからのデジタル変革の取り組みでは、”人”づくり”と組織”づくりがポイントとなります。今後のRPA拡大展開、AI活用の参考にしていただければと思います。