樺島は、月に行く、という明確なゴールに向かって作られたものがロケットであり、ここで言う「月(=目的地)」がLTSにとってのミッション(社会に対して提供したい/提供すべき価値)・ビジョン(ミッション実現に向けてLTSとしてありたい姿)であると話します。
LTSは新しい道筋を見つけるステージに
樺島:
LTSは2021年で19年目を迎えました。事業・組織は拡大しましたし、グループ会社も増えました。コンサルティング以外の事業も増えていますし、社員の職種も多岐にわたるようになりました。このタイミングで、わたしたちの根底にある変わらないものを共に確認しつつ、次の10年に向かってミッション・ビジョンを力強い言葉にしたいという想いがありました。そのため、今回のミッション&ビジョンの見直しでは、あえて「変更」ではなく「アップデート」という言葉を使いました。
山本:
最終的にはミッションとビジョンの双方をアップデートしたわけですが、もともと対象としていたのはビジョンだけです。以前のビジョンは未だ「達成した」とまでは言えないものの、組織が進化したことでそこに至る道筋は見えるようになりました。言い換えれば、ビジョンというよりは足元で着実に行っていくべき「計画」に変わったのです。ですから、その先にある新たなビジョンを考えるべき時期にきたわけです。
樺島:
以前のミッション・ビジョンは、LTSの創業時2002年に社員15名ほどで作ったものです。当時は「市場で認められたい」「コンサルティングという枠を超えた事業を展開していきたい」という想いがあったので、それを表現したものでした。ここからアップデートすべく、政樹さんのお力を借りました。
山本:
一般的に、ミッションは変わらないもので、ビジョンは定期的に見直すものと言われます。ビジョンは到達点なので、達成が見通せたらアップデートが必要ですよね。ミッションは見直しをかける予定はありませんでしたが、これを機に再確認のための議論をしました。そして残すべきものは残したうえで、より響くメッセージに言葉を洗練させた方が良いのではないかという結論に至りました。その結果、ミッションのアップデートも行うことになったわけです。
山本:
LTSの創業当初とくらべても、会社を取り巻く環境は大きく変わりました。例えば、SDGsやCSRという言葉に代表されるように、企業が社会の中で負うべき責任や、良き社会の一員としての在り方というものを一層強く求められるようになりました。そのような要素は以前のLTSのミッション・ビジョンにも込められてはいたのですが、今の時代に即したより分かりやすい説明を求められていることも事実です。これまでのミッションはセンテンスが冗長であった上に、背景にある意図が社内外にしっかり説明されていませんでした。これらを見直した上で、新たな言葉で表現したものが新しいミッションです。
樺島:
「(ビジョンを見直す)時期が来た!」と言い出したのはわたしです。2021年1月にアップデートしたものを社内に発表したので、今からさかのぼること2年ちょっと。2018年秋冬あたりの政樹さんとの1on1で話が出たんです。政樹さんに指揮を執ってもらって進めたい、と。
山本:
そうですね。その1on1を受けて、2019年度の主要活動の一つとして立ち上げました。1年間は経営層を中心に議論し、原案作りに時間を費やしました。そして、2020年1月の全体会議で社員全員に「原案」という形で樺島さんが発表し、その後さらに1年をかけて、グループ会社への説明や社員のみなさんとのセッションを何度か実施し、その中で出てきたフィードバックを反映して確定したものが新しいミッション・ビジョンです。
変わっていくものと変わらないもの
樺島:
わたしは常に頭の中で「単年度どうするか?」「4年先を見越した中期経営計画はどうするか?」を考えています。その前には「10年単位でどんな戦略を立てるのか?LTSはどこにいきたいのか?」という長いスパンでの目標も考えます。それらの大前提として存在しているものがミッション・ビジョンで、それを携えて「次の10年どうなりたいのか?」「どんな戦略にしていこうか?」を検討します。
その中で「このビジョンもお役目を果たしつつあるな」「見直す時期かな」「見直すならこうかな」という考えはずっと頭の中にあったんですよね。実際にアップデート作業が動き始めたのは2年ほど前からですが、過去10年間は折に触れてアップデートについて考えていましたよ。
LTSはミッション・ビジョン・バリューをトップにおいて「理念経営」をしています。時空を超えて輝き続ける会社には共通点があり、それが企業文化であり理念経営です。自分たちがいるときだけ会社が輝いていても意味がないと思っていて、自分たちがはじめたこと積み上げたことが、次の世代へ、そして広い世界へと繋がっていきます。なので、わたしはミッション・ビジョンを念頭に置いて、LTSの事業や戦略を考えています。
山本:
