このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を再掲載するものです。
当コラムは、書籍『ビジネスプロセスの教科書(東洋経済新報社(2015年7月24日)』に掲載しきれなかった内容をご紹介しております。
書籍では、ビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。また、著者がこれまでにお客様企業の現場で経験してきたビジネスプロセス変革の事例も多く紹介しています。ユーザー企業側で組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方はもちろんシステム開発やアウトソーシングベンダーの担当者の方も必見です。
ライター
世界中からビジネスアナリスト(BA)が集まるイベント「BBC(Building Business Capability)2015」とは
「BBC(Building Business Capability)」とは、カナダに本部を置く国際的なビジネスアナリシス(業務分析)の研究・推進団体IIBA(International Institute of Business Analysis)が主催するイベントで、毎年秋に開催されています。カンファレンス期間は3日間ですが、プレチュートリアル(カンファレンスに先立って希望者に行われる研修プログラム)を含めると5日間の日程になり、今年は2015年11月2日~6日(現地時間)にアメリカのラスベガスで開催されています。
日本から参加して驚くのはその規模で、3日間のカンファレンス期間中、9つのテーマごとに同時並行で合計100を超えるセッションが開かれ、会場は全世界から集まった1400人ものビジネスアナリスト(以降BA)達で埋まります。セッションは例えば「ビジネスアーキテクチャー」のようなかなりハイレベルな議論から、ユーザー事例の紹介、現場で使える業務分析テクニックの紹介、BAのキャリアにあたるものまで様々です。日本のビジネスアナリシスやビジネスプロセスマネジメントに関するカンファレンスも年々大きな規模になってきていますが、こちらの規模にはまだまだとてもかないません。
一説によれば北米には全体で13万人のBAがいると言われています(IIBAの全世界の会員は約3万人弱)。もちろん全ての人が「ビジネスアナリスト」という肩書ではないですが、総じて企業のビジネスプロセスを変革していく役割で、エンジニアではない人がこのくらいの規模で存在していることになります。一方で日本にBAが何人いるかといいますと、正直なところ数えること自体が困難です。日本でもBAという役割は徐々に知られるようになってきており、社内にこのような役割を置く企業もちらほら見られるようになってはきました。しかし、それでも認知度はかなり低くまとまった統計のようなものはありません。日本だと、例えばシステム開発プロジェクトにおけるBAはユーザー側の業務担当者、プロジェクトマネージャー、システムエンジニアといった人たちの誰かが兼務で行っていることがほとんどで、専門職がこれを行うという発想はあまりないのではないでしょうか。
ビジネスアナリストを取り巻く環境の日本と北米の違い
日本のカンファレンスと比べて違いがあるのはその規模だけではありません。来場しているBAたちの様子も日本とは大分、違います。
まずカンファレンス参加者の大半はアメリカやカナダの一般企業や行政機関に所属して、自社のビジネスプロセス変革を役割としている人たちです。日本でこの種の役割を担う方はコンサルティング業界、IT業界など専門サービス会社に所属していることが多いのですが、ここではこのような会社に所属する方は少なく、いたとしても協会関係者や講演者、出展しているブースの担当者が大半です。一般企業の中では特に証券や保険、ローンといった金融業界が多く、これは北米で金融サービスが盛んなこと、金融サービスはその業務の性質上、多くの事務処理を抱えておりビジネスアナリシスの必要性が高いことなどが背景にありそうです。
全ての北米企業に当てはまるわけではないですが、多くの企業でBAと呼ばれる役割の社員が定常的にいて、自社のプロセス変革やIT化推進を進めています。例えば日本でも製造業であれば品質管理や生産管理の専門家を自社の社員から育成している会社が多いと思いますが、同じような感覚で社内に「ビジネスアナリスト」と呼ばれる肩書の人たちがいるのです。
