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デジタルテクノロジー

現場担当者の価値向上へ! ローコード開発ツールを通じた内製化に向けた取り組み

DX推進のため内製化に取り組む企業が増えてきた中で、実際にツールを活用する現場の方にどのような変化が期待できるのか。ローコードを活用したDXで多くの支援実績を持つブレインズコンサルティングの代表取締役 平瀬氏に、DX成功に必要な組織のスタンスや考え方について聞きました。
平瀬 正博(ブレインズコンサルティング株式会社 代表取締役社長)

京都工芸繊維大学卒。1990年にベンチャーに入社後、2002年にITコンサルティングファームへ転職。同社で最年少執行役員となる。2008年同社を退職し、ITベンチャーを設立後、2013年にブレインズコンサルティング株式会社を新たに設立。代表取締役として、ITコンサルティング事業に加え、AI関連技術の研究開発・AIコンサルティング事業を推進。(2023年2月時点)

ローコード開発ツールの普及と内製化の進展

ローコード開発市場は今後も継続的に成長するというレポートは数多くあります。一方で、今は単にローコードツールが流行っているだけだという意見もあります。確かにローコードツールは「流行りもの」ではありますが、ローコード市場の趨勢が変わってきたと感じています。

ブレインズコンサルティング代表取締役社長 平瀬氏

これまでは、サードパーティーがローコード開発ツールを提供する事がほとんどでしたが、最近はAmazonやマイクロソフトのようなクラウド側での提供が一般的になりつつあります。弊社は、マイクロソフトの「Power Platform」を扱っていますが、MS365自体を多くの大企業が使っている中で、ローコードのツールもセットで活用される機会が多いですね。運用保守面での安心感やライセンス的な観点でもローコードツール提供側の環境が整ってきたと思います。

DXと言われている世の中では、「あるものを使う」や「使えるものは使う」という考え方が主流になりつつあります。以前は「ないもの」をSIerメインで要件定義をしてスクラッチで作ってきていましたが、今後は内製化が進むでしょう。開発に限らずデータ分析など高度な分野も内製化を進める企業が一部に出てきているので、これもある意味時代の趨勢かと思います。ただし、内製化が進むといっても、全て自社で完結できるわけではないため、その一助としてローコードツールが多く活用されています。

組織としての内製化の取り組み

今までは現場の方がやりたいことがあるとITベンダーにお願いし、時間がかかって費用もかかるという状態でしたが、内製化が進む背景がある中で、これからは自分たちの意思でやりたいことがすぐに実現できる環境が整っていくと思います。現場のアジリティを向上させ、より現場で提供できる価値を高めていくことで、企業の力も強くなっていくでしょう。

内製化を進める上で重要なのが、情報システム部門の在り方です。たとえばローコード開発ツールを活用した現場主体のDXに取り組む場合、すでに存在する基幹システムなどを踏まえた、企業システム全体のアーキテクチャの設計やガバナンス面での整備が必要になります。

現場でやりたい事がたくさん出てくると、どうしても基幹系のシステムに関係するような複雑なテーマに発展しがちです。基幹系の制約で簡単にデータが抜けない、基幹系と繋ぐとしてもやり方によっては実現できないことがあるため、現場の方の要望をローコードで実現できること、できないことや適さないことをどうすみ分け、既存システムとローコードが上手く共存する世界をつくっていくことが重要なポイントです。

また、ローコード成果物が属人化され、いわゆる野良アプリが散らばった状態にならないよう、導入プロセスの標準化やルールの整備など、ローコードを活かすためのガバナンスの整備も重要なポイントとなります。

情報システム部門はその点を整理し、うまく共存できる世界を創り維持していくために、現場を支援できる枠組みを作りながら、平行して自ら知識のキャッチアップをして、DXを推進させる必要があります。

内製化がもたらす現場担当者の価値向上と人生の変化

私達がローコード開発の導入支援をする中で抱いてる想いがあります。それは、現場担当ご自身が人生における仕事や働くことの価値を向上させ、満足度の高いキャリアを歩んでもらいたいということです。

