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デジタルテクノロジー

認定スクラムマスター(CSM)資格取得レポート

ライター

坂口 沙織(LTS コンサルタント)

基幹システム導入PJを中心に、IT導入PJにおけるユーザー側タスクの支援に一貫して携わるビジネスアナリスト。構想策定から導入後の運用安定化支援まで、システム導入のライフサイクル全てに関わる。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)。(2021年6月時点)

こんにちは。LTSの坂口沙織です。

私は2020年7月に「認定スクラムマスター」の資格を取得しました。認定スクラムマスターとは、アジャイル開発の手法「スクラム」のロールの一つである「スクラムマスター」の認定資格です。

今回は、この資格についての紹介と、資格取得に向けた研修を通してスクラムについて学んだ内容を共有したいと思います。

アジャイル開発に興味を持ったきっかけ

参画したIT導入プロジェクトでの経験

そもそも、私がアジャイル開発に興味を持ったのは、過去参画したIT導入プロジェクトでの経験がきっかけでした。

さかのぼること数年前…。とあるお客様企業では、基幹業務領域において販売管理、購買管理、プロジェクト管理、原価管理、と業務ごとにそれぞれバラバラのシステムを利用しており、これによりデータの二重入力が発生したり、プロジェクト損益を把握するのに複数システムのデータを組み合わせる必要があったりなど、様々な業務の非効率が発生していました。その課題を解決するために、基幹システム刷新プロジェクトが立ち上がり、バラバラのシステムをひとつのERPパッケージに統合することになりました。

プロジェクトは当初、ウォーターフォール型で進められていました。しかし、構想から約1年で本稼働という過密なスケジュール、現行システムの仕様書がほとんどない中で開発方針は“現行踏襲“という危険状態でプロジェクトが進み、結果的に新システムの説明会段階で現場ユーザから「こんなシステムでは業務が回らない」と反発を受け、本稼働を延期することとなってしまいました。

そして、本稼働を延期して不足する機能を追加するための追加開発フェーズが始まります。この追加開発期間の3か月で何とか本稼働できる状態に持って行く必要があったため、何が不足しているのか、どこに不具合があるのかの全量を洗い出して計画を立てている余裕はありませんでした。そこで「作れるところから作り、できたところから関係者に見てもらいリリースしていく」「より優先順位の高い課題が見つかったら優先順位を入れ替えて対応する」といったやり方で開発を進めていきました。

これにより、当初想定通り3か月後には部署ごとに新システムの段階導入を開始し、同年内に全社導入まで完了することができました。

資料:追加開発プロジェクトのスケジュール

新システムが稼働を始めてからも、実際に使ってみて見つかった改善点に対しては、引き続き追加開発をおこなっていました。その中で、作ったところから関係者に見てもらうことで即時にフィードバックを受けることができて次の機能の開発に活かすことができたり、優先順位の入れ替えが発生するために頻繁にお客様との協議が必要になり、結果的にお客様のプロジェクト関与度が上がったり、このやり方で進めていくといろいろと上手くいくことが増えてきました。

このプロジェクトを良くしたい、その時に出会ったアジャイル開発

この時アジャイルもスクラムもよく知らなかった私ですが、何となく「これはいいやり方なのではないか、もっと良くするにはどうすればいいのか」と考えるようになりました。

そして、ある日ふと読んだアジャイルソフトウェア開発宣言に、この問いの答えとなる要素が書かれていることに気がつきます。これが私のアジャイルとの出会いでした。

これをきっかけにアジャイル開発について書籍等で勉強を始めたのですが、アジャイル開発の手法のひとつである「スクラム」に関する認定資格とそれを取得するための研修があることを知り、これを受講してみることにしました。

アジャイルソフトウェア開発宣言については、こちら

ちなみに、2001年に発表されたこの宣言から、もう20年以上経っています(!)。


資料:アジャイルソフトウェア開発宣言


資料:アジャイルソフトウェア開発宣言の背後にある12の原則

スクラムと認定スクラムマスター

スクラムとは

そして、スクラムとは何かというと、アジャイルの手法のひとつであり、スクラムガイドでは「複雑で変化の激しい問題に対応するためのフレームワークであり、可能な限り価値の高いプロダクトを生産的かつ創造的に届けるためのものである。」と定義されています。

そしてスクラムの基本単位としてスクラムチームがあり、スクラムチームには「開発者」「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」の3つの役割が存在します。

「スクラム」の3つの役割

3つの役割は、スクラムガイドでは以下のように定義されています。

開発者:各スプリント※1において、利用可能なインクリメント※2のあらゆる側面を作成することを確約する。
プロダクトオーナー:スクラムチームから生み出されるプロダクトの価値を最大化することの結果に責任を持つ。
スクラムマスター: スクラムガイドで定義されたスクラムを確立することの結果に責任を持つ。

※1 スプリント:スクラムでは、4 つの正式なイベント(スプリントプランニング、デイリースクラム、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブ)を組み合わせており、それらを包含するイベントのこと。
※2 インクリメント:プロダクトのこと。
資料:「スクラム」の3つの役割

では、認定スクラムマスターとは何なのかというと、このスクラムマスターの認定資格のことです。認定を行う団体はいくつかあり、Scrum.orgのものやScruminc.のものもあったのですが、私はScrum Allianceの認定スクラムマスター研修と試験を受講することにしました。2020年当時、日本でおそらく最もメジャーと思われる認定資格だったからです。

