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人間の意思決定を自動化する「最適化AI」とは?(後編)

LTSのデータ分析チームに所属している井上翔太です。前編では最適化AIとは何かをご紹介しました。後編では、LTSが提供する最適化AI開発サービスについてご紹介します。

データ分析チーム最適化AI開発サービス担当

井上 翔太(LTS マネージャー)

データ分析・AI導入において、コンサルティング(業務課題特定・要件整理)からアルゴリズム開発までをリードしている。最近では、消費財メーカーにおける棚割自動化や製造業における大規模言語モデルの活用を推進。数理最適化、ベイズ統計、深層学習(画像処理、言語処理、強化学習)と幅広い領域で経験を持つ。特に、数理最適化の領域を専門としている。(2024年1月時点)

お客様のニーズから生まれた最適化AI開発サービス

LTSでは最適化AI開発サービスを提供しています。なぜこのようサービスを立ち上げたかというと、一番はお客様からのニーズによるものです。私はLTSに新卒で入社した当初からデータ分析チームに所属し、工事現場の施工順序の最適化や医療機器専門商社の発注量計算の最適化など、最適化技術に関連する案件に従事してきました。

AIというと機械学習といった技術が注目されがちで、「最適化」というような技術の市場認知はまだ低いですが、お客様へのヒアリングで出てくる要件を紐解いていくと、この最適化の技術を使わなければ解決できないような意思決定の自動化といったところに、たくさんのニーズがあることに気が付きました。

LTSのデータ分析チームには、データ分析の中でもさらに細かい領域に特化した知見を深めているメンバー※1もいるため、この最適化AIについても、お客様の課題を解決する一つのソリューションとして、またチームのケイパビリティを高めるためにも必要な領域だと感じたことが、サービス立ち上げの経緯です。

※1 データ分析チームの他の領域
人工衛星データ活用サービス:https://clover.lt-s.jp/5426

また、最適化AI開発は一般的なITシステムよりもより高度で複雑な要件まで考慮したシステム構築が可能な分、お客様の要件をしっかりとヒアリング・理解してモデルに落とし込み説明できる、この領域に特化した最適化AIコンサルタントが必要だと感じています。

現場に入り込んでお客様と膝を付け合わせてヒアリングするようなコンサルティングを行っているLTSだからこそ、親和性の高いサービスではないかと感じています。

サービス提供事例(数理最適化技術を適用した自動棚割アルゴリズム)

LTSの最適化AI開発サービスの代表的な事例として、花王様※2と共同で開発している自動棚割生成アルゴリズムがあります。

※2 実証実験についてのプレスリリース
2021年7月にスタートしたLTS/イオトイと花王グループカスタマーマーケティング社が共同開発したAIによる自動棚割りアルゴリズムを使った実証実験
https://lt-s.jp/news/pressrelease/2021-07-27

棚割りとは、私たちが普段スーパーやドラックストアで目にしている商品陳列棚の、どこに、どのくらい、何を陳列するかを計画することを言います。通常、この商品陳列棚の計画は、担当者の直感によって手作業で作成されていますが、“小売りの数×商品カテゴリー×棚サイズ”という膨大な数を作成する必要があります。

この棚割作成の作業時間を削減するために、人が作成した基本パターンをもとにその商品構成や配置に準拠しつつ、拡大・縮小パターンを自動的に作成できる「AI自動棚割り生成アルゴリズム」を開発しています。

画像1:LTSのサービス提供スケジュール・プロセス

今回の事例でLTSは、業務分析からモデル構築をデータ分析チームに所属する最適化AIコンサルタントが、システム構築をLTSのエンジニアリングチームに所属するエンジニアがご支援しています。

私たちデータ分析チームとしては、お客様へのヒアリングを通して業務分析を行い、AS-IS/TO-BEの作成と業務整理による削減工数の見積もり、また最適化の要件をリストアップして、その要件を基にアルゴリズムの設計・モデル構築~評価を実施しています。

前編でもご説明した通り、最適化AIは一度モデルを構築したらそれで完成ではなく、業務分析→モデル構築→評価といったサイクルを継続的に回していきながら、より精度の高いシステムを作り上げていきます。

画像2:最適化AI構築の継続的な改善サイクル

お客様とディスカッションを重ねながら、AIの出力パターンと人が実施した際の正解パターンを付け合わせた定性的な評価と、品質・速度・拡張性等の観点で数値的な指標を作り定量的な評価を実施します。

今回の案件では、実証実験開始当初の見積もりで、棚割り作業時間を最大で60%削減できると見込んでいます。現在も継続して売り場での実証実験を実施していますので、効果検証とさらなる改善・効率化を進めています。

どんな課題感に最適化AIが活用できる?

今回の事例では、最適化AIの活用によって作業時間の大幅な削減が見込まれてれいますが、最適化AIの価値は大きく①時間削減、②属人化排除・ノウハウ伝承、③意思決定の高度化の3つ(詳細は前編を確認)あると考えています。

①時間削減
業務時間の削減だけを考えた場合、一般的なITシステムなどもソリューションの選択肢としてあると思いますが、最適化AIを活用するメリットとして、既存のITシステムでは自動化できない人間の複雑な感覚値が介在している意思決定まで自動化し時間を削減できるという点があります。

②属人化排除・ノウハウ伝承
そして、意思決定まで含めて自動化をしたいというお客様、または、人間の覚値的な意思決定は明確に言語化されておりず属人化の懸念や口頭での伝承が難しいため、そのあたりに課題感を感じているお客様にも最適化AIはフィットするのではないかと考えています。

③意思決定の高度化
加えて、上記の2つとは少し異なる観点ですが、これまで人間が実施していた意思決定をさらに高度化したい別の観点や要因も加味した全体最適な意思決定をしてほしいというお客様にもお応えできるかもしれません。

これら3つが業務の課題となっているお客様には、最適化AIが活用できるのではないかと考えています。

最適化AI開発サービスの今後

ですが、実際にはこういった課題感が言語化できていないお客様も多くいるのではないかと思います。
私たちLTSとしても、基本的には最適化AI開発を入り口としてサービス提供を始めるのではなく、お客様へのヒアリングを通してビジネス要件を満たすために最適化AIで応えられるのあれば、一つの手段として提供していきたいと考えています。
データ分析チームには、最適化AI開発サービス以外にもサービスがありますので、お客様の課題に応じて適切なサービスを選択・ご提案します。

最適化AIの技術に限らず機械学習やAI全般に言える事ではありますが、市場環境の変化等に応じて継続的に改善サイクルを回していかないと、構築したモデルがすぐに使えなくなってしまうため、PoCが完了し実装段階に入った時にどのように運用していくのか、というところはまだ課題があると感じています。

コンサルタントが継続的にお客様内に入り続けることは、コストもそれなりにかかりますので、基本的にはお客様ご自身で改善サイクルを回していく体制を整え運用していくことがベストだと考えていますが、技術面・知識面で大きな壁があります。

花王様との共同案件を通して、最適化AIの領域・技術を深められていますので、今後もチームとしてもっとたくさんの経験を積んで技術を蓄積していき、将来的には最適化AIの開発基盤を整えて、お客様側の技術面・知識面をカバーできるような、より汎用的に活用できる最適化AI開発のサービスを提供していきたいと考えています。


インタビュー

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)

ライター

Yuno(LTS CLOVER編集部員)

CLOVER編集部員。メディアの立ち上げから携わり、現在は運営と運用・管理を担当。SIerでSE、社会教育団体で出版・編集業務を経験し、現在はLTSマーケティングGに所属。趣味は自然観賞、旅行、グルメ、和装。(2021年6月時点)