BAの所属も日本と違いますが、ちょっと驚くのは女性の多さです。感覚的には参加者の5割~6割が女性です。今回、日本から2人の女性社員も同行しており、彼女たちに北米のBAたちといろいろと会話をしてもらいました。「こちらのカンファレンスに女性が多いことに驚いた」と言うと、返ってきた回答の大半は同じで、なんと「なぜ日本はそんなに男性ばかりなのか?」という逆質問でした。こちらではBAチームや、社内のITチームの大半が女性であることも珍しくなく、ある方の所属するITチームは約30人近いチームの3/4が女性だそうです。もちろん女性であることで何か困ったり、苦労したことと言われても「思いつかない」とのこと。弊社LTSは入社者の約1/3が女性ですが、日本に女性のBAはまだきわめて少なく、ロールモデルがいないことや、働く環境が必ずしも整備されていないことは常に社内で話題になります。こちらの女性BAの回答を日本の状況と比べると、いろいろ考えてしまいますね。
こちらにはこちらの悩みがある
日本に紹介される北米のBAの様子は華々しい話が多いように感じます。「13万人のBAが活躍している!」といった話が代表例です。確かにその通りで、こちらはBAという役割も、その活躍の場も、キャリアも日本よりはるかに確立されている・・・とは思います。しかし実はこちらでもまだ「BAとは何者か?」という議論は終わっていません。実際、人気なセッションは「BAってどんな仕事?」とか「BA、PM、EA、BRM、それぞれ何が違うのか※1」といったBAの仕事について理解を深めるセッションです。BAと一口に言っても、IT部門出身、ユーザー部門出身などいろいろな出自があり、それぞれが持っている得意分野も違います。
BAに限らず、ストラテジスト、PM、EA、ITエンジニア、近年現れたBRMなど企業変革に携わる人の専門性は議論すればするほど曖昧になりがちです。役割を全うしようとすると最後は戦略への理解、ビジネスプロセス、IT、そして人と組織の要素のどれもが切り離せなくなります。ですからITサイドの人もプロセスや人について学ばないといけないですし、ユーザーサイド出身のBAだからといってITに無知で言いわけはありません。日本よりも専門性がキャリアの安全性に直結するお国柄ですから、こちらはこちらで「自分達は何者だろう?どこまでやればいいのだろう?」という悩みを抱えながら日々の仕事に従事しているのです。その他にも「ユーザーから言われたことだけをする受け身のBAではダメだよね」とか「活動に経営の理解を得られない」とか日本でもおなじみの苦労話は多く、いくら北米は進んでいるといっても同じ人間、そして同じ企業組織の話なのだと思わせられることも多いです。
あなたもBBCに来てみませんか?
別にIIBAの宣伝をするつもりはありませんが、私は企業のプロセス変革に関わる仕事の方は一度こちらのカンファレンスを覗いてみることをお薦めします。数多くのセッションたちはとても魅力的ですが、実は個々のセッションはビデオで公開されていたりもするので、必ずしもこちらにこないと受講できないというものではありません。費用も安いものではありません。
ただ、日本と比べものにならないその会場の盛り上がりを感じたり、見渡した時の女性の多さに驚いたり、多くの人との会話することで示唆を得たりというものはこちらにこないと分からないものです。私は海外のカンファレンスは、セッションから直接学ぶことだけでなく、会場の雰囲気やそこに集う人たちの様子を「感じる」ことがとても大切だと思います。知識を得るだけでなく、自分の視野や世界観を広げるという意味で、是非一度会場に足を運ぶことをお薦めしたいです。ちなみに今年のBBCの日本からの参加者は知る限りだと弊社LTSからの参加者三人と、IIBA日本支部の理事の方の二人、計五人でした(もしかすると他にもいらっしゃったかもしれませんが)。
日本ではまだビジネスアナリシスやビジネスプロセスマネジメントに従事する専門職の認知度は低いですが、それでも徐々にその必要性が認識されだしています。こちらの様子にも学びながら、日本におけるBAの必要性という仕事にもっと光が当たること祈っています。私も残す一日のセッションをしっかり聞いて、日本に戻り次第、こちらでの学びをまとめて社内外に紹介していくつもりです。
ビジネスプロセスの教科書
本書ではビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。あらゆるビジネスパーソンにとって有益な一冊となっていますが、中でもこれから組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方には特に参考になる内容が詰まっています。
著者:山本 政樹
出版社:東洋経済新報社(2015年7月24日)