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プロセス変革・業務改革

効果が出ていない日本のBPO活用 海外から取り残される日本のBPO(前編)

このコラムは、株式会社エル・ティー・エスのLTSコラムとして2016年4月に掲載されたものを移設したものです。

ライター

山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

こんにちは、LTS執行役員の山本政樹です。ビジネスプロセス変革のソリューションの一つとしてビジネスプロセスアウトソーシング、いわゆるBPOがあります。先日、弊社コンサルタントの吉野からグローバルのアウトソーシング専門家コミュニティ「IAOP (International Association of Outsourcing Professionals)」のカンファレンスの様子を報告させて頂きました※1

その一方で、日本国内のBPOの様子とはどのようなものでしょうか。今回は、各種の調査資料から日本のBPOの現状と課題を考察してみたいと思います。前編ではまず日本のBPOの市場概況と活用企業から見た効果の状況を振り返ってみます。

なお、このコラムは、業務処理センターやコンタクトセンターを対象としています※2。このような非IT系BPOはBPO、IT系BPOはITO、ないしITアウトソーシングとしていますのでご了承ください。
※1
IAOPのカンファレンスレポートはこちらのコラムご覧ください。
世界ではBPOについて何が話されているのか?~アウトソーシングのグローバルイベント“OWS16”の現場から~
※2
なお一般にBPOとコンタクトセンター(コールセンター)は分けて捉えられることが多いですが、広義ではコンタクトセンターはBPOの一領域ですので、ここでのBPOにはコンタクトセンターも含まれます

BPO市場の概況

近年のBPO市場動向に関するレポートを見ると、一見順調な伸びを示しているように見えます。ただ実は伸びの大半をIT系BPO(ITアウトソーシング=以後、ITO)が占めており、非IT系BPO(以後、BPO)の伸びは鈍化しています(例:2012年度から2013年度の伸びは1.2%ほど)。民間調査会社の予測では今後も持続的な市場成長が予測されていますが、日本国内に限ればBPOの対象となる難易度の低い人的作業の外部委託化は一息ついており、情報システム導入の進展と相まって、かつての勢いはないと考える方が自然でしょう※3

※3
過去のBPOの伸びを示すまとまったデータは存在しませんが、一例としてCRM(テレマーケティング)業界を見てみると、上位30社の売上の合計額は1995年には1000 億円に満たないですが、2013年の調査では8132億円まで約8倍に伸びています(日本流通産業新聞「コールセンター 売上高調査」)。なおCRMは非IT系BPOの売上の半分以上を占めます。
矢野経済研究所『BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場の市場規模推移と予測2014』より

効果を出すことが出来ていない日本のBPO活用

続きまして、このような市場動向にあるBPOの課題を考察してみたいと思います。なおこのコラムでは2008年の経産省BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書内のデータを主な出典としていますが、この調査の対象は東証一部上場日系企業1,729 社の経営企画部門、総務部門、経理部門、人事部門の計4 部門で、調査対象としている業務は経理、人事、総務の3種類が対象です。

さて、一般にBPOに最も期待される効果は「コスト削減」です。

業務アウトソーシング開始にあたり期待した効果と実際に得られた効果(間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査結果)
(出典:経産省BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書より)

しかしながら実際にBPOでコストが削減されたとしている企業は調査対象の4割程度にとどまります。

業務アウトソーシングにより削減したと思うコストの割合(間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査結果)
(出典:経産省BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書より)

またBPOの効果を測定している企業は全体の半分程度にとどまり、実に半分近い企業が「特に測定していない」という回答です。効果測定対象は「コスト削減率」という回答が3割程度で、ミス発生率や処理時間など具体的なKPI(業績評価指標)と言える項目を測定している企業は1割以下となっています。

アウトソーシング先企業が行った業務を評価するために定期的に測定している項目(間接部門における業務アウトソーシングに関するアンケート調査結果)
(出典:経産省BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書より)

国際的に見ればアウトソーシングにおいてSLA(サービスレベルアグリーメント=委託する業務内容の品質レベルに関する合意書)を結び、KPIを置いて定常的にアウトソーシングの成果を監視することが常識ではありますが、このような状況を見る限りにおいて日本においてはSLAがあまり機能していないと推測されます。

なおITOにおけるSLAの締結率は2010年時点で38%(JUAS企業IT動向調査2010より)となっており現時点ではこの数値はさらに伸長していることが考えられます。一方でBPOについては、前述のような動向から考えれば「きわめて少ない」(おそらく1割程度)と考えるのが妥当ではないでしょうか※4

※4
日本における非IT系BPOのSLA締結率に関する調査は見つかられていません。ただし日本語の検索サイトで「SLA」という言葉を検索するとITOの記事ばかりがヒットし、BPO関連の記事はほぼ皆無であることからも、BPO市場におけるSLAは考え方として広まっていないことが推測されます。

このような状況を総合的に考えると、日本におけるアウトソーシングは必ずしも成功していないようです。そもそも狙った効果を創出できているか自体が疑わしい上に、コスト削減に成功しているケースでもアウトソーシング化のタイミングで高給な自社社員を、よりコストの低い人員に切り替えたことによる一過性のコスト削減が大半であると考えられます。前述のように業績評価指標を置いた管理が出来ていることが稀であることを考えると、アウトソーシングを活用することで継続的に効果を創出できているケースはほとんどないと考えて良いのではないでしょうか。

BPOでの効果創出には継続的な業務効率化が必要

なお、一過性のコスト削減を行っても、その先の運営コストは人件費の動向を直に反映します。例として安価な日本語対応リソースの供給先であった中国大連の人件費は2008年から2013年の5年間だけでも1.7倍に上昇しており(JETRO調査より)、結果、センター移管当初は効果を出せても時間経過と共にその優位性は崩れるケースも少なくありません。本来であれば、BPOの効果は人件費差だけに頼るのではなく、継続的な業務効率化を進めることが求められます。

大連の平均賃金(月額)の推移(出典:JETRO発行 大連スタイル)

ここまで日本のBPO活用の現状を見てきました。後編では「BPMそして先端技術への対応が求められる日本のBPOプロバイダー」と題して、このようなBPO市場の状況の中での日本のBPOサービスプロバイダーの強みと弱み、そしてこれからの在り方について語ってみたいと思います。