資格取得研修・認定試験の概要

研修は5日間9~15時、全編リモート開催でした。

事前課題として、アジャイルソフトウェア開発宣言やスクラムガイドに目を通しておくことと、それらを呼んで24問の質問に対して自分なりの回答を用意しておくということが課されていました。課題メールには「質問への回答は30分と決めて、時間内に答えられる範囲で答えていただければと思います」と記載がありましたが、私はもう少し時間がかかったような気がします。

実際の研修期間は、ZoomとオンラインホワイトボードツールのMiroを使い進行していきました。グループワークが圧倒的に多く、事前の質問に対してグループ内で回答を共有し合ったり、疑似プロジェクトのようなお題を与えられ、グループワークで答えを出したりといったことを行いました。

その前後に講師の方の講義パートがありました。講師の方の説明は英語ですが、通訳の方が全編日本語で説明してくださっていたので英語が苦手な方でも問題なく受講できるかと思います。

15:00以降はアフターセッションで、本編で不明だった部分を質問できたり、日頃の業務で困っていることの相談などを受けてもらえたりする時間でした。

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24名程度の研修参加者は、エンジニアの方が多い印象でした。大手通信社をはじめとする大企業の方、個人事業主、20~30代のスタートアップの方と、様々な分野の方がいらっしゃいました。アジャイル未経験の方から現在アジャイル開発プロジェクトのメンバーという方まで、アジャイルについての前提知識は様々、といった様子でした。

認定資格については、研修最終日に認定試験受講のためのメールが送られ、研修終了後にwebから受験が可能でした。研修終了後も、試験勉強中不明点があったら講師の方に質問することができるよう、Slackチャンネルでつながることができました。

他の方と講師の方のやり取りだけでなく、過去の研修受講者の質問も閲覧することができ、大変参考になりました。合格基準は50問ある4択問題のうち、37問正解で合格、制限時間は60分でした。スクラムガイドを見ながらの回答が許されており、しっかりと研修を受けていれば合格できるな、と個人的に感じました。

印象に残っている講師の方の実務エピソード

講師の方は実際のプロジェクトでのエピソードもたくさん共有してくださり、実務レベルでどういう振る舞いが必要なのかのイメージが湧きやすかったです。

スクラムマスターは能動的に何もしない人

研修の中で特に印象的だったのは「スクラムマスターは究極的には能動的に何もしない人」なのだ、と紹介されていたことでした。

究極的には、スクラムマスターは観察と現状を伝えることが大切で、解決策は提示しないのだと。結局スクラムマスターがいないとスクラムが回らない状態ではチームの自己組織化が崩れてしまうからだと思うのですが、これは簡単なようで忍耐のいることだと感じました。

ウォーターフォールとアジャイル、双方への理解

また、ウォーターフォール型でのプロジェクト経験豊富な人ほど、アジャイルを理解するのに苦労するというお話も印象的でした。

アジャイルやウォーターフォールに限らずですが、人は新たなものを学ぶときには過去の経験と紐づけて解釈しようとします。そこで自分の経験とあまりに乖離する考え方だと、紐づけ先がなく混乱してしまうのだそうです。そういう時は無理に紐づけしようとせずに一旦全てを受け入れ、自分の中で知識構造を再構成するように考えた方が良いとのことでした。

スクラムがうまくいかない時には、運営全体を見直してみる

2週間スクラム(スプリント)でアイテムが終わらないときには期間を延ばしてもいいのか?という質問に対し、「2週間でうまくいかないなら1週間にした方がいい」と講師の方が回答していたのも印象的でした。

最初は”2週間で終わらないのに期間を短くするの?”と思いましたが、「2週間で終わらないのはリファインメントが足りず、まだ分割できるのに大きいままのアイテムになっている可能性がある。また、スプリント計画やふりかえりの頻度を上げて、スクラムの運営自体に見直す点がないかを検証した方がよい」と言われて納得したのを覚えています。

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実際の成功体験や失敗体験から学ぶことができる研修

今回受講した研修は、結論から言えばとても学びが多く他の方にもおすすめしたい研修でした。認定試験に合格することがゴールではなく、実務でスクラムマスターとして活躍できる力を身に着けるためにスクラムの真意を理解する、ということに主眼が置かれており、非常に実践的な内容だったと思います。

5日の研修期間中、グループワークがかなり多くの時間を占めるというのも非常に特徴的でした。講師の方の話を一方的に聞くという時間は最小限で、自分なりにスクラムの用語を説明したり、課題に取り組んだりするというアウトプットの時間が長く、とても気力のいる内容ではありましたが、その分とても濃い内容の研修だったと感じました。

個人的には、グループワークで同じチームになった方のスクラムの成功・失敗エピソードや、アフターセッションでリアルなお悩みを聞けたりしたのも収穫でした。実は、社内でアジャイル開発について学ぶ勉強会も開催しているのですが、勉強会の内容を検討する際にもよくこの研修の時のメモを読み返していたりします。

その後、実務でスクラムマスターを担当することになった時にも、この研修で学んだ知識をたくさん活かすことができました。もちろん資格がなくでもスクラムマスターを務めることはできますが、スクラムの運営のやり方に迷いがある方や、スクラムに関する他の人の意見も聞いてみたいという方はぜひ研修受講を検討されてみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。