【ケース紹介】マネジメント不全に対抗する<人的資本経営の実践は変革力の醸成と旧来型マネジメントからの転換が鍵となる>5/5のサムネイル
プロセス変革・業務改革

【ケース紹介】マネジメント不全に対抗する<人的資本経営の実践は変革力の醸成と旧来型マネジメントからの転換が鍵となる>5/5

「人的資本(経営)」がクローズアップされる一方、日本企業では仕事に熱意を持つ〝エンゲージ社員〟は世界最低水準とも指摘されてもいます。いま何が問題なのか、何が求められているのか、どうすればいいのか―。LTSは7月「価値創出プロセスを基点とした人的資本戦略・マネジメント転換支援」サービスをリリースしました。執行役員・Business Development & Insights事業部長の島野陽介が、人的資本の可能性最大化と企業の変化適応力=ビジネスアジリティ獲得についてレポートします。(全5回)
島野 陽介(LTS 執行役員 Business Development & Insights 事業部 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2024年7月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

始まりは現場が変わること

ここまで述べた考え方がどのように企業のリアルな課題に対して適用されるか、事例を紹介していきます。

これから紹介する2つの事例は、いずれもプロセス(価値創出構造)を基点に課題を特定し、課題解決を通じ、結果として人的資本課題やマネジメント課題を解消することを目指した事例です(図16)

(図16)事例の課題領域

1つ目の課題テーマは、複数事業を持つ製造業におけるIT部門の「攻めのITへの転換」に向けた組織能力の向上です。2つ目の課題テーマは、同様に複数事業を持つ製造業における工場のエンゲージメント強化です。

根本原因は共通して、マネジメント不全

分析の結果、いずれの事例においても、現場に丸投げの古いマネジメントスタイルが変革を阻害する原因となっていました。なお、このような問題の状況について、その企業の多くの人が認識していることがよくありますが、多くの人が同じような問題認識を持っているにも関わらず、なぜ問題がこれまで解決されてこなかったのでしょうか?なぜ自律的な改善が行われないのでしょうか?

“なぜそれが今できていないのか?”が問題の本質なのです。

変えられない理由は、組織の壁や経営の壁が変革を阻害するからです。つまり、誰もが認識している問題を組織全体で解決できない、自浄作用が働かない「マネジメント不全」の状態になっているのです。

このようなマネジメント不全にどのように対抗すればよいでしょうか。それは、これまでに述べてきた「プロセス」「人的資本」「マネジメント」の3つの要素がかみ合っている状態を目指す状態として見据えつつ、これらを阻害するボトルネックを特定し、適切な課題を設定するというアプローチが基本となります。

では、各事例の詳細を見ていきましょう。

①経営・事業・ITの一体運営を見据えた、IT部における組織能力向上

A社のIT部門では、各事業部のIT施策をマネジメントできておらず、個別最適化を抑制できずにいた。加えて、事業の統廃合がアーキテクチャを複雑化させており、その保守・メンテナンス業務に追われていた。このような状況から、事業部の要求に自前のリソースでは対応ができていなかった。さらにIT部門は業務を外部のベンダーに丸投げしていたため、「事業課題を捉え、かつ、全体最適視点で必要なITを企画・導入していく」といった組織能力が不足していた。そこで、IT機能として創出する価値を明確にしたうえで、必要な業務機能を洗い出し、現状とのギャップを明確化した。そのうえで、自社における組織能力の構築、外部依存の脱却(戦略的な外部活用)から、IT機能の最適配置につなげていく取り組みを開始した。

背景:基幹システムのEoLや成長事業における業務基盤構築が経営アジェンダとなっている一方で、アーキテクチャの複雑化、IT組織の外部依存により、変化対応力の不足が顕著になっていた。
目的:「経営・事業・ITの一体運営」の実現。これによる企業価値向上に資するIT部門への転換。
目標:短期的には喫緊課題へのリソースシフト(レガシーシステムの刷新・成長事業における課題への貢献。中長期的には抜本的な機能再配置を実現すべく、トランジション計画を作成する
はじめの一歩:当初、ITの目指す方向が組織内でもバラバラな状態であり、活動が停滞していた。まず始めるべきは、IT組織の中で目線を合わせること。全社の目標に対する貢献を考えたとき、IT機能はどのような価値を創出すべきかを定義。創出したい価値に対して、ITの組織能力の不足が本質ボトルネックであることを関係者で認識を揃えた。これまでの総花的な計画から、IT組織能力向上に重心を置いた計画に見直し活動を開始した。

ポイント

  • 変化対応に資するIT機能の確立を見据えた必要機能の言語化、再定義。
  • 必要な機能を踏まえた現状機能とのギャップの明確化。
  • ギャップに加えて、既存人財の育成、外部依存の脱却の観点を加味した、IT機能強化の変革段階の具体化。

