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リーダーシップ

LTSの企業理念はここから生まれた③ 変化に適応できる組織作りに役立つ7冊

この記事では、LTSの組織作りに影響を与えた本について、LTS 執行役員山本政樹さんへインタビューした内容をご紹介します。山本さんが考える「読書」とは、本を通して見るLTSの企業理念の根底にある考え方とは。全4回です。
山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

『凄い製品開発』で実際の現場の姿を知る

―――4冊目は『凄い製品開発 テスラがトヨタに勝てない理由』を上げていただいていました。かなりポップな表紙ですね。

ここまでは、経営全体視点の本を紹介しましたが、ここからは実際の業務の現場視点です。

『凄い製品開発』はAmazonで検索して商品画像だけ見ると、みんなポップで“軽い”本だと思うんですよね。ところが、届いてびっくり。700ページもあって、字も小さく、実はかなりしっかりした本です。正直、私もはじめは騙されました(笑)。

この本を読むとネットワーク型の組織における、現場でのコラボレーションや人と人の関係性が分かります。この本の各章末には、章のまとめと卓越したチームを運営する上での簡単なチェックリストがついています。

ここに出てくる要素は、実はここまで紹介した経営目線の三冊と共通の価値観の上に成り立っているのですが、現場視点で語られているので、どのような立場の人にもより理解しやすいのではないでしょうか。…と言っても、読むのはかなり骨が折れるのですが。

―――この本、サブタイトルが「テスラがトヨタに勝てない理由」とありますね。

基本的には、トヨタ生産方式の話です。日本が起源のリーン製品・プロセス開発※1の話ですね。日本の製造業の現場で行われていた改善活動のノウハウは、アジャイル開発の元の概念になっていたりと、先見性に満ちていました。

この本では、製品開発の現場におけるネットワーク組織の在り様が、しみじみと描かれています。各機能のメンバーが「大部屋」と呼ばれるところに集まって、コラボレーションを重視しながら、ひとつの製品を最後市場に送り出すところまでやり遂げる、その名の通り“凄い製品開発”の本だと思ってください。

※1 リーン製品・プロセス開発(LPPD、Lean Product and Process Development):製品を創り出すための諸原則のこと。人・プロセス・ツールを統合し、最高の品質の製品を、納期通りに、顧客が求める数量だけ、より少ない在庫、より短いリードタイム、より狭いスペース、より少ない労働時間で開発・生産すること。
ジム・M・モーガン著、稲垣公夫訳、『凄い製品開発 テスラがトヨタに勝てない理由』2020、p.15-25

『最難関のリーダーシップ』で個人が持つべきリーダーシップを知る

ネットワーク型組織で求められるリーダーシップ

―――ここからどのように、次の本『最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル』につながるのですか。

経営視点の世界観と、実際の業務の現場の世界観…ときて、次はリーダーシップ論ですね。

ここまで語ってきたような組織や現場のチームを作るには、組織を構成する個人の中に正しいリーダーシップのイメージができていないといけません。ここまでの本は組織に焦点をあてたものでしたが、ここからは組織に所属する個人に焦点をあてた本だと思ってください。

まず、『最難関のリーダーシップ』です。この本は必ずしも「ネットワーク型組織におけるリーダーシップ」という立て付けで書かれているわけではありませんが、私の感覚ではネットワーク型組織を作り上げていく上で必要とされるリーダーシップとは、まさにこの本で語られているリーダーシップだと考えています。

―――リーダーシップは階層型組織のイメージがありますが、ネットワーク型の組織で言われるリーダーシップとの違いは何ですか。

階層型組織では、階層の上位のポジションの人ほど高いリーダーシップを求められる傾向にあります。それは時に組織の権威や権限と結びついて、人々の間にある種の序列を作り出してしまいます。しかし、このような「部長である私が責任をもって決断し、指示を出す。皆はそれに従ってほしい」スタイルのリーダーシップは、ネットワーク型組織のリーダーシップとは言えません。

ネットワーク型組織では、組織としての目標の達成や問題解決に全員が自分事として取り組み、対等な立場で関わります。その時、問題解決に自分が強く貢献できそうだと思えば、ポジションにかかわらずリーダーシップを発揮する必要がありますし、逆に他者にリーダーシップをゆだねるというようにリーダーシップとフォロアーシップを自らの判断で機動的に切り替える必要があります。

あなたはこういうポジションに就いたから、リーダーシップを発揮しなくてはいけないという話ではなく、リーダーシップというのは、全ての人がそれぞれの立場において発揮すべきものとなるのです。

