このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年9月に掲載されたものを移設したものです。
ライター
ロボットの定義とは
最近、ドローン、AI、ロボットといった一昔前なら漫画やアニメの中の世界だった技術が実用段階に入ってきました。弊社にもお客様の依頼で先端技術の動向をリサーチしている社員がいます。その社員と最近「ロボットとは、はたして何者か?」という議論をしたのですが、これが意外とややこしい議論になりました。
ロボットと言われれば、私たちの世代(30代後半~40代前半)だと、まずロボットアニメの登場メカ、「ガンダム」とか「バイファム」とか「マクロス」とかを思い浮かべる方も多いと思います。彼らははたしてロボットなのでしょうか。Wikipediaによればロボットについて次のような定義が書かれています。
- ある程度自律的に連続、或いはランダムな自動作業を行う機械。例・産業用ロボット、軍事用ロボット、掃除用ロボット、搾乳ロボットなど。
- 人や動物に近い形および機能を持つ機械。『鉄腕アトム』や『機動戦士ガンダム』等のSF作品に登場するようなもの。いわゆる「人造人間」や「機動兵器」(広義のパワードスーツ・人間増幅器とも)など。
ただし同時に「ロボットが何を指すのか、という明確な定義は事実上存在しない。」という一文もあります。おそらく最も一般の理解に近いのはJISで定められている産業用ロボットの定義「自動制御によるマニピュレーション機能又は移動機能をもち,各種の作業をプログラムによって実行できる,産業に使用される機械。」でしょうか。
この定義のポイントは、ロボットとは「自動制御(ないし自律制御)」が可能なことと、なんらかの「駆動系」を持っていることでしょうか。ITが進化する以前のロボットのイメージはどちらかと言えば「自律」よりも人間の手足のような駆動系を持っていることに力点があったように思います。ですから「マジンガーZ」も「ガンダム」も紛れもなくロボットでした。
ガンダムは本当にロボットなのか?
ところが近年は少し様子が違います。「自律的」という部分に焦点を当てれば、手足がなくても自律的に動くプログラムやソフトウェアはロボットと考えることもできるからです。インターネットの「ロボット検索」が一番分かりやすい例でしょう。他にも、ゲームにおけるコンピュータが代理となるプレーヤー(BOT)や、iPhoneに入っているSiri(音声対話ソフト)なども初期的なロボットと言える可能性があります。ロボットとAIの違いを「駆動系」の有無で分けている研究者もいるのですが、私は正直この二つの境界はどんどん曖昧になっている気がします。
さて、こうなると一つの疑問が浮かびます。私たち現在30代、40代の男の子たちの憧れの的であった「ガンダム」はロボットなのか?という問いです。手足がありますから「駆動系がある」という条件を満たすことは説明するまでもありません。
問題は「自律制御」の方です。二足歩行をしている時点でかなり高度な制御はされているはずです。ロボットアニメでは起動前(電源OFF)のロボットが平気で二本足で立っていますが、あれは本来ありえません。何事もないように立ち続けるという行為自体が高度な機能だからです。人間だって立ちながら寝るのは至難の業です。ただこのレベルの制御を「自律」といってしまうと、フライバイワイヤによる中間制御なしでは飛べない昨今のステルス軍用機もロボットということになってしまいます。
おそらく「自律」の分かりやすいイメージは無人であるということでしょう。実際、産業用ロボットたちは事前の命令を前提に、基本的に無人で動きます。もし人が操縦していたらそれはロボットではなくパワーショベルのような土木機械や乗り物の仲間です。よって実はガンダムもロボットではなく乗り物の仲間ではないかと思われます※1。機動警察パトレイバーに出てくるロボット「レイバー」たちは、外見こそロボットですが、ストーリーの中での扱いはまさに乗り物です。人型をしていますが、用途は建設用の土木機械であり、ご丁寧に操縦者に免許が必要で、個々のレイバーはナンバープレートまでつけています。
ガンダムの最終回のシーン、いわゆる「ラストシューティング」は自律制御ではないか?とか言う人は嫌いです。
さて大変残念ですがこの時点で世の大半のアニメの主人公メカたちはロボットではなくなってしまいました。一方で、ガンダムF91に出てくる「バグ」とか、戦闘妖精雪風に出てくる「レイフ」などは手足こそありませんが、無人で自律的な行動が出来る明らかなロボットです※2。現在、米軍が開発している自律型攻撃機X-47などもロボットでしょう※3。
“B-503雪風”自体はむしろ生命体に見えます。
※3
ちなみに本来のドローンの定義とは「命令を受けて自律飛行する飛行物体(Wikipediaより)」で、コントローラー(プロポ)を使って操縦するドローンはどちらかといえばラジコンヘリの仲間です。最近はこれらもドローンと呼ぶようですが・・・。
ロボットアニメの主人公メカに真のロボットはどれだけいるのか
しかし希望を捨ててはいけません。アニメには操縦者がいなくても自律的に動くことが出来るロボットもたくさんいます。「鉄腕アトム」であり、「ドラえもん」であり、「モーターヘッド※4」であり、「SPTレイズナー」です。ざっと並べてみると、どいつもこいつもやたら高機能になりました。みんな喋ります。
漫画「ファイブスターストーリーズ」に登場する戦闘用ロボットで、第三巻で操縦者(ファティマ)と意思を持って対話をしています。最近、何もなかったようにGTM(ゴティックメード)に設定変更されましたが・・・。
同じサンライズ系ロボット(?)アニメで「ガンダム」との比較がしやすいので「レイズナー」を例にあげます。「レイズナー」とはサンライズのアニメ「蒼き流星SPTレイズナー」に出てくる戦闘用ロボットで、普段は操縦者がいてAI(人工知能)が操縦者を支援しています。そしてこのAIには表のAIと裏のAIがいて、自機がピンチになると操縦者の意図を無視して隠された裏のAIがV-Max※5と呼ばれる隠し機能を勝手に起動し、爆発的な戦闘力を発揮して敵を殲滅します。
ちなみに自衛隊でも使用しているF-15戦闘機にはV-Maxという機能があります。エンジン推力の短時間の、しかも微々たる向上と引き換えに、使用毎に面倒なエンジンの整備が必要ということで、全く使われない機能らしいですが。
(参照:http://www.masdf.com/crm/vmax2.shtml)
フォロンと呼ばれるこの裏のAIは明らかな自我を持っていて、操縦者の命令すら無視します。あげくに主人公と対決し、そして和解するというエピソードまであります。「自律制御」どころの騒ぎではなく、もはや「自我」です。こちらは先ほどの考え方だと乗り物ではなく、ロボットになります(人間に逆らう時点でロボット三原則すら満たしていませんが・・・)。
というわけで、このコラムの結論としては、なるほどガンダムはロボットではなく、レイズナーはロボットだったのか、なるほどなるほど、めでたしめでたし・・・。
・・・と言いたいところですが、こうなると別の疑問がわきます。レイズナーのような人間に近い自我を持つ存在は、もはやロボットではなく生命体なのではないかということです。と、話が急展開したところで次回「ロボットとAIと生命体に関する一考察 後編:レイズナーはもはや生命体である」に続きます。