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人間の意思決定を自動化する「最適化AI」とは?(前編)

LTSのデータ分析チームに所属している井上翔太です。今回は、私が担当する最適化AI開発のサービスについてご紹介します。まず前編では最適化AIとは何かを、そして後編では、LTSが提供する最適化AI開発サービスについてご紹介します。

データ分析チーム最適化AI開発サービス担当

井上 翔太(LTS マネージャー)

データ分析・AI導入において、コンサルティング(業務課題特定・要件整理)からアルゴリズム開発までをリードしている。最近では、消費財メーカーにおける棚割自動化や製造業における大規模言語モデルの活用を推進。数理最適化、ベイズ統計、深層学習(画像処理、言語処理、強化学習)と幅広い領域で経験を持つ。特に、数理最適化の領域を専門としている。(2024年1月時点)

様々なところで活用されている「最適化AI」とは?

最適化AIとは、業務における「相反する目標や制約」を考慮しつつ、その中で最良な選択肢を見つけるアルゴリズムを用いたAIのことです。

例えばトラックの配送業務の最適化において、配送業者は「トラックの台数を減らしたい」「全てを2時間以内に配送したい」という目標があったとします。しかし、トラックでの配送には「法令速度の遵守」「積載物の重量の遵守」という制約があります。
制約を守りつつも、目標に対して最も良い方法を探すのが最適化AIです。

バイトのシフト作成の例では、「実際の業務を止めない」という制約を守りつつ、「出勤日数と希望日数を極力同じにしたい」「休業希望日に出勤要請する場合、皆に均等に要請したい」「必要人数ピッタリのシフトにしたい」といった目標に対して適切なシフトを作成します。

その他の最適化AI活用の例)

  • 鉄道会社:乗務員スケジューリング、ダイヤの作成
  • 行政:消防署などの施設配置、効果を予測したインフラ整備の計画
  • オフィスビル:空調のコントロール、移動時間や混雑を減らすエレベーターの制御
  • コンビニ:つい買いたくなる陳列や導線の設計、廃棄や返品を減らし商品や在庫を無駄なく管理する在庫管理
  • 空港:整備員や乗員が動きやすいゲート割当て計画、安全で効率的な離発着のスケジュール計画・実行
  • 工場:天候の変化や報道・社会動向などからの需要予測、人・モノ・時間を効率良く使い品質・コスト・納期のバランスの取れた計画運用をする生産計画・スケジューリング

このような最適化AIの技術は最近できた技術と思われがちですが、主要な技術領域の1つである数理計画法を用いたシステムは1960年代に商用化※1されており、具体例にあげた配送経路やスケジューリングの問題など古くから研究が盛んに行われてきた領域については、以前からビジネス利用が進んでいます。

そして、最近ではPCのスペックと計算アルゴリズムの速度向上により、今まで適用できなかった領域にも活用が進んできています。また、数理計画法のような古くからある手法だけでなく、2015年にプロの囲碁棋士を破ったAlphaGoで利用されている全く新しいアルゴリズム(深層強化学習)等のビジネス利用も注目されています。

なぜ「最適化AI」なのか

なぜ最適化AIがこのような社会を支える多くの場所で活用されているかというと、最適化AIには他の一般的なシステムより優れている点があるからです。それは、最適化AIが業務プロセスにおいて人間にしかできなかった「意思決定」までを自動化の対象としているところです。

画像1:業務プロセスにおける適用範囲の違い

画像1の一般的なシステムの業務プロセスにおける適用範囲の違いを比較してみると、
・ITシステムが自動化できるのはDB蓄積・集計といった「情報収集」まで
・機械学習が自動化できるのはデータの前処理・可視化・予測といった「分析」まで
それに対して、最適化AIはさらにその先を行く「意思決定」までを対象としています。

具体的に需要予測・在庫管理業務に当てはめて解説します。

画像2:需要予測・在庫管理業務に当てはめた業務プロセスにおける適用範囲の違い

ITシステムは、売り上げに関するデータを取得することができますが、データを可視化する程度にとどまります。機械学習では、過去の売上数量やイベントの情報などから需要予測まですることができますが、実際に最適な発注をする意思決定は人間がやっているのが実状です。

