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プロセス変革・業務改革

数字を活かして人・組織が動き出す仕組みづくり 今求められる経営管理とは

LTSの経営管理チームメンバーの松本和也です。

これまで対談やコラムの執筆をされてきた髙橋矢さん率いるLTSの経営管理チームに、新卒で配属された私が2冊の書籍を通して学んだことを共有したいと思います。そして、チームが目指している「数字を活かして人・組織が動き出す仕組みづくり」とは何かご紹介します。

ライター

松本 和也(LTS コンサルタント)

予算管理システム構築や、データ活用促進に向けた取り組み支援の経験を経て、経営管理チームに参画。製造業やIT関連業界へのシステム導入、事業管理支援を担当。趣味は登山やキャンプ、旅行などに加え、新たに畑仕事にも挑戦中。(2021年12月時点)

2冊の書籍から見る経営管理「数字の持つ意味」

LTS経営管理チームが大切にするコンセプトに、「数字を活かして人・組織が動き出す仕組みづくり」があります。LTS経営管理チームとしての経営管理とは、経営層の想い(戦略目標)を定量化して現場に伝達し、人・組織を動かしていく仕組みであると考えています。そして、「数字」を経営と現場をつなぐコミュニケーションツールであるとも捉えています。

こうした考えを持つ経営管理チームに新卒ですぐに参画した私は、最初にアサインされた管理会計システムの構築プロジェクトの中で、早速この「数字」と向き合うことになります。新卒でアサインされたころの私は「数字」はあくまで分析対象、数字の傾向を見て今後のアクションを考えていく材料、つまり結果に対する評価といった意味でしかとらえられていませんでした。この段階では“「数字」がコミュニケーションツールである”という言葉の意味を理解することはできていませんでした。

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また、プロジェクトにアサインされてから初めて、同じ「売上高」といった数字も目的に応じて組織別や製品別など様々な切り口にて収集・集計・出力するという要件があることを知りました。そして、それぞれの切り口においてさらに年初の計画、実績、将来の見通しといった切り口など、数字それぞれの意図にも触れました。これらの切り口の設定こそ、「メッセージ」として現場に伝わるものだと感じました。

例えば、これまで年初の計画に対する実績の差異が大きい場合のみ報告を求める運用をしていたところに、年度末の見通しの報告を求めるようになったらどうなるでしょう。まずは、管理者側では計画の前提が期中に大きく変わっていることに、いち早く気づくことができるようになります。そして、それに対して手を打つことができるだけではなく、現場側でも見通しの数字をつくるために、これまでにはなかった内部コミュニケーションも生まれます。さらには、外部環境の情報を収集するようになるかもしれません。

このように具体的な場面を知ることで、数字を集めるといったアクションにより、様々な人の行動・意識が変わる可能性があるのだと理解しました。その後、こうした要件はお客様ごとに異なることを知り、管理する「数字」の意味をますます意識させられました。

数字の持つ意味に関心を持ち始めたまさにそのころ、タイトルにひかれて思わず手に取った本が『現場が動き出す会計』でした。そして、より具体的に経営層の意図を感じられる数字が現場のモチベーションとなっている事例として『売上を減らそう』という書籍に出会いました。この2冊の書籍から、私なりに学んだことをまとめてみたいと思います。

特に、経営管理というテーマで「書籍では読んだことがあるけど実際はどうなんだろう…」「似たようなプロジェクト/場面にいるのでおすすめの書籍や事例を知りたい…」という人に共有したい内容です。

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管理会計システムの2つの機能、情報システムと影響システム

現場が動き出す会計』の中で管理会計システムは、以下2つの機能を持つことが指摘されています。

上司のための情報システム

管理会計システムによって現場の実績が測定され、上司に報告されると、上司はその情報に基づいて自分がすべき行動(現場に任せていない部分)を決める。その上司としての行動決定に必要な情報を管理会計システムが提供する、ということである。

