このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2016年4月に掲載されたものを移設したものです。
ライター
こんにちは、LTSコンサルタントの吉野貴博です。LTSはITやBPOに関する世界の動向を把握するために様々な国際団体に加盟しています。今回のコラムではLTSが加盟する団体の一つ“IAOP (International Association of Outsourcing Professionals)”が主催する年次カンファレンス“OWS 16”(Outsourcing World Summit2016)の現場から世界のアウトソーシングの動向についてレポートしたいと思います。
IAOPとは?OWSとは?
そもそもIAOPという団体をご存じない方も多いのではないでしょうか。
IAOPは” International Association of Outsourcing Professionals”の団体名の通り、アウトソーシングの専門家が集まる世界最大規模のコミュニティです。アウトソーシングのノウハウ集「OPBOK(Outsourcing Professional Book Of Knowledge)」の発行や、アウトソーシングプロバイダのランキングアワード「Global Outsourcing100」といった取り組みを通じて、アウトソーシングを活用するユーザ企業、そしてサービスを提供するアウトソーシングサービスプロバイダの双方が共に成長することを目指しています。
そして、LTSはこのIAOPに日本企業として唯一加盟しています※1。
Global Outsourcing100には日本企業の名前も見られますが、これは加盟企業でなくてもランキングに応募できるためです。
IAOPが主催する年次カンファレンスが、OWS(Outsourcing World Summit)で、IAOP主催のカンファレンスの中でも最も大きなイベントです。IAOP加盟企業にとどまらず世界中の会社から多くの人が集まり、その中にはCxOクラスの重役や、著名な学者、研究家も数多く含まれます。2016年のサミットは2月15日~17日の3日間にわたりフロリダで開催され、講演、ブース出展企業との交流、昼食会、専門研修など多彩なプログラムで構成されていました。
LTSがOWSに参加するのは昨年に引き続き2回目です。今回のOWSでは講演を聴くだけでなく、LTSもブースを出展しOWSに集まる世界中の様々な人々とも交流してきました。では、このOWSの講演やブースでの交流で得た情報を元に、世界のアウトソーシングの動向についてお伝えしていきたいと思います。
①アウトソーシング業界へのテクノロジの適応(SMACやRPA)
今年のOWSのトレンドとして最も顕著だったことは、先端技術への注目度が大きく向上していたことです。昨年度までは、アウトソース先としてどこの国がホットかといったような地理的な話が多かったのですが、今年度は、ビジネスイノベーションを生み出すコンセプトや技術であるSMAC (Social, Mobile, Analytics and Cloud)や最先端技術のRPA (Robotics Process Automation)を用いて、一人当たりの仕事率をいかに増加させるかが話題の中心となっていました。
例えば、今年の基調講演(1日目と2日目に計2回行われます)では、先端技術を用いて、一人の管理者が300台のロボを用いて300人分の仕事を実現するといったような革命的な青写真を真剣に議論していました。
基調講演の原題を以下に記しておきます。
・1日目
How to Future-Proof Yourself, Fearlessly Innovate and Succeed in the New Normal
・2日目
Robotic Process Automation – Lessons from the Field
昨年まで、一人分の仕事率をどこまで引き上げられるかというところに主眼を置いていたことと比較すると、1年でトレンドが大きく変わってしまったことをうかがい知ることができるのではないかと思います。各専門研修で行われた議論でもこの傾向は強く、AutomationやSMAC、IoT等のテーマがずらりと並んでいました。
そのため、どちらかと言うとユーザ側(その中でもリーディング企業)は先端技術を活用したアウトソーシングが広がった世界における企業組織の役割の変化、企業文化への影響、競争優位性についての構想を活き活きと議論する一方で、プロバイダはそれによって失われる自分たちの雇用をいかに維持するか探っているような印象を受けました。
②CSRやソーシャルインパクトとの矛盾
IAOPは例年、CSR(企業の社会的責任)やソーシャルインパクトを切り口に参加者の取り組みを積極的に評価する傾向にありました。今年は打って変わって、プロバイダ側の雇用面等に悪影響が出ることに対して(受け身的に)懸念を示す参加者が多く見られました。
これは、①の先端技術を積極的に活用していくトレンドと雇用がコインの裏表の関係にあるためで、効率化が進めば進むほど雇用に悪影響が及ぶ側面があるからです。特にプロバイダ企業は、今まで散々BPOだと持てはやされた結果、新しい技術が生まれた途端に必要とされなくなることに憤慨を隠せないようでした。
また、ユーザ企業も、昨年度まで注目を浴びていたImpact Sourcing※2に積極的に取り組んでいる企業が多い中、これはまさに先端技術を活かしたアウトソーシングと大いに矛盾する可能性を孕んでいるため、先端技術との向き合い方に悩んでいるようでした。
Impact Sourcingとは、Socially Responsible Outsourcingとも呼ばれ、企業の業務効率化と、途上国や貧困層等の低所得層の雇用機会創出や所得の向上等の社会的インパクトを両立しようとするコンセプト。
https://en.wikipedia.org/wiki/Impact_sourcing
BPOも機能特化の時代に!
出展ブースにてLTSのサービスを説明したり、日本のBPO市場に関するレポートを配布した際には、海外からの参加企業の積極性とスピード感に驚かされました。
私たちが今回ブースを出展したのは主に、海外のユーザ企業、アウトソーシングプロバイダとの意見交換、そしてそこから中長期的な人脈の獲得を目的としていました。一方、LTSのブースに来てくれた参加者の第一声は常に、”What’s your company doing?” 、”What brings you here?”で、お互いに明確で短期的な目的があることが前提で、それらがマッチするようならすぐにでも一緒に何か面白いことしようよ、というようなスタンスでした。
彼らはすぐにでもビジネスに繋がる機会作りとしてOWSを活用しています。そのような姿勢は、ブース運営にもよく表れており、例えば多くの企業で、CxO級の方々自らがブースを運営されていました。欧米企業は、トップ層-社員間のコミュニケーションはフランクで水平的ですが、意思決定は完全にトップダウンです。自ら決めることができるトップ層がフットワーク軽くセッションやブースに足を運ぶことで、そこで得た知見をすぐに経営に活かすことができるようです。
また、事前にコンタクトをいただいた海外アドバイザ企業と打ち合わせをした際にも、すぐにでも海外のユーザ企業と繋げることができる、と具体的な話を持ってきてくれており、ここでも驚かされました。日本は特殊な市場だからまずは情報交換から、と悠長に考えていた私たちにとって、海外プレーヤーのそのような積極的な姿勢には、私たちのスピード感のなさを実感させられました。
市場が特殊だということは彼らにとって何の障害でもなく、ではその特殊な市場において、お互いの機能をどのように組み合わせればビジネスチャンスを掴むことができるのか?というのが彼らの一番の関心だったのです。
まとめ~IAOP OWSに参加してみて
上記のように今回参加してみて初めて分かったこと、実感できたこと、衝撃を受けたことが、たくさんありました。また、昨年度から継続的に参加したからこそ発見できたことも多くありました。今日、テクノロジによって市場環境は急変してしまいます。そのため、トレンドを見極めて世界の潮流に乗り遅れないことが必至であると思います。
また、現地でレベルの高い企業や組織と直接会話を交わしたからこそ緊張感や焦りを得ることができ、自分たちの機能を明確にすることの必要性を強く認識しました。今後もこうした機会は引き続き活かしていきたいと思います。