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Agile Japan サテライト@LTS ~アジャイル×ソーシャルを考える~

坂口 沙織(LTS コンサルタント)

基幹システム導入PJを中心に、IT導入PJにおけるユーザー側タスクの支援に一貫して携わるビジネスアナリスト。構想策定から導入後の運用安定化支援まで、システム導入のライフサイクル全てに関わる。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)。(2021年6月時点)

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)

Agile Japan 2022とサテライト制度 

まずはAgile Japanについて簡単にご説明します。Agile Japanは2009年から開催されており、日本中にアジャイルの価値を浸透させ、日本の変革を促進することを目指しています。あらゆる業界や職種の方が集まり、実践者も初学者もともに建設的な意見交換ができる場です。(公式サイトより抜粋) 

2022年11月15~16日に開催されたAgile Japanのテーマは「ソーシャルインパクトアジャイル」でした。

日本は、労働、教育、人口、人権、環境、資源、地域、医療など多くの社会課題を抱えています。これらの社会課題は、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が多く、この状況下での事業展開、組織運営、プロジェクト運営、企画・開発・運用など、複雑な課題に対処するためには、アジャイルのアプローチが重要です。今回は、Social Impact Agileの共同設立者であるRocío Briceñoさんを基調講演に迎え、身近な生活からアジャイルマインドを活かし、組織、チーム、個人が成長できるヒントを一緒に考えていきましょう。

LTSからは坂口、大山を含む4名が参加しました。リアルタイムに講演を見て、ディスコードで繰り広げられる参加者と講演者、参加者同士のディスカッションを見られるのが醍醐味ですが、日々の業務もあるためリアルタイムに参加できないこともあります。そのような方のためにAgile Japanは講演内容を、後日参加者に向けて期間限定に公開しています。しかし、参加者以外は見ることができないため、関係者への共有はできません。

Agile Japanに参加した感想はTeamsチャットで細々と盛り上がっていたのですが、LTSにはソーシャル&パブリックチームがあります。わたしたち参加者は社内のソーシャル領域のメンバーと意見交換したい!とサテライト制度の申請に乗り出しました。

社内SNSでのチャット

サテライト制度とはAgile Japanの講演映像を無償で貸し出していただける制度です(詳細はこちら)。地域のコミュニティや段階向けの「コミュニティサテライト」と、企業内コミュニティ向けの「企業内サテライト」があり、LTSで開催したのは企業内サテライトです。

LTSアジャイルチームのこれまでの活動

アジャイルチームはLTSの組織上の公式なチームではないのですが、アジャイル開発に興味のあるメンバーが集まり勉強会などを実施しているチームです。関与度は様々ですが、ゆるく活動を続けています。原点にあるのは「お客様によいものを早く届けたい」という想いです。これはアジャイルチームに限らず、LTSの多くのメンバーに当てはまる思いだと考えています。

2020年ごろ、社内SNSにてコラムの発信を始め、後にこのCLOVER Lightにも掲載されました(アジャイルアプローチへの挑戦)。さらに、2021年には社内プロジェクトでのノウハウづくりとしてプロジェクト管理システムの開発を実施しました(アジャイル×ローコードで社内システム開発)。そして、2022年には顧客向けプロジェクトにてスクラムのフレームワークを採用し、少しずつ実践経験を蓄積しています。その他、認定スクラムマスターの資格取得、部門横断での勉強会、セミナーへの参加など、積極的に活動しています。

アジャイルチームの紹介スライド

Agile Japan 2022のテーマ「アジャイル×ソーシャル」

今年のアジャイルチームの活動を考え、テーマを「アジャイル×〇〇」としました。LTS社内には様々なサービスチームがあり、それらのチームと共同で勉強会を開催したり、ディスカッションをしたりと連携ができればと考えていました。

そんなことを考えている矢先、Agile Japan 2022のテーマが「ソーシャルインパクトアジャイル」でした。Agile Japanはシステム開発や導入事例を多く扱うカンファレンスでありつつ、今回はソーシャルビジネスとの掛け合わせた事例も多く紹介されていました。

そこで、LTS社内のソーシャル&パブリックチームに声をかけ、サテライトを2つの日程で開催しました。その開催の様子をご紹介します。

アジャイルジャパンサテライト@LTSの様子

はじめてのサテライト@LTS

サテライトで上映させていただいた講演は、株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長 鈴木雅剛さんの「小さく、素早く。~目的とトライアンドエラーが生み出すソーシャルインパクト~」という講演です(詳細はこちら)。

昨今、”SDGs”や”ESG投資”、”インパクト経営”など、企業はソーシャルインパクトを実現する経営を求められるようになりました。2007年にソーシャルビジネスしかやらない会社として創業したボーダレス・ジャパンは、16カ国で47事業を展開し、そのすべてが、社会問題を解決しソーシャルインパクトの実現を目的としています。カンファレンスでは、ソーシャルビジネスとは何か、新規事業成功の秘訣は何か、を通じて、変化とインパクト創出に必要な「力学」をお話しします。

上映後、参加者同士で感想を共有し、簡単なディスカッションを実施しました。

講演上映+ディスカッション

講演を視聴したあとのディスカッションの内容をご紹介します。

●実際のプロジェクトでは、新規の取り組み(それが小さく素早く始められそうなことであっても)に対して個々人が応援していても、組織としての意思決定となると、達成すべき数字が現れることなどにより、自由度が失われることが多いと感じられる。

