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プロセス変革・業務改革

よくわかるビジネスアナリスト③ ビジネスアナリストを企業の中で育成し、業務変革を推進する

ライター

大井 悠(LTS ビジネスアナリスト/マネージャー)

ビジネスアナリシス領域に強みを持ち、多数の業務プロセスに関わるプロジェクトに従事。自社の業務変革の企画・遂行にも従事している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは。LTSのコンサルタントの大井はるかです。今回はビジネスアナリストになるにはどうしたら良いのか、企業でどのように育成するのが良いのか、育成のために必要な環境はどのようなものか、を解説したいと思います。日本ではビジネスアナリストをコンサルティング会社のような外部の専門サービスに頼る傾向があり、人によっては内部で育成するよりも、外部のサービスを活用するほうが良いという人もいます。それでも私は、ビジネスアナリストは外部からの借り物ではなく、企業内部に所属して活躍すべきだと考えます。内部人材が必要な最大の理由は、外部人材だけの体制では変化への即応性が低くなるからです。

このコラムの著者、大井悠が執筆する書籍「Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー」を2019年9月27日に発売しました。

本の詳細は「Process Visionary」紹介ページよりご覧いただけます。

ビジネスアナリスト入門のハードルは高くない

職業には、公認会計士、看護師、調理師など、その職業に就くために資格や免許が必要なものと、そうでないものの2種類があります。そのうち、ビジネスアナリストは後者です。ビジネスアナリシスの普及団体であるIIBAからCBAPやCCBAといった資格は提供されていますが、これらの資格はビジネスアナリシスの経験者がキャリアアップや自己研鑽のために取得が推奨されています。

また、必ずしもIT導入プロジェクトでの現場経験といった特定の経験が必須というわけでもありません。IIBAがホームページで紹介している、ビジネスアナリストのキャリアロードマップによると、ビジネスアナリストの門を叩くためには2つのルートがあります。以下の図はIIビジネスアナリストのHP掲載の内容を参考に作成したものです。


(資料1)ビジネスアナリストのキャリアロードマップ
参考:https://www.iiビジネスアナリスト.org/Careers/Business-Analyst-Career-Road-Map.aspx

1つは事業会社で何らかの業務に従事した経験からのキャリアチェンジ(おそらく、こちらの経路が大きな割合を占めます)、もう1つは大学でマネジメントやビジネスアナリシス、コンピュータサイエンスなどの学位または修士を修了した後に、ビジネスアナリスシスの領域で就職することです。つまり、「ビジネスや企業オペレーションの成り立ちについて、ある程度の知識があれば、誰でもビジネスアナリストを目指せる」のです。ビジネスアナリシスが普及しているアメリカでは、小学校の教員がビジネスアナリストにキャリアチェンジすることも珍しくないそうです※1

※1:こちらの小学校教員のセカンドキャリアに関するコラムでも、キャリアの選択肢の一つとしてビジネスアナリストが紹介されています。
http://www.careeru.com/CareerOptionsforTeachers.pdf

残念ながら、日本では小学校の教員からビジネスアナリストになった話は聞いたことはありません。また、SEやPM経験者などITプロジェクトの経験がある人が、ビジネスアナリストに転身するケースが多いのも事実です。しかし、新卒採用や他業種からの転職者など、IT導入プロジェクトとは無縁であろう人材をビジネスアナリストに育成するケースも多く、増えてきています。ビジネスアナリスト入門のハードルは決して高くないのです。

人財育成のための環境整備が肝である

入門するハードルがあまり高くない一方で、ビジネスアナリストは需要に対して人材育成が追い付いていないとよく言われます。その一因は、ビジネスアナリストが日本で普及し始めたのが2009年頃※2と、職業としての歴史が浅く、育成方法がしっかりと確立されていないためです。

※2:2008年の12月頃にIIビジネスアナリスト日本支部が正式発足し、ビジネスアナリストBOK2.0日本語訳が出版されています。

最近は、ビジネスアナリスト育成に向けた研修メニューも増えてきましたが、まだ数としては少ないのが現状です。そして、育成が進まないもう1つの要因として、ビジネスアナリストを育てる環境整備の難しさが挙げられます。この要因は、特にユーザー企業に当てはまります。

前回のコラムに書いた通り、この仕事はとにかく実務を通したOJTによって培われるソフトスキルが肝です。多くの変革プロジェクトに参画し、先輩の振る舞いからノウハウを学んだり、周囲からフィードバックを受けたりする過程で、徐々にスキルと知識を習得し、見習いから一人前のビジネスアナリストに成長していきます。この実務経験を積ませることができる環境を整備するハードルが高いために、ユーザー企業ではビジネスアナリストを育てることが難しくなっています。

