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プロセス変革・業務改革

ミドルアップで始める変革活動(前編) 組織・人の変革を通じた企業価値の向上

事業環境の変化に対応するために、企業におけるビジネスプロセス変革の流れが加速する一方、トップダウンもしくはボトムアップで進める変革活動が失敗するケースも多くみられます。この記事では、ミドルアップによる変革のあり方と成功に向けたアプローチをご紹介します。
桑原 啓太(LTS マネージャー)

東京大学法学部卒業。LTS入社後は、全社BPRやDXの企画・プログラム立ち上げプロジェクトに複数参画。ビジネス課題の抽出・構造化から施策としてのシステム導入・業務運用支援まで、幅広い領域を経験している。製造業を主要な領域としつつも、不動産・小売・ITなどの業界のクライアントに対してもご支援経験あり。(2022年2月時点 )

経営・事業・組織変革領域のサービスリーダー

島野 陽介(LTS 執行役員 Business Structure & Management Dept. 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

ビジネスプロセス変革のよくある失敗事例とその原因

DXのオペレーション改革における成功率は1.9%

まずは、視野を広げてDXにおける取り組みの実態を見てみます。

アビームコンサルティング社が2020年に行った「⽇本企業のDX取り組み実態調査」によると、DXのテーマがいくつかある中でオペレーション改革は、成功と呼べるものが1.9%にとどまっており、失敗に至っては77.8%、約8割の事例において失敗に終わっているという結果が出ています。

調査結果でもまとめられていますが、DXにおいても組織や人の課題によって変革が困難になっているのが、日本企業における現状と考えられます。

ビジネスプロセス変革の失敗事例

それでは、ビジネスプロセス変革について弊社のこれまでの実績から、失敗事例がどのように整理できるか見てみたいと思います。

ビジネスプロセス変革における失敗事例を分類すると、①変革活動の立ち上げ失敗、②変革活動の頓挫、③インパクト不足の3つの要因が考えられます。

①変革活動の立ち上げ失敗
まずは立ち上げ時点の失敗です。変革活動を立ち上げようとしたが、オーナーの承認を得られず実行に至らなかったケース、変革に関係する部署を巻き込んだ活動が進められない/必要な部署の協力を得ることができず活動を立ち上げられなかった、などが発生しています。

②変革活動の頓挫
次は活動が止まってしまうパターンです。変革活動の立ち上げは成功し活動を開始できたものの、検討がまとまらず途中で頓挫してしまうケース、活動に想定以上の時間を要してしまい変革チームの活動や工数が維持できず立ち消えてしまう、といったケースがあります。

③インパクト不足
次は、前述の変革活動の立ち上げが成功し活動も頓挫することなく推進して、その結果としてシステム導入等の中心となる施策の完了まで進んだケースで起きる失敗です。この場合、当初見込んでいた変革活動の効果が出ない/かけた費用に対する効果が見込めない、などの活動に対するリターン・効果などインパクトが不足することによる失敗事例が発生しています。

変革活動の実態:組織を超えた活動ができていない

このようにビジネスプロセス変革が上手くいかない背景として、変革活動が現状の延長線上の改善に留まっており、組織を超えた活動が不十分ということが要因の一つとして考えられます。

変革活動で効果を出すには組織横断の活動である必要があります。しかし、日系企業は機能別の縦割り構造が特徴となっており、各組織が組織内に閉じた変革活動を推進することで、活動が現状の延長線上に留まってしまう、取り組んでもインパクトが出ないといったことが起きています。

この問題の背景としては、経営層から現場に変革活動を指示/分掌を変えてもなかなか変わっていかない状況や、ユーザー部門同士でお互いの部門へ協力を要請しても、協力体制が作れないという声が挙げられます。


画像1:組織の壁を越えた活動ができない状態

変革のボトルネック

では、変革活動が組織内に閉じ、活動が現状の延長線上に留まっている事象をもう少し構造的にとらえてみましょう。

どのような負の連鎖が起きているか

画像2:結果の事象と直接原因を表した負の連鎖構造

画像2をLTSでは「負の連鎖構造」といっています。中心にある赤文字の「現状から延長線の改善/あるいは、現場業務の効率化に留まり経営インパクト・評価は得られない」という問題の直接の原因を、組織が縦割り構造になっているため「関係者の巻き込みが不十分で自身の裁量で出来る範囲の活動となる」としています。

関係者の巻き込みが不十分となる原因は、活動に参加しようとする意思決定を後押しする現実解やストーリーが構築できていないことです。さらにその原因に立ち戻ると、組織ごとの管掌といったボトルネックにより横断機能が複数の事業部を巻き込めない、それぞれの管掌ラインを超えた関係者の巻き込みができない、という組織管理の弊害が見えてきます。

