このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2015年10月に掲載されたものを移設したものです。
ライター
こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。
先日、CEATEC JAPAN(シーテックジャパン、以降CEATEC)に行ってきました。CEATECは電気&電子産業の展示会で、日本を代表する製造業各社の最先端の家電や電子部品が展示されています※。今年はロボットが洗濯物をたたむ「自動洗濯物たたみ機」などが話題をさらいました。東京モーターショーなどと並んで日本を代表する展示会の一つで、テレビのニュースなどでも取り上げられるのでご存じの方も多いかと思います。
近年のCEATECの会場では「CPS」という言葉があふれています。CPSとは「Cyber-Physical System」の略で、ITと物理的なデバイスや機械を接続した高度システムのことを指します。今回のコラムではこのCPSという言葉と、似た概念であるIoT(Internet of Things)という言葉から近年のITの動向について考察してみたいと思います。
CEATECの会場にあふれるCPS(Cyber-Physical System)とは?
CPSの分かりやすい例としては、自動車の自動運転が挙げられます。自動運転ではセンサーなどから得た実体世界の情報(Physical)を高度なIT(Cyber)を駆使して駆動系(Physical)を制御します。ほかにもロボット、スマートグラス、ドローンといった近年の工業系トレンドの大半はこの言葉の概念におさまります。
先日、乗り物とロボットと生命の違いについて論じた通称「ガンダムコラム」を掲載しましたが、この中で、JISのロボットの定義では「自動制御(ないし自律制御)」が可能なことと、なんらかの「駆動系」を持っていることがポイントと書きました。この自律制御の部分が「Cyber」にあたり、駆動系の部分が「Physical」に当たります。
私はCPSという言葉を気に入っています。CyberとPhysicalという簡単な言葉の組み合わせですが、言葉から「ああ、つまりロボットのことだね」とか「センサーで得た情報を処理するシステムのことかな?」とか、示すものを具体的に想起しやすいと感じています(自分だけでしょうか?)。一方でIT系の用語、たとえば「クラウド」や「ビッグデータ」などは、その言葉を聞いただけでは一瞬、何を言われているかわからないと感じてしまうのは私だけでしょうか。
CPSとIoTは何が違うのか?
さてここまでの説明を聞いて、CPSとIoTは何が違うのか?と思った方も多いと思います。実際、CPSとIoTの概念はかなり似ています。これに関する論評はネット上にも溢れていますが決まった境目は存在しません。
自分なりの理解を話すとCPSは「Physical」、つまり物理的な要素とITが連携(融合)していることに重点が置かれているのに対して、IoTは「インターネットを介す」ということに重点を置いている気がします。例えば車の自動運転は、センサーから得た情報を車が自動的に処理して駆動系にフィードバックすることで実現されます。この物理的要素、つまりセンサー(Physical)というインプット機能を、人工知能(Cyber)のような処理(プロセス)機能を経て、エンジンや操舵といった駆動系にアウトプットするという「機械とITの機能連携」に重点を置いた表現がCPSです。
これまでのITの文脈ではIPO(I=インプット、P=プロセス、O=アウトプット)においてインプットを行い、アウトプットを受け取るのは主に人間の役割でした。しかしこれからはIOを担う存在が機械に置き換わり、人間が関与しないシステムが増えていきます。これがCPSの考え方の根幹だと感じます。
「Cyber」が示す範囲は曖昧なのですが、必ずしもインターネットという要素は必須ではないようです。インターネットに接続されていなくても高度な処理機能を持ったITに支えられた自動運転車両はCPSと言えそうです。
一方、この自動運転の例で、個々の車のセンサーや駆動データから得られる情報をインターネット上で結合して処理すれば、燃費向上、渋滞回避、新しい車の開発へのインプットなど多くの分野で活用することができます。こちらのインターネットを介した情報活用に重点を置いた表現がIoTです。
CEATECでIoTよりもCPSが目立つ理由
二つの言葉を比べると、どちらかといえばCPSの方が大きな概念で、IoTはCPSの一部というように見えます。CPSという言葉を検索すると2010年のWebの記事などがヒットするので、決して新しい概念ではありません。ただ言葉の露出は未だ極度に少なく、長い間、埋もれていた言葉です。
しかしCEATECの会場はでIoTよりも圧倒的にCPSという言葉が目立ちます。この言葉が脚光を浴びた背景には間違いなくIoTのトレンドがありますが、IoTは先ほども言ったようにインターネットが概念の中心にあるので、デバイスやロボット、ドローンといった製品メーカーからすると、CPSの方がより汎用性があり使いやすい言葉なのでしょう。
総じてみればIoTはIT産業の言葉で、CPSは製造業(電子産業)の言葉です。この20年の間、この手のバズワードはIT産業から生み出されてくることが多く、CPSはIoTに力負けしているところがあります。世界的に見ればIoTという言葉は既に定着の域に入っており、米国、欧州、日本など方々で主導権争いの火花が散っています。残念ながらCPSという言葉がIoTにとって代わる可能性は低いかもしれません。
これからのITを知りたければIT産業の外に目を向けるべき
どの言葉が定着するかという話は置いておいても、今回、CEATECでCPSという名のもと展示されている各社の技術を見ていて考えたことがあります。
秋は展示会シーズンで、弊社も某社が主催する巨大IT展示会でセミナーを行いました。しかし、このようなIT産業のイベントはこのところ、力を失っているように感じます。これまでのIT産業、特に企業の業務システムの構築や保守を担う、いわゆるエンタープライズITの産業では、未だ人間が入力した情報を人間に返すという人間中心のインターフェースから抜け切れていません。以前はまだまだソフトウェアが人間の期待に達していないところがありましたが、近年では人の業務を支援するシステムの成熟度は一定のレベルに達してしまっているように思います。
一方で進歩が目覚ましいのはIO(インプットとアウトプット)が人ではなく機械の世界、つまりCPSであり、IoTの世界です。IOが機械となれば高い技術を誇る日本の製造業の力の見せ所となります。これまで数十年、日本だけでなく世界中で製造業からサービス業へのシフトが鮮明でした。今や日本のGDPの75%はサービス業ですが、実は最近の調査では若干ながらサービス業の比率が下がり、製造業の比率が上がりました。一般にIT産業はサービス業に分類されるのですが、IOが機械に移れば製造業の出番です。
このような市場動向の中でこれからのITを知りたければ、旧来のIT産業の外に出て情報を集めないとITは語れません。なんとも矛盾した話なのですが、人間中心のインターフェースで物を語ってきたIT産業は製造業に比べて最新のITトレンドであるIoTやCPSから出遅れていると感じます。
今月末から東京ビッグサイトで東京モーターショーが開かれています。ここでも自動運転をはじめIoTやCPSに関するたくさんの展示が催されるでしょう。この先も、映像&音声関連の展示会(InterBEE@幕張)や国際ロボット展(@有明)など、IoT&CPSに触れることが出来る展示会たくさんあります。皆さん、お忙しいとは思いますが、こうしたイベントに足を運んでIT産業を超えたITに触れてみては如何でしょうか?