ソフトウェア開発の7割をSIベンダーに外注している日本では、ビジネスアナリストの大半がコンサルティング会社やSIベンダー企業に所属しています。こうした企業では、新卒採用や中途採用で採用した人材を教育してビジネスアナリストに育て上げています。

LTSでも、やはり新卒採用や異業種から中途採用した人材をビジネスアナリストとして育成しています。新卒から育成する場合は、入社後に3か月間ほどビジネスの基本や企業オペレーションについてしっかり学ぶ研修が用意されており、受講後は見習いとして変革プロジェクトに数か月おきにアサインされます。複数のプロジェクトを経験する過程でソフトスキル・ハードスキルが醸成され、ビジネスアナリストとして自立して仕事が出来るようになるまで、だいたい3年から5年ほどかかります。程度の差こそありますが、コンサルティング会社やベンダー企業では、たいていLTSと同様の環境が整備されています。

このようなコンサルティングやITベンダーといった業態では、新入社員に対する初期研修として、企業オペレーションを網羅的に学習できるカリキュラムが用意されていることが一般的です。そして、常に多くのプロジェクトを抱えているため経験を積む機会が豊富にあり、実業務の中でお手本となりフィードバックをくれる先輩も多数います。また、社内にビジネスアナリシスやソフトウェア開発に関するノウハウや知見が蓄積され、気軽にアクセス出来るようになっていることも多いです。こうした環境があるからこそ、ビジネスについて全く知識のない新人を効率的にビジネスアナリストとして育成することが出来るのです。

経験者の確保、が育成のカギ

では、ユーザー企業ではビジネスアナリストを育成できないのかというと、そんなことはありません。ビジネスアナリシスの方法論や、人材育成のメニューは日本でも研究が進んできていますし、それと併せてコンサルティング会社やITベンダーを参考に環境整備を進めていけば、ユーザー企業内でも人を育てることは十分可能です。実際に、社内でビジネスアナリストを育てているユーザー企業も、僅かではありますが存在しますし、育成するための取り組みを始める企業も増えてきています。

以下は、先ほどお話したコンサルティング業界やベンダー企業の教育体制を参考に、どのような条件が整えばビジネスアナリストを育てる環境が整うのかを洗い出したものです。これらを参考に、ユーザー企業では環境整備のためのどのような対応が出来るのか考えてみましょう。

ビジネスアナリストが育つための必要条件

  1. 変革の場(実践の場)が存在すること
  2. 新人を育てフィードバックすることができる先輩(上司)が周囲にいること
  3. ビジネスプロセス変革に必要な基盤やツールが提供されていること
  4. 成長を促し、働きを適切に評価する制度があること

一見すると、これらはどれもハードルが高そうに見えます。このうち三つ目の「ビジネスプロセス変革に必要な基盤やツールが提供されていること」とは取り組みの資料を格納し、みんなで共有できるナレッジマネジメントの仕組みがあったり、専門教育を受けることができたりすることが含まれます。これらは、外部のビジネスアナリスト人材を活用することで達成できます。コンサルティング会社やITベンダーに対して、ナレッジの提供やアドバイザリとして、専門家の派遣を依頼することも出来ますし、外部からビジネスアナリスト人材をヘッドハントして、初期体制を作ることも出来ます。実際に転職市場では、ビジネスアナリスト人材の需要が高まっており、既に育成を始めているユーザー企業では、この方法をとっている企業が少なくありません。

四つ目の「成長を促し、働きを適切に評価する制度があること」とは、ビジネスアナリストの働き方に即した評価や職位の制度があることを指しています。ビジネスアナリストが扱う業務の変革は、取り組み自体も時間がかかりますし、成果が出来るまで数年かかることもザラです。例えば、システム開発1つをとっても、企画から導入まで1~2年、導入後に費用対効果が出るまでは半年から長いものでは2~3年かかります。その間、業務変革を担う人はスケジュールやコストのプレッシャーと戦い、少なからず社内で発生する「業務が変わることに対する摩擦や反発」にも応じなければいけません。この期間を乗り越えるために、成果よりプロセス重視で評価を行ったり、上長が頻繁にケアを行ったりするなど、モチベーションを維持できるよう配慮することが大切です。

社内に変革部隊を作り上手く機能させている企業では、変革部隊を出世コースとして扱い、評価の高い社員を抜擢したり、各部署が変革部隊と協力しやすいよう経営陣が社内に情報発信をしたりするなど、モチベーションを保てるよう工夫しています。