→「数字を活用した、人・組織が動き出す経営管理」という自分が所属しているチームの目標が思い出される。

→エフェクチュエーション「アフォーダブルロス」の考え方を利用して、誰がどこまで失敗できるのかという数字が決められると、自由度が上がるかもしれない。その結果として新たなことを(小さく素早く)始められるようになるかもしれない。

→失敗を許容する文化は必要だが、形にするためにはただ失敗を繰り返すのではなく、担当者がその過程で考え抜き事業目的を明確にすることと、失敗をカバーできるだけの知識と経験を持ちどこまで失敗できるかの見極めもできる人の存在が必要だと思った。

●システム導入はユーザーが「作ってもらう」という意識になりがち。その意識が、想定と少しでも異なると「失敗」と認識されることに繋がる。

→ユーザーが「一緒に作る」という意識を持つことで、当初の想定とは異なっているけど便利じゃないか、という認識になりやすくなるかもしれない。結果としてプロジェクトが進行しやすくなり、良いシステムの開発に繋がるかもしれない。

→アジャイル開発とウォーターフォール開発のどちらかに決定する判断基準の一つとしては、結果の不確実性が挙げられる。

→課題の原因把握と理想形を描くためには、現場に行き対象の顔が見える、対象一人一人と対話を通じた理解が不可欠。一見手間がかかりそうだがしっかりコミュニケーションが取れているからこそ、課題の本質にたどり着くことができ、素早く行動に移せるのだと思った。

アジャイルジャパンサテライト@LTSの様子

●アジャイル開発でシステムやアプリを段階的にリリースする際には、ユーザーに「これはアジャイル開発で作っている」「ここからフィードバックを踏まえて改良されていく」という認識を共有する必要がある。そうでないと、初段階で使用していただけなくなってしまう可能性がある。

→完成前でもまずサービスを利用していただくために、利用のハードルを下げたり、期待値をコントロールする必要があるかもしれない。

●アジャイル開発では、まずは“どこを“小さく素早く開発するかを選ぶのが重要。その後の開発をスムーズに進めるために、その一歩目で「良いじゃないか」と思っていただく必要がある。

→見た目の良さや機能の便利さ等で、驚きをまず与えられるとよいかもしれない。

→小さく始めるにしても、続けていくためにはモデルケースとなる最初の一つの選び方が重要。事例は最初の一つが成功体験になって拡大していく理想的な形だと思うが、スケールアップ時にうまくいかないケースがあったら聞いてみたい。スケールアップを見据えた最初の一つの選び方のポイントは何だろうか。

アジャイルジャパンサテライト@LTSの様子

参加者の声とこれから

サテライトに参加した方々のコメントをいくつかご紹介します。

コメント①
動画というインプットをしたうえで議論するのは凄く良い時間に感じた。これまで社内の学習イベントは書籍を中心としたものが多かったが、動画/講演/記事/レポートなどもう少し手軽なコンテンツをベースにした学習イベントを広げても良いと思った。 

コメント②
アジャイル(=小さく始めること)もHowとしては大事なのだと認識したが、プロジェクトにおいても当たり前ではあるが、Why(課題)の部分を徹底するということが重要ではないかと強く感じました。そして、それをお客様含めたチームで徹底するのは簡単ではない(いつも困るなあ)と考えました。

コメント③
これまでソフトウェア開発の文脈でアジャイル開発について考えてきたが、ソーシャルビジネスも不確実な中で物事を進めていくので、これらの共通点もあるなと認識した。新しい視点で物事を考えさせられた。

コメント④
アジャイルというとソフトウェア開発と一番に考えるが、軸とする考え方が重要なのではないかと感じた。小さくはじめるということは、考え方によっては誰でもできること。もちろんチームがあれば選択肢も広がるが、個人でも可能性は十分にあると感じさせられた。

コメント⑤
社会課題を解決したいと考えると、こういうビジネスモデルで…とありきたりなものばかり考えてしまうことが個人的な課題としてあった。自分で熱意をもって「こういうことを実現したい」という想いから来るモチベーションでアイデアを考えると、独りよがりになってしまうのではと考える一方で、独自性のあるものとしても価値があるのではと気づいた。原体験を作る、想いを持ち続ける、そういうことが社会課題解決のために必要なポイントだと感じた。

コメント⑥
事業を「お金」だけで語る時代を終わらせる/失敗を成功の母として受け入れる文化を作る事の重要性を感じた。小さく素早く始めて、社会を変えていくにしても、社会を変えることを肯定できて失敗を許容できる組織でないと意味がないと感じた。コンサルティングの会社として、自社含めて組織の在り方を変えていくための良いきっかけになった。

コメント⑦
普段一人で勉強や考え事をしていることが多いのですが、考えたことが独りよがりになっているのではないかと感じたり、同じ考えが頭の中をぐるぐるして前に進めないことが多々あります。今回の勉強会では、同じことについての私とは異なる意見をその場で聞くことが出来た事で、多面的な考え方を知ると同時に考えをすぐにアップデートすることが出来ました。一人でやるよりも効率的に勉強を進められた大変有意義な時間でした!

今回のサテライトを通じて様々なバックグラウンドを持つ方々と動画を視聴し感想をシェアすることができました。参加者にとってはソフトウェア開発文脈で捉えていた“アジャイル”を一段広い視点で捉えなおすことが出来た機会になったのではないかと考えています。ひとりで講演を聞くよりも、何倍もの学びがありました。今回はソーシャル×アジャイルをテーマに交流イベントを行いましたが、今後他のテーマに関しても積極的にこうした機会を検討していきたいと考えています。