そしてさらにその原因を深堀すると、事業構造や機能構造といった組織や機能全体がどのような構造になっていて何を解決すれば課題が解消されるかが分かる人材がいない、また組織全体を俯瞰するような機能が存在しないという問題が認識されます。

こうして連鎖構造を見ると、組織全体を俯瞰できる組織の機能・能力の不足、変革を起こし実行するのに必要な組織能力の不足、変革する人材の不足や人材育成能力の不足、といった原因構造になっていることが分かると思います。

どんどん原因を深堀りしていくような形で説明しましたが、変革活動が組織内に閉じ、活動が現状の延長線上に留まってしまっているのは、このように負の事象が連なり根深い負の連鎖構造になっているためです。

中核となる4つの問題

画像3:負の連鎖構造の中核の問題

負の連鎖構造の中でも、中核の問題は①組織を超えた関係者の巻き込み、②関係者の巻き込みや意思決定に資するストーリーの構築、③ストーリーの構築の前提となる事業構造・組織構造の把握、④変革の組織能力が低い、の4つです。

この問題の連鎖が結果として変革意識の低さにつながり、さらに変革の組織能力が向上できない構造になっています。負の連鎖構造によって、変革の推進を阻む強いボトルネックが発生しているのです

画像4:中核の問題の原因は変革意識の低さ

意識の低さの他にも、DXの号令はかかるが経営からのサポートが得られないといったことや、短期的成果に対する要求や成功体験がないということも要因となっています。

しかし、結局は組織能力を育て変革活動を成功させていくことで負のサイクルを解消させていかなければ、変革活動を成功に導くのは難しいです。

変革を進めるには、しっかりとした変革意識を持ち抜本的に関係する全ての人の意識を変えていくことが重要です。

ミドルアップのビジネスプロセス変革とその成功ポイント

トップダウンとボトムアップによる解決の方向性

ここからは、具体的な問題の解決方法をご紹介していきます。変革のボトルネックの解消には、シンプルな方向性として2つの解決手段があると考えています。

①トップを中心とする強力なプロジェクトチームを組成し、経営・事業課題を基点に事業インパクト(変革活動の効果創出)を追求する

②仕組みを整備することや変革の必要性を啓蒙し、現場の自立的な改善活動を促すなどで根底にあるマインド、価値観の変容を促す

この2つの解決方法(トップダウンとボトムアップ)にも、それぞれボトルネックやリスクが存在します。また、いずれの方法でもトップの強いリーダーシップと中長期にわたる変革活動へのコミットメントが求められます。そのため、実際にこの方法を選択できる企業がどれくらい存在するのかは、難しいところだと思っています。

トップダウンとボトムアップ、それぞれの問題

典型的な日系企業においては、役員の管掌領域が細かく区分されており、意思決定が合議制となっているためリードタイムが長くなっています。

そのため、ボトムアップの活動では、上からの承認を得て変革活動を進めていくとなると意思決定に時間がかかってしまうというデメリットがあります。また、ボトムアップの活動はどうしても一人のスーパーマンに頼りがちで、その人が他の部門へ異動するなどでいなくなってしまうと、活動が継続・再現できないといったデメリットもあります。

個々の改善は現場で進めやすいものの、出来ることが少なくインパクトを創出できないといった冒頭で紹介した課題も挙げられます。

それに対してトップダウンの活動は、トップのリーダーシップがあればスピードは担保されますが、ここも一人のスーパーマンに頼りがちで、強いトップマネジメントがいないと推進は難しいです。また、経営陣が短期的に変わる組織や、経営の優先順位変更を頻発するリーダーの場合、こちらも継続性・再現性に欠ける活動になってしまいます。

画像5:各マネジメント方法のメリット・デメリット

ミドルアップの活動で組織間の「競合」から「協調」へ

そこで私たちLTSは、ミドルアップ/中間管理職が組織立って業務変革を推進していく方法が新たな解決の方向性だと考えています。

ミドル層で関係者の合意形成を済ませ経営は追認だけをする形で変革が進むようになると、意思決定も早くなりスピードを担保することができます。

また、ミドル層の合意形成の元で現場の各組織が競合するのではなく協調することにより、組織横断の変革活動を経験し組織を超えた変革能力を身に付けることが可能になります。

そうすることで、ミドル層が変わってしまっても継続して業務変革を推進することができるようになります。組織的な変革能力が獲得できれば、継続性・再現性・連続性を持った中長期の変革活動を行っていくことが可能になります。

…具体的な変革活動の成功に向けたステップは後編へ↓


エディター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)