現場が動き出す会計』、第1章管理会計は経営システムの要、P28

部下への影響システム

何を測られているのか、それがどう使われるのか、に依存して、現場の人々が自分の日々の努力のパターンを変える可能性があるからである。測定され、評価されることに人間は反応する。だからその反応する現場の人々への影響、というものが生まれる。それが、現場への影響システムとして管理会計システムが機能するということの意味である。

現場が動き出す会計』、第1章管理会計は経営システムの要、P29

1点目の情報システムとしての機能は、管理会計システム導入プロジェクトの中でお客様から「要件」として受領する部分だと理解しました。例えば、予算の設定のある分析軸(組織、製品、サービス、人、エリア別など)ごとの実績データの出力、経年データの出力、ほかにも予実差異が発生している場合の差異理由や最新見通しデータの収集を行い、レポーティングするといったことも該当します。

2点目の影響システムとしての機能については、先のプロジェクトでは当初は部下(入力担当者)の負荷といった観点で現行業務からの変更点について考慮はされていたものの、なかなか「測定されること」そのものの影響まで議論に上がることはありませんでした。もちろん、システム化に向けた整理をしていくと、行動決定に必要な情報を管理会計システムから出力するために、そもそも実績を登録する時点の業務変更(測定項目の追加)が必要となります。これは、オペレーション上の現場への影響が出てくるケースですが、実際は部下に与える影響にまで踏み込んで指標を検討されているお客様は多くはないのです。

人はなぜ測定されると、行動を変えるのか

では、現場の測定項目が変わると、どのような影響があるのでしょうか。

影響システムとしての機能の中で説明されている、「測定」されることで行動を変える基本的な論理は、以下のように整理されています。

「測定結果を見る目が気になる → よく見せたい → 行動を変える気になる」目には、上司の目、周囲の目、内なる目、という3種類が存在するが、いずれの目についても自分の測定結果をよく見せたいと思うからこそ、人は行動を変えるのである。そして、測定が行動に与える影響の大きさは、気になる目がどのような形で存在するかによって異なるだろう。

現場が動き出す会計』、第13章なぜ人は測定されると行動を変えるのか、P334

システム導入に際し、議論の中心は管理側の行動決定に必要な情報をいかに集め、確認できるようにするかといった、管理者(測定者)側の論理であることがほとんどでした。なぜなら、管理会計システム構築プロジェクトのメンバーには「管理者」側の方しかいらっしゃらなかったためです。

しかし、意図する・しないにかかわらず、測定に対して現場は何かしらの反応を示すものであることが書籍の中では主張されています。そのため、意図せざる特にネガティブな影響を防ぐためにも、いかに「現場想像力」をはたらかせるか、つまり測定されることが現場にどのように受け取られるのか、どう反応されるか想像することが重要であると書籍の中で指摘されています。

実際のプロジェクトでは、想像しきれない部分を補うために、現場の方に対する説明会の場で使い方だけではなく管理者側の方から意図をお伝えいただいたうえで、現場の方からの質問を受け付けるやり取りを実施しました。そして、稼働後も現場の反応をもとに微改修を加えていくことで、「使われる仕組み」として定着させることができました。

現場の反応を考慮した目標値の設定

この不等式(意図せざる影響システム>意図した影響システム>情報システム)が「現場が動き出す会計」に与える示唆は、2つある。1つは、管理会計システムの役割を情報システムに限定して考えるのではなく、むしろ影響システムとしての機能を中心に考えるべきだということ。もう一つは影響システムとしての機能を狙って管理会計システムを設計する際には、意図せざる影響が極力小さくなるように、事前にあらゆる可能性について考えを巡らせるべきだということ。そこまでして初めて「現場が動き出す会計」が実現するのである。

