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デジタルテクノロジー

モバイルアプリ開発のプロ集団が解説 開発の進め方や費用、失敗成功ポイント(後編)

前編ではモバイルアプリ開発が企業のDXにもたらす価値や、有効な選択肢となる企業例を紹介しました。後編では、実際の開発で必要な費用やスケジュールについて細かに解説します。
森島 航(からくり株式会社 執行役員兼DXソリューション営業部部長)

2014年よりからくり社に参画。iOSやアプリ開発のエンジニアとして入社し、現在では執行役員を担いつつ、営業リーダーを担当し大手企業各社との窓口を担当している。(2022年7月時点)

照屋 俊佑(からくり株式会社 マーケティングリーダー)

大手SIerを経て、iOSのエンジニアとしてからくり社へ入社。その後プロジェクトマネージャーや営業グループのリーダーを経て、現在からくり社の人事及びマーケティング部のリーダーに従事している。(2022年7月時点)

川島 威一郎(からくり株式会社 エンジニア兼DXソリューション営業)

主にモバイルアプリの開発に従事し、プロジェクトによってはリーダーやプロジェクトマネジメントを担当している。並行してソリューション営業としても活躍し、主に中小企業各社との窓口を担当している。(2022年7月時点)

この記事では、ITサービスの事例メディア「CS Clip」が「からくり株式会社」の事例や専門性をQAインタビュー形式で解説します。


モバイルアプリは誰にとって、どんな課題に対して有効なのか

―――あらためて前編の振り返りとして、モバイルアプリはどんな企業様や課題にフィットしているのかを整理させてください。

照屋
前回お話した通りですが、to C ・to B問わず価値を感じていただけると思います。

PC/Webシステムとは異なる大きい利点が、人に最も身近なIoTデバイスであるスマホであること。だからこそ通常PCを触れない方や触れないシーンへの訴求が可能です。

加えて日常的に持ち歩き触れる端末のため利用シーンのデータ収集が可能な点は、マーケティングとしても非常に活用範囲が広いことが特徴ですね。

フルスクラッチ開発を選択する理由

―――その中でもフルスクラッチ開発を選ぶべきシーンについて、さらに踏み込んで質問をさせてください。モバイルアプリ開発について相談したい場合、どこまでアプリのイメージを持って相談に臨めばよいのでしょうか?

川島
そうですね、企業様によってさまざまですが相談時点では詳細まで決まっていないケースがほとんどだと思います。むしろ企業様によっては、「とりあえず〇〇の分野でモバイルアプリをつくりたい」というご相談も少なくありません。

比較的考えておられる方でも「なんとなくこういうアプリを導入したい」というくらいで、その機能やアプリでの実現方法、その先のエンドユーザーにどういう影響があるのか等までは、検討できていません。アプリ開発の経験がある企業様が多いわけではないですから、これは仕方のないことだと思います。

「ビジネスの課題をモバイルアプリでどう解決できるのか?」を一緒に考えていくところからサポートするのが常ですので、詳細はあまり考えずに相談いただいても大丈夫ですよ。

―――とりあえず、というのはまた漠然としたニーズですね

川島
とりあえずと言っても、多くが「他の企業がやっているから作りたい」、が大半です。

DXやIT化はこの時代一般化してきている目線です。やらなければいけないという感覚に近いのもあって、こういうご相談をいただくのだと思います。

ただニーズを紐解いていくと、業務効率化やコストカット、レガシーな仕組みからIT化を進めたいというto Bのニーズと、ある程度Web等でビジネスが動いているto Cの企業様によるモバイルアプリ導入で売上や顧客満足度の向上、という2軸が今のところ多い印象ですね。

―――to BのDXやIT化、to Cの売上や顧客満足度向上が大きいニーズなんですね。他にはこういうニーズもある、というのがあれば教えてください。

森島
実は、オフショア開発やSaaSでモバイルアプリを作ったけれど、やっぱりカスタマイズがどうしてもうまくできなくて改修したい、作り直してほしい、というご相談はここ10年で非常に多いご依頼になっています。デザインや中身の質の問題もそうですし、保守性も悪いので助けてください、というご依頼ですね。

オフショア開発:海外など遠隔地のITベンダーに開発を委託すること。人件費などコストを抑えられるメリットがある

―――質というのはどういう問題が起きるのでしょう?