最適化AIでは、先ほど説明した〇〇を最小・最大にしたいという「目標」と守らなければいけない「制約」をAIが鑑みて、在庫管理費や機会損失等を考慮した最適な発注量を計算するという意思決定まで実行します。

このように、最適化AIの導入を検討する際には、目的達成のために「分析」「意思決定」どちらのプロセスまでを対象とすべきなのか考える必要があります。可視化や予測等の「分析」まで導入したものの、業務によっては後続のプロセスで人間の判断を必要とするため、分析結果は参考程度にしか使われず、業務効率化につながらないようなケースも考えられます。

最適化AIが提供できる3つの価値

最適化AIのケイパビリティは、従来システムでは難しい高度なドメイン知識と経験に基づいた判断を必要とする業務をより精度高く自動化できる所にあり、大きく分けて①時間削減、②属人化排除・ノウハウ伝承、③意思決定の高度化の3つ価値が提供できると考えています。

①時間削減
まず一つ目は時間削減です。これまで人間の意思決定に基づいて行っていた業務を最適化AIが行うことで、より高速に・正確に処理できるため、業務コストを削減することができます。

②属人化排除・ノウハウ伝承
次に、属人化の排除とノウハウの伝承です。人間による意思決定は、個人によってその感覚値が異なるために属人化したものであり、言語化できない暗黙知のノウハウは継承が難しいといった課題があります。最適化AIは、業務の要件をAIシステムに形式知として積み上げることで、共通の意思決定が可能となり、属人化の排除と担当者に伝承していく必要がありません。

③意思決定の高度化
最後は、意思決定の高度化です。最適化AIは、多角的な観点から複雑な要因を加味して全体最適な意思決定ができるため、人間では的確に判断できない・考えも及ばないような、より高度な意思決定ができるという価値があります。

画像3:最適化AIの提供価値

これらの提供価値を必要とする業務イメージは次の通りです。

  • 時間削減:人間にとって単純だが抽象的な判断を必要とし、多くの人月がかかる業務(例:棚割、シフト計画、配送計画)
  • 属人性排除:マニュアル化が難しく、OJTでしかノウハウを伝承できない業務(例:棚割、プラント設計、発注量計算)
  • 意思決定の高度化:数パーセントでもKPI改善が大きな効果を持つ業務(例:船舶の運航計画、サプライチェーン最適化、ダイナミックプライシング)

身の回りの業務において、最適化AIが適用できそうな上記例に類似する業務をぜひ考えてみてください。

改善サイクルを回して精度を向上

最適化AIは一度作ったらそれで完成ではありません。業務分析→モデル構築→評価といった改善サイクルを継続的に回していきながら、より精度の高いシステムを作り上げていきます。

このサイクルで一番重要なのは業務分析です。業務分析で対象となる業務をしっかりと理解することができなければ、どんなものを作っても業務と一致しないモデルができあがってしまいます。
そのためには、対象となる業務・要件をしっかりと理解して、数式やアルゴリズムに落とし込んでモデルを構築していく必要があります。

そしてモデル構築では、業務を実施内容・理想状態・制約で整理し、数学的な表現に変更します。モデルを構築したら、次は評価を実施します。
評価では、出力結果について考慮できていない条件を洗い出し改善策を検討し、その改善策に基づいて次のサイクルを回していきます。

現代は市場からの要請による業務の変化スピードが速く、俊敏に変更要求に対応し続けるためには、サイクルを回しながら適宜モデルを変えていくことで精度の向上を測ります。

また、最適化AIは従来のシステムよりも自動化対象業務の複雑性が高く、これまでのウォーターフォールのような形で、一度で全ての要件を出すことができません。サイクルを回していく中で改修を繰り返していくアジャイルのような形で進めていく方が、親和性が高いです。

このような改善サイクルを継続的に回していくには、しっかりと業務ヒアリングを実施してそれをモデルに落とし込み、評価まで実施できる最適化AIコンサルタントを活用することをお勧めします。

LTSはビジネスプロセスマネジメントを強みとするコンサルティング会社で、専門のデータ分析チームもあるため、このような改善サイクル回していく活動は、これまでの私のサービス提供経験からもとても親和性があると感じています。後編では、LTSが提供する最適化AI開発サービスについてご紹介します。


インタビュー

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)

ライター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)