リーダーの役割は問題解決へ向かう環境づくり

―――『最難関のリーダーシップ』ですが、原著名は『THE PRACTICE OF ADAPTIVE LEADERSHIP -Tools and Tactics for Changing Your Organization and the World』ですね。この本はネットワーク型組織におけるリーダーシップを考える上でどのように関わるのでしょうか。

ハイフェッツ氏の唱えているものは、アダプティブ・リーダーシップ※2と言われています。

その骨子は、リーダーの仕事というのは、決して指示や命令を出すことではない、人々に問題のありかを共有して理解してもらった上で、それぞれが自分自身と向き合った結果として問題解決に動くような、環境づくりをするのがリーダーの仕事だということです。

リーダーはもちろん最終局面において、決断をすることはあるけれども、それはリーダーの仕事のごく一部でしかないのです。この場合、問題を解決するのは必ずしもリーダーではありません。

自律的に問題に向き合い、協力して問題解決をおこなっていくのは、その組織に所属するメンバー全員です。そんな環境を作るのがリーダーの仕事、というわけですね。

※2 アダプティブ・リーダーシップ(Adaptive Leadership):難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくこと。
ロナルド・A・ハイフェッツ著、水上雅人訳、『最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル』2017、p.41

―――p.33には、“アダプティブ・リーダーシップとは、自分自身とグループの間を往復しながら、双方向に関わり続ける行動である”とされています。

リーダー的なポジションにいる人があれこれ指示をして、それでスムーズにいくのであれば苦労しませんよね。

人は納得していないことに関しては自分で動こうとはしないですし、面従腹背的なことも起こります。部下だったり周りのメンバーだったりが、自分には何が足りていないのかを内省するきっかけ・環境を作り、自らが主体的に行動していく意識を持てるように導く。そして、そのような過程がまさにネットワーク組織に必須の、組織のメンバーの自律性を高めるプロセスなのです。

そのための組織全体の働きかけをおこないつつ、リーダー自身も内省して振り返っていく、この理論体系がアダプティブ・リーダーシップです。読書会でこの本を扱った際にはメンバーから「リーダーシップのイメージが変わった」「かつてない衝撃があった」といったコメントをたくさんもらいました。

是非、読んでほしい本の一つです。

リーダーシップの獲得に求められる「内省」

―――著者ロナルド・A・ハイフェッツさんの本は、他にもいくつかあった印象です。この『最難関のリーダーシップ』を採用されたのはなぜですか。

この本は、一連のハイフェッツ氏の著作でも近年のもので、それまでの研究の成果が1冊にきれいにまとまっています。他の著作よりも構成がわかりやすく、読書会で分担して読むのにも最適です。

ただ、個人的には彼の最初期の著作である『リーダーシップとは何か!』はとても好きな作品で、こちらも読んでほしいとは思っています。

―――内容的には、どのように異なるのですか。

先の本に比べると、出てくる事例が政治や社会活動に重きが置かれています。また理論というよりは、エピソードが多く、“読み物”の色合いが強いです。

個人的にはこちらの本からのほうが、リーダーシップの根底にあるものが理解できた…というか心にしみました。『最難関のリーダーシップ』が面白いと思った人には、リーダーシップとは何か!』もおすすめします。

―――今回はリストには挙がっていませんでしたが、そちらもおすすめなんですね。

リーダーシップについても、組織全体のネットワーク化についても、これらの世界の根底で必要なものは「内省」ではないかと考えています。

「ネットワーク型組織は人々が対等」と何度も説明していますが、これは逆に言えば、これまで組織の上位層にいる人の権威がなくなることを示しています。また先にも説明したように、これを実践している企業は必ずしも会社規模を大きくしたり、知名度をあげたりということを主眼に活動しているわけではありません。

ネットワーク型組織を目指すということは、特にこれまで組織の“権威”の側にいた人に、自分の承認欲求、支配欲みたいなものを捨てて、自分自身の在り様を考え直すプロセスが強いられます。これを抜きには、目指す組織は作れません。

自分自身をきちんと理解して振り返る、これは今のLTSのミッション・ビジョンの根底にあるものであり、経営の世界観にも通じています。従業員が多く、規模が大きく、売り上げも大きい、有名な会社という物質的欲求ではなく、自分たちが善だと思うものが何かを定めた上で、そこへ向かうことが大切かなと思います。

…つづく


ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)