様々な企業のユーザー部門の方々を見ていると、たとえば上司から「(今のシステムで)何でこんなこともできないんだ」と言われながら、現行システムで実現できていないデータの出力や分析を一生懸命エクセルで取り組まれるんですよね。また、現場の方々に様々な業務を良くしていくアイデアがあっても、費用をかけて実現することは難しいこともあると思います。 

そのような状況で、ローコードツールを活用して費用をかけずにクイックに課題解決でき、顧客自身が継続的にDXを進化させている企業も多くあります。その上で重要なポイントは「現場の方が意欲を持って自ら取り組めること」です。

ハーバード大学のロバート・キーガン教授が提唱している成人発達理論では、人間の発達・成長を5段階にわける分類があります。第一段階は子供のような状態で、第二段階も未成熟な利己的な状態、第三段階は他者依存段階と呼ばれ、自ら意思決定する基準を持たず周囲や他社の基準で自分の行動を決定します。第四段階は「自己主導段階」で自分なりの意思決定基準を持ち自律的に行動できます。この分類では、成人の約70%が第三段階を占めていると言われており、つまりは主体は自分ではなく、人がこうしてるからとか、人からこう言われたから自分はこうします、という傾向の方々です。いかにビジネスパーソンの知性の発達段階を4に上げていくかというところが、最近話題のマネジメント3.0にも通じる部分だと思います。

「内製化の活動で現場担当者のキャリアと人生の満足度を高めたい」

補足になりますが、日本の「企業の俊敏性」は世界競争力ランキングで対象国63か国中63位というレポートもあります。その背景には上記に挙げたような指示されないと動けない大企業の方々が多く存在していると思います。その方々になぜ指示されないと動けないかを聞くと、自分で出来る武器もなく会社からの支援も不十分と言われています。

彼らに変化が起きた最近の例として「RPA」という武器を手に入れたときに、瞬く間に色々な工夫ができるようになった、という話があります。自分から進んで改善活動をやるようになり、その人の人生変わりました、という話を聞いたことはないでしょうか。まさにローコード開発ツールを通した現場のアジリティ向上は、これに近しい話かと思います。

企業のDX内製化をサポートするために外部がどう支援していくか

企業が自ら主体的にDX推進のための内製化を進めるためには、ツール導入の他に外部からの支援も重要なポイントだと考えています。

ひとつめのポイントは、チェンジマネジメントの支援と顧客との伴走です。DXを推進する組織を構築するには、顧客のスキルレベルや環境、課題の内容でやるべきことが異なります。その上でサポートする外部としての基本的なスタンスは、顧客の立場で寄り添い一緒に汗をかきながら並走することです。顧客も専門スキルを持つ外部の人間が寄り添う事で安心して様々なアイデアや施策に取り組む事ができています。まずは並走して価値を感じていただき、それを全社的な取り組みに昇華させていく事が重要だと考えています。

また、企業の経営層の方はマネジメントに関する課題もお持ちです。現場の人たちが指示待ちの状態から、自分の意志、自分の信念で動けるようにするための「チェンジマネジメント」についても、自社内の慣習や常識にとらわれない外部による支援は有効な打ち手の一つと言えるでしょう。

ふたつめは、現場の方の「リスキリング」を推進するための旗振りをしていく事です。本来持っている現場の方の戦闘力を高め活かすための環境と道具立てを構築した上で、担当の方への「リスキリング」を支援し、最終的にはご自身の人生の価値を向上させる状態まで支援し、仕事の満足度が高い状態になってほしい。そのための旗振りや指導も、外部からの支援が必要だと考えています。

DX担当の方、そして現場の方も、最初は半信半疑で取り組まれる事が多いですが、並走し全社的に意識を変えていくことで「自分たちでもできるんだ」という自信を得ます。この閾値を超えた後から、主体的に行動され、さらに様々なアイデアが出てくるようになります。今まではできなかったことができるようになる、という事象が新しい自らのキャリアの価値へつながり、結果的に現場の方のアジリティの向上にもつながるのではないかと思います。


ライター

CS Clip事務局()

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