森島
企業様が開発ベンダーと適切に意思疎通ができておらず、当初のイメージや仕様書通りに開発できなかったとか、ユーザーのニーズを受けてSaaSで作ったアプリの機能を増やしたいが簡単にはできない、というケースですね。

オフショアの場合、コードの可読性がよくないものができ上がってしまい、修正も安易にできない、というご相談はよくお受けします。

さらには海外とのコミュニケーションになりますから、そこはとても難しいです。ただでさえ想定通りのものができ上がっていないのに、保守運用となるともうお手上げになってしまう、という企業様は非常に多いのです。

導入でコストを抑えるためにオフショア開発やSaaSを選択して、後々うまくいかなかったと気付いて作り直すというのは余計にコストもかかってしまうので、そういう場合は最初からスクラッチ開発を検討したほうが、結果的にはコストを抑えての開発・運用につながります

―――逆にSaaSを選択するべき企業様とは、どういう方々なのでしょうか

森島
SaaSは、O2O(Online to Offline)などはフィットしていてやりやすいと思います。お知らせの機能や商品一覧、クーポンなど。このあたりがSaaSで最初から綺麗にまとまっています。このあたりを導入したいという企業様は、すでにある機能で十分ご満足いただけると思いますので、SaaSを選択されるのが良いと思います。それ以上に何か独自の機能を盛り込みたい場合は、スクラッチで開発をするのがおすすめですね。

こうしたご要望は小売企業様に多いですが、モバイルアプリ自体この小売業界にはすでに浸透していることもあって、リテラシーの高い方が多いですね。

フルスクラッチ開発の実情、コストや期間を知る

―――モバイルアプリ開発を選ぶべきシーンや最適な企業の理解が深まった所でもう少し突っ込んだ質問をしたいのですが実際モバイルアプリ開発に必要な予算はどのくらいを想定しておけばよいのでしょうか?

森島
あくまでプロジェクトの規模やご要望に合わせて変わる前提ではありますがお話させていただきます。

例として、モバイルアプリ開発で一般的には、iOS/Android両OSに対応したアプリ、データを保管するクラウド、データの管理を行うWebの管理画面と、このあたりが一式必要になります。これらを用意すると、1,000~2,000万ぐらいは最低でもかかってきます。

ここからさらに機能の追加や管理画面もユーザーの役割別に分けて複雑な仕様で作るとなると、5,000~7,000万になる可能性もあります。

―――機能を抑えてコストを下げるとしたらどういう選択肢がありますか?

森島
例えばOS片方だけの適用だと1,000万以内に収まる可能性はあります。

あとはクラウドでのデータ管理を使用しないアプリの場合ですね。この場合、データ管理は全てアプリの中だけで完結するので、クラウドサーバー側の管理は必要なくなります。こういうアプリですと例えば500~1,000万以内でできる可能性はあります。

―――iOSやAndroid片方だけの開発や、クラウドをつかわないって、大丈夫なのでしょうか?

森島
プラットフォーム固定の場合ですが、社内用のアプリ開発で、社員用端末のOSがどちらかだけという場合がありますね。他には、塾で使用する教育系アプリの開発で塾生にはiPadを配布しているからiOSアプリだけを作ってほしい、というニーズがありました。

クラウドなしの場合はもっと特殊で、世に出すようなアプリというよりは、その社内で検証するようなアプリや図鑑のようなアプリですとか、アプリ内だけで完結していいというご希望の場合のみ、ですね。一旦アプリ内で全部データを持っておいて、条件を満たしたら画像データを見ることができるようになる、といった仕組みです。

ただこれはほとんど需要がないですね。アプリを消したらそのデータはなくなってしまいますし、アプリの容量も非常に重くなりますから…。

―――今度は期間のイメージを教えてください、スクラッチ開発にはどのくらい時間がかかるものなのでしょうか?