現場が動き出す会計』、最終章会計を武器にする経営、P357-358

私は先述の通り、数字の持つ意味に興味を持って書籍を読み始めました。しかし、管理側が数字を見て行動決定していく以前に、「測定」するだけでも現場の意識が変わり、行動が変わっていくのだと、改めて意識させられました。

重要なことは、管理側がなぜその項目で測定をするのか、その項目での目標値をどこにおくのかだけではありません。管理側の文脈だけでなく測定される側の反応まで想定しながら目標値を設定し、その上で測定の意図をしっかりと現場と共有することが重要だと感じました。

トップの意思が伝わる数字が現場のモチベーションに

測定の先には評価があり、評価のために何らかの目標が設定されるケースが多く見られます。2冊目の『売上を減らそう』の中では、管理する数字にメッセージが込められており現場のモチベーションになっている事例がとても印象的でした。この本では「佰食屋(ひゃくしょくや)」という飲食店のビジネスモデルや働き方、「どんなに売れても100食限定」といったルールに込められた思いが書かれています。

佰食屋で働く従業員にとって、目標はたった1つです。「1日100食売ること。そしてその中で、来られたお客様を最大限幸せにすること」たったこれだけです。

売上を減らそう』、2章100食という「制約」が生んだ5つのすごいメリット、P80

佰食屋では「従業員のモチベーションアップを図るには」なんて考えたことがありません。お客様がひっきりなしに来られて忙しい時でも、100食まで、という「終わり」が見えているので、最後にお客様に「本日完売です!ありがとうございました!とテンションを上げてご挨拶ができる。お客様に、心からのありがとうを贈ることができるのです。

売上を減らそう』、2章100食という「制約」が生んだ5つのすごいメリット、P82

最初から1日100食にたどり着いていたわけではなかったものの、軌道に乗ってからは無理のない数字となっており、この数字が自然とモチベーションとなっていました。100食といった上限がなければもっと売上を伸ばせるのでは?といった疑問は当然出てくるかと思いますが、書籍では以下の考えからあえて「売り上げをギリギリまで減らす」ことを決断されています。

会社の売り上げがどんなに伸びても、従業員が忙しくなって、働くことがしんどくなってしまったら、何の意味もありません。しかも業績が上向いたからと言って、従業員にすぐ還元してくれる会社は、そう多くはありませんよね。利益を追求するより、私自身が「本当に働きたいと思える会社」をつくろう。佰食屋を始めた時、夫と二人でそう決めました。そして、本当に働きたいと思える会社の条件は、「家族みんなでそろって晩御飯を食べられること」。それが、私たちにとって大切なことだったのです。

売上を減らそう』、はじめに、P28-29

ここではビジネスモデルの良し悪しを議論したいわけではなく、設定されている目標値がトップの考えが伝わる数字であり、目標が現場のモチベーションになっているということです。目標値が成果につながっていることがイメージしやすい事例です。逆を考えると、意図のない無理難題のような目標が上から与えられてしまうと、従業員サイドへは過度なプレッシャーとなり、かえってモチベーションを下げる要因にもなります。「目標は確実にクリアできるものでなければならず、雨の日でも雪の日でもクリアできる数値になっていることが大事」ということも書籍の中では触れられていました。

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数字は経営と現場をつなぐコミュニケーションツール

2冊の本を通して、改めて“数字が経営と現場をつなぐコミュニケーションツール”だというイメージを膨らませることができました。

数字には人の意識や行動を変える力があり、時に意図しないネガティブな結果を生む可能性すらあります。そのため、しっかり数字に対して管理者・現場が納得感を持ったうえで、仕組みが運用されることの重要性を学びました。数字に対する納得感は現場のモチベーションとなり、実績としての成果だけではなく、働き甲斐にもつながっていくと感じました。そのためにも、意図した運用をしていくための仕組みを整えつつ、継続的に見直していく必要があると考えています。

こうした気づきや学びを活かし、数字を介したコミュニケーションが円滑になる仕組みづくりに貢献していけるよう、今後も努力していきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)