LTSの理念を語る際、決してミッション・ビジョンだけが理念のすべてではありません。ミッション・ビジョンは、さらにサービスミッションや組織プリンシプルといった各分野の原理原則に展開されていきます。そこからさらに、個別の施策やルールに落ちていきます。
樺島:
そうですね。プリンシプルは原理原則という意味です。「ブランド力のある会社ってどうやって作るのか?」を考えたとき、フェーズごとに変わらないような一貫性を持つことが大事だと思ったんですよね。変わるものは社員数や売り上げ、事業の成長や組織の拡大ですが、変わらないものもあります。これまできちんと明文化できていなかったのですが、LTSの変わらないものって何だと思いますか?わたしたちの根底にある変わらない原理原則。その原理原則や弾み車を明らかにして正しく設計すると、一貫性(変わらないもの)と変化(変わっていくもの)の両方が生まれます。今後ミッション・ビジョンを実現するにあたっては、フェーズごとに変わらないことをプリンシプルに埋め込んでいこうという議論もありました。
こういう長い時間軸の話は、表向きになったら取り組みとして走り出しますが、その前から実際みんな各々考えてくれていたんです。いろんな会議の場や個別の面談でそれを感じていました。
ビジネスアジリティを実現する第一歩としての側面
樺島:
政樹さんは“LTSの哲学担当大臣”だとわたしは思っているんです。ミッション・ビジョンはお客様や社員に対してだけではなく、社会・市場・世界、というとても広い範囲をカバーしています。事業の話だけではありません。マルチステークホルダーやLTSの歴史を踏まえて、議論を引っ張っていかなければならない。そこを根気よく面白がってやってくれるのは政樹さんしかいない!と思いました。
山本:
確かに以前から一貫して会社のこの手の抽象議論を担っていたので、哲学担当大臣とは当たらずとも遠からず、と。Chief Philosophy Officer、作りましょうか。
まじめな話に戻ると、わたしが2018年くらいにビジネスアジリティという考え方を社内に持ち込みました。ビジネスアジリティとは「組織が外部の環境変化に対して自身を素早く適応させる能力」を示す言葉ですが、もともとは「お客様のビジネスアジリティを実現することが、LTSのお客様の成長・自立を支援する全サービスの根底にある」という考え方の上で、LTS全体のサービス体系を表現したいというコンセプトとして発案したものでした。ただ、この考え方を社内で議論する過程で同時に「それを実現しなければならないのはお客様企業だけではなくて、LTS自身もそうならなければならないのでは?」という議論もあがりました。
そのような経緯もあり、全体会議などの場で組織の在り方を今一度考えるよう促した上で、ビジネスアジリティという概念を組織の中に形作るために、何を始めたらいいのか?という文脈でミッション・ビジョンが出てきます。ビジネスアジリティ実践の第一歩として、この取り組みを行ったという側面もあります。
樺島:
とはいえ、ミッションには自由で活き活き、とありますが議論自体はいつも“活き活き”とは進まなかったですね…。経営陣との議論では無言の時間もかなり多かったですし。政樹さんにお願いした背景は、ビジネスアジリティの側面もありますが、議論が得意というのがポイントで。かつ、創業当時からのミッション・ビジョンの裏側にあるものや使われ方が分かっていて、存在している課題も理解し、次の10年を考えるというかなり長い時間軸の話に対応できる人は限られているんです。
山本:
実際、議論を進める過程では結構苦しかったし、悩みました。ミッション・ビジョンはとても抽象的なもので、企業の普段の実務において必要とされるスキルとは異なるところにある議論になります。結果的に、このような議論を進めることが得意な人とそうでない人がはっきり分かれてしまうので、「やるべき人」というよりも「できる人」が根気強く取り組まないと進まないというのが現実です。そういう意味で、ここは自分が積極的に関わるべき領域なのだろうなという自覚はありました。
議論が思ったように活性化されないという悩みは経営陣との議論だけでなく、社員とのセッションでも同様でした。ただ、そのような中で成果をあげた一つの工夫として、去年何回か“読書会”というものを開催しました。ティール組織やシステム思考に関する本を読んでみんなで学びを発表し合いました。本からは膨大な情報を得ることができ、短時間の説明ではなかなか十分に語ることができない社会全体の動きや、他社の事例を知ることもできます。またミッション・ビジョンの説明会だと一方的にこちらから説明する形になってしまうことが多いのですが、読書会の形式だと一冊の本を囲んで参加者が対等に議論することができるのでとてもいい刺激になります。参加していたメンバーは、そこでのインプットも踏まえて今回のミッション・ビジョンの根底にある思想や組織の在り方を、よりしっかり理解できていたのではないでしょうか。
…後編へ続く
ライター
自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)