ただ、これらの条件はビジネスアナリストがいない企業ですぐに必要になるというよりは、ビジネスアナリストが育ち一定の活躍をはじめた後で、徐々に必要性が生じてくるものです。

一つ目の「変革の場(実践の場)が存在すること」は、企業の規模や業態によります。一定以上の規模の企業であれば、一定のサイクルで何らかの変革プロジェクトが社内で企画・実行されます。中でも「インハウス系」と呼ばれる、社内やグループ内にコンサルティング部隊を持っている大企業であれば、常に何らかのプロジェクトが複数走っているので、アサイン先プロジェクトに困ることはないでしょう。また、業務オペレーションに占めるITの割合が高い企業の場合は、たとえ企業規模が小さくてもビジネスアナリシスが介在する領域・機会は数多くあるはずです。

ユーザー企業がビジネスアナリストを育成する上での最大のポイントは、二つ目の「新人を育てフィードバックすることができる先輩(上司)が周囲にいること」かもしれません。社内にプロセス変革チームを作り、適性がありそうな人を配属させたまではよかったのですが、先輩として振舞える人がおらず、集まったメンバーが独力で学ばざるを得ないという事例もあります。ソフトスキルやビジネスアナリストに求められる姿勢などは、独学では身に着けることが難しいものです。

こうした環境を整えているユーザー企業は、グローバルにビジネスを展開する大企業でもない限り、そうはありません。この環境整備の難易度が、ユーザー企業でビジネスアナリストを育成する際の妨げとなっています。しかし、現在整備できていないからと言って、これからも同様なわけではありません。これらは外部をうまく活用し、時間や資本を投下することで満たすことは可能です。

社内のビジネスアナリスト=社内の業務変革にすぐに対応できる人材

さて、ここまでビジネスアナリストを育てる環境要素を満たすための方法を考えてみましたが、如何でしょうか?こうしてみると、これらの環境整備は、やれなくはないということが分かります。もちろん、ある程度の投資は必要になりますが、その投資は大きな見返りとなって返ってくるでしょう。ビジネスアナリストは国際的にみると、ユーザー企業の中に所属し、ユーザー企業の中で育てられるものです。企業の中で育てられるからこそ、ビジネスアナリストは隅々まで自社の業務に精通し、中長期的な視座を持って業務の変革に向き合えます。

外部の専門性は購入可能ですが、自社の変革人材を得るにはそうはいきません。そして内部にしっかりとリテラシーが育っていれば、外部の専門性を上手に活用することが出来ます。ユーザー側にリテラシーが育っていると、外部のビジネスアナリストも自身の専門性を高めるプレッシャー・モチベーションが高まるので、より高い価値を提供するために研鑽するでしょうから、良い協創関係を築いていけるのではないでしょうか。

もちろん、外部の人だからこそ指摘しやすいこと、出来ることも沢山あります。特に、専門性の高さや市場のベストプラクティスに対する知識・実績に関しては、コンサルティング会社やITベンダーの方が優位でしょう。とはいえ、自社のビジネスモデルと業務をしっかりと理解し、中長期的な視点で業務変革を行える人材というのは、外部が持つ優位性以上の代えがたい価値があります。

私自身もそうですが、外部の人間は一定期間だけのお付き合いが基本なので、1つの変革プロジェクトが終わった後の業務のありようには関わることが出来ません。しかし、システム開発の様な大きな変革を行った後も、業務には小さな変更が頻繁に生じます。業務というものは、皆さんが思っている以上に柔らかく流動性があるもので、市場が変わり続ける限り、変更要求も発生し続けるのです。社内にビジネスアナリストがいる最大のメリットは、そのような変更要求に自社のビジネスをしっかりと理解した人材が、タイムリーに応えられることに他なりません。また、何より自社の業務を扱っており、その業務の先にいる同僚の顔も見えるので、変革に対して他人ごとにならず、熱意を持てるという強みもあります。

前述にもありましたが、ユーザー企業の中でビジネスアナリストを育てるケースは増えてきており、この先もこの傾向は続くことが予想されます。そして、ビジネスアナリストはやろうと思えばユーザー企業の中でも育てていくことは可能です。是非、皆さんの企業でもビジネスアナリストの育成にチャレンジいただければ嬉しく思います。

おすすめの本の紹介

Babok(v3): A Guide to the BPMNメソッド&スタイル 第2版 BPMN実装者向けガイド付き, 2013/8/30

ビジネスモデリングの言語の1つであるBPMNの解説書籍です。BPMNは業務フローを記述する際の国際標準の1つで、あらゆるビジネスモデリングのツールに搭載されています。標準的な業務フローの描き方を学びたい方にお勧めです。 


エディター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)