森島
これも規模や内容に寄ってしまうので、一概には言えませんが、そうですね、短くて3ヶ月ぐらいです。5ヶ月とか6ヶ月ぐらいが一番多いと思います。プロジェクトによっては、1年かけて開発したプロジェクトもあります。

―――半年ほどが多いのですね。プロジェクトの進め方はウォーターフォールが多いのでしょうか?アジャイルになるのでしょうか?

森島
ほとんどがアジャイル開発になります。

そもそも前述の通り、最初から企業様でこういう機能にします、と定義して来られる方はほとんどいらっしゃいません。開発し、要件を詰めていきながら、「今この機能はこうしましょう」とか「この機能を入れたかったですけど一旦フェーズ1では置いといて、次のフェーズに回しましょう」などと議論しながら開発を進めています。

要件定義自体は1~2ヶ月、残りの4ヶ月が開発中心というスケジュールでしょうか。

ただその中でも要件が変わるときは変えながら実装して、という感じですね。開発していく中でも、やはりこうした方が良いとか、ご要望が出るので、その中で要件を修正するということは多いです。

モバイルアプリの可能性や未来

―――ここまでモバイルアプリ開発のリアルのお話を聞かせていただきありがとうございました。最後に、モバイルアプリの今後の可能性や、こういうこともできるんだ、といったお話をざっくばらんに教えてください

森島
弊社はネイティブアプリの開発を得意としているとお話しましたが、スマホ特有の機能をもっと活かした開発はまだまだ可能です。例えばカメラやGPSの位置情報機能、Bluetoothとの連携や、通話機能を利用した機能など。こうした点はモバイルアプリならではで、ビジネスを広げる可能性があると思います。

照屋
そうですね。あとはいま私たちが一番触れているスマホ、これを使って今までは取得できなかった様々な情報を取ることで、ビッグデータや機械学習と連携してできることはまだあると思います。

これがIoT・ウェアラブルで、例えばアップルウォッチから取れる情報や、今後スマートグラスみたいなものが出たら、またそれで変化も起きるでしょう。このようにハードが進化するのに合わせてソリューションが提供できるという点が、モバイルアプリ開発ならではの可能性だと思うのです。

川島
今回お話した、SaaSなどノーコードやローコードで簡単に作れるアプリと、フルスクラッチで開発するネイティブアプリとの違いは今後ハッキリしてくるのかなと思います。

前者で言えば、基本は店舗やWebでの集客という用途が大きいと思います。
対してネイティブアプリはそういったアプリに比べると使える機能に制限がありません。

だから、簡単に作れるアプリで集客し、それ以降の利用者により長く使ってもらうための、ロイヤルカスタマーのためにサービスの本質的な価値を伝えていく機能の実装はネイティブアプリで実現をする、といった住み分けや専門化が進むとも思います。過去10年と比較しても飛躍的に広まっている分野だからこそ、可能性は非常に大きいですね。

照屋
モバイルアプリは、業界標準としてパッケージ製品となっている分野はまだ多くありません。これが固まるのはまだしばらく先の話ですね。だからこそ今、身近なIoT端末を活かしたDXを積極的に進めることで、他社よりも競争力が一歩先に進んでいくのです。

この変化の時代をITパートナーとして進んでいくことができるのは、とても楽しみです。

―――ありがとうございました、モバイルアプリがビジネスにどうインパクトを与えてくれるのか、そして開発のリアルな実情や未来のお話まで本当に学びのある時間でした!


ライター

CS Clip事務局()

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