このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年8月から連載を開始した記事を再掲載するものです。
当コラムは、書籍『ビジネスプロセスの教科書(東洋経済新報社(2015年7月24日)』に掲載しきれなかった内容をご紹介しております。
書籍では、ビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。また、著者がこれまでにお客様企業の現場で経験してきたビジネスプロセス変革の事例も多く紹介しています。ユーザー企業側で組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方はもちろんシステム開発やアウトソーシングベンダーの担当者の方も必見です。
ライター
ビジネスプロセスの定義とは?
「BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)」という言葉を生み出したマイケル・ハマーは著書の中で、ビジネスプロセスを「最終的に顧客に対する価値を生み出す一連の活動」と言っています。私はこれを少しアレンジして「お客様に始まりお客様に終わる価値提供のライフサイクル」と定義しています。
ビジネスプロセスはいくつもの業務の集合体です。それぞれの業務はインプットとなるモノや情報に処理を加えて、より価値のあるモノや情報をアウトプットとして送り出します。後工程の業務はそのアウトプットにさらに手を加えて、価値あるものに変化させていくことを繰り返し、最終的にはお客様に製品やサービスが届きます。この一連の流れを「ビジネスプロセス」呼びます。
ビジネスプロセスの終着点がお客様なら、出発点もお客様です。企業はお客様に何等かの価値を提供し、その対価を得ることで成長していきます。ということはお客様の課題や期待、いわゆるニーズこそがビジネスプロセスの出発点になります。製造業でいえばニーズに基づいて企画した製品を生産し、販売することで、最終的にお客様に価値が届きます。このようなお客様に始まりお客様に終わる価値提供のライフサイクルこそがビジネスプロセスの本質なのです。ですから自社のビジネスプロセスを語るとは、自社がお客様に価値を提供する仕組みを説明することに他なりません。
ビジネスプロセスの骨格を成す「業務」
ビジネスプロセスの構成要素で最も大切なものは業務です。なぜなら、ビジネスプロセスは幾つもの業務の連鎖で形作られているからです。では、業務とはどのようなものでしょうか。業務は必ず「インプット⇒処理⇒アウトプット」という構造でできています。例えば幾つかの業務を想像してみましょう。
どの業務もすべて「インプット⇒処理⇒アウトプット」という構造でできていることが分かります。このことから業務とは、インプットとなる物や情報を、何らかの処理を通じてより価値のある状態に変化させることだと理解できます。インプットとアウトプットにあたるのは人、物、金、そして情報です。組立作業は部品という物を製品という物に変えてアウトプットしていますし、会計処理は情報を処理して、さらに付加価値のある情報をアウトプットしています。そして各アウトプットは他の業務のインプットとして活用され、この連鎖は最終的なアウトプット(製品やサービス)がお客様に届くところまで続きます。
「業務」と「ビジネスプロセス」という言葉は似たような使い方をされるので、ここで自分なりの言葉の使い分けについて整理しておきます。私は、指している対象が複数の業務の集合体であるときは意識して「ビジネスプロセス」(もしくは略して「プロセス」)という言葉を使い、一方でプロセスを構成する特定の部品を特に抜き出す場合に「業務」という言葉を使っています。例えばマーケティングプロセスは主に広告宣伝やR&D(研究開発)といった業務で構成されています。この場合は「マーケティング」をビジネスプロセスと呼び、「広告宣伝」はビジネスプロセスを構成する業務と呼びます。ただ、広告宣伝という業務も発信コンテンツ作りや、発信する媒体(メディア)の選択、メディアへの入稿といったより細かい業務に分解することが出来ます。ですから広告宣伝という業務も業務の集合体である一つのビジネスプロセスと考えることが出来ます。この場合は「広告宣伝」がビジネスプロセスで、「発信コンテンツ作り」はビジネスプロセスを構成する業務ということになります。
ビジネスプロセスは「業務」「人」「設備」の三つから構成されている
さて、ここまでで業務の連鎖がビジネスプロセスの中核であることは、お分かり頂けたかと思いますが、実は業務とそのつながりをしっかり定義しただけではビジネスプロセスは価値を産みだしません。業務は目に見えない要件の集合体です。具体的には業務の手順やルール、必要とする設備、情報という形で表現されます。ですから、この指示に基づいて業務を実行する存在がなければビジネスプロセスは意味を成さないのです。この実行者になる存在が「人」と「設備」です。
「人」の代表はその企業の従業員です。正社員もいれば契約社員、アルバイトもいます。協力会社や子会社が参加していることもあります。業務処理を委託しているBPOベンダーなども「人」に含まれるでしょう。もう一方の「設備」の代表はオフィス、工場設備、倉庫といったものですが、情報システムやソフトウェア、ネットワークといったITも含まれます。人に対して設備の方が広い範囲に渡りますが、代表的なものを上げると以下のようなものになります。
建物・場所 : オフィス、工場、倉庫、店舗、その他業務の拠点となる場所全般
什器・備品 : 椅子、机、棚、文房具、作業服等の日常業務を支える備品
作業機械 : 自動車等の移動手段、重機や工場設備、工具等の工作機械
情報機器 : 情報システム、ネットワーク、PCやサーバーなど
ビジネスプロセスは、業務に定義された指示を人と設備のどちらか、もしくは両方が実行することで成り立っています。業務の実行者は必ずしも人とは限りません。工場のように生産設備が実行の主役となることもあります。この際、人は設備を監視したりメンテナンスしたりするなど、支援的な役割になります。逆にサービス業では人がお客様に直接サービスを提供することが多いですが、各種の情報システムがお客様情報を提供するなどして、人の業務実行を支援します。この場合、実行者は人で設備が支援側になります。このようにビジネスプロセスは業務だけでなく、実行者である設備や人もその要素となります。
これまでの一般的な定義では、設備や人は別の要素で、業務の連鎖の部分だけを指してビジネスプロセスの定義としていました。しかし、本書ではあえて設備や人といった要素もビジネスプロセスの一部としています。というのも、たとえば経営者が「ビジネスプロセスをもっと変革しないといけない」と言った時、それが純粋に業務だけの変革を指しているということはほぼありえないからです。業務だけを純粋により良いものに設計しなおしても、実行力が伴わず目指す効果を得られないことがありますから、情報システムの構築や社員の教育といった実行者の能力向上も合わせた変革案が期待されているはずです。このように、実際のビジネスの世界で「ビジネスプロセス」と言う場合は、設備も人も含めて「ビジネスプロセス」と呼んでいると考えた方が自然です。これが今回、私が業務、設備、人の要素をまとめてビジネスプロセスとしている理由です。気になる方は、ビジネスプロセスとは狭義では「業務の連鎖の構造」を指し、広義では「業務、設備、人といったビジネスの実行力の構造」と理解頂ければと思います。
以上、ビジネスプロセスの定義、そしてその構成要素を考えてみました。次回のコラムではビジネスプロセスとビジネスモデルの違いについて考えてみたいと思います。
ビジネスプロセスの教科書
本書ではビジネスプロセスとは何か、どのようにマネジメントすれば良いのか等をわかりやすく解説しています。あらゆるビジネスパーソンにとって有益な一冊となっていますが、中でもこれから組織変更、情報システム導入、アウトソーシング活用といったビジネスプロセス変革を行う予定のある方には特に参考になる内容が詰まっています。
著者:山本 政樹
出版社:東洋経済新報社(2015年7月24日)