②エンゲージメント向上に資する人財マネジメントの再構築

人財マネジメントの強化及び、エンゲージメント向上を目的とした変革プログラムの策定支援の活動を実施。工場の経営・総務・生産を対象とし、特に生産では工場長から現場のオペレータまでの各階層にインタビューを行い、現状の人財マネジメントの問題・課題構造を捉えた。その結論として、最重要課題を「マネジメント転換」とし、目指す状態である価値を基点とする「マネジメント転換」を目指す変革プログラムを策定した。

背景:中期計画の実現に向けて、A工場ではあるべき姿をゼロベースから再検討しており、自律した【個】の成長を促すため、足元ではキャリア開発や育成施策を拡充する取り組みを実施していた。
一方で現場操業員のエンゲージメント向上や環境変化に対応するための自律人財の育成といった課題が認識されており、早期対策が求められていた。
目的:Vision2030の実現に向け、価値創造にチャレンジする多様な人財づくりや自律した「個」の成長に資する人財マネジメントの強化
目標:工場におけるエンゲージメント強化
はじめの一歩:PJチーム内で価値を基点とする考え方を理解。この考え方を工場全体に広げていくために、目下課題となっている人財輩出プロセスに焦点をあてて、組織を越えた活動を組成した。

ポイント

  • 人財マネジメントの成熟度を評価するフレームとして、整合レベルと浸透レベルを評価し、現在地を関係者で共通認識をもつ。
  • 整合:価値創出を実現するためのKSF、個人、組織文化、仕組みが整合されているか
  • 浸透:経営層から現場層まで価値創出に必要な設計要素・状態が理解され、行動・考え方に紐づいているかどうか
  • 経営層から現場層へのインタビュー、及びアンケート結果から、人財マネジメントの考え方や根本原因を探り、何が「変えづらさ」の原因なのか、本質ボトルネックを特定するアプローチ。
  • 目指す状態に向けて一足飛びに取り組むのではなく、自社の組織能力を踏まえ、変革の経験や学びから早く・小さく成功体験を得たのちに、組織的・自律的な変革に向けた組織能力を醸成するといった変革段階の設定。

おわりに マネジメント転換は人的資本経営の“はじめの一歩”

当サービスの主旨はマネジメント転換です。前述したように人財マネジメント(人的資本経営)とは、人財の可能性を最大化することです。一方、昨今の社会全体における人的資本経営に関する潮流は、人的資本情報の開示と開示に必要なエンゲージメントやスキルの見える化の基盤づくりといった活動に寄ってしまっているというきらいがあります。見える化したデータを踏まえて、どのように人財マネジメントに活用するのか、個人の可能性最大化に向けた取り組みは十分でしょうか

人財を社会の資本と捉え、人財マネジメントを「人財の可能性を最大化すること」と定義すると、おのずと社会・顧客と企業、人財(個人)の価値循環の視点が必要になります。ゆえに、タレントマネジメントシステムの導入、エンゲージメントの見える化といった活動だけでは、プロセス(価値創出構造)における人財の役割機能を捉えきることができず、実効性のある課題設定にはつながりません。

本サービスは、価値を基点とするプロセスを整理して組織の役割と組織を越えた連携をどう考えるのか、プロセスを実現するための人財要件や配置をどう考えるのかといった点を検討することになります。そして「プロセス」、「人的資本」、「マネジメント」の観点で価値創造を阻害するボトルネックを捉え、変革し続けるのです。

このマネジメント転換は持続的な価値創出(人的資本経営)の“はじめの一歩”です。価値と人的資本をつなげることで、企業が持続的な価値実現に向けたストーリーを個人に提示でき、そのストーリーと志向性の合った個人が、高いエンゲージメントで企業に貢献する中で、社会・顧客に価値を提供する」という、価値循環を実現することができると考えています(図16)

(図17)価値と人的資本がつながった状態

変革プログラム策定の検討ステップ

組織を越えたプロセス変革やマネジメント転換を着実に進めるためにも、次世代リーダーの育成が欠かせません。変革リーダーの存在が変化への対応の重要成功要因になってくるのです。だからこそ、変革力や組織カルチャーといった土台の醸成が不可欠です。土台の醸成のためには、その機会が必要ですが、やみくもなリスキリングでは限界があります。したがって、エンドツーエンド(e2e)プロセスの変革を通じた変革力の醸成するとともに、マネジメント転換を進めることが現実解と考えます。

変化に対応して変革し続けることそのものが、リーダーを育成する場となり、人財の可能性を最大化するという良い循環をつくることにもつながるのです(図17)

(図18)良い循環を創る(LTS道場)


なお、顧客や事業価値の最大化に資する変革を起こすには、その事業や機能の構造を理解するとともに、課題構造を捉えることが必要となります。課題を構造化することで、事業目標の達成に向け、何を変えればよいのか、どういう順番で変えていくのか、といった短期・長期視点の変革プログラムを立案することができ、変革活動の効果を高めることができるのです。一方で、専門的なスキルと経験が必要な企業変革の上流フェーズは、外部のコンサルタントやベンダーに委ねてきた企業も多いのではないでしょうか。常態的な変化に企業として対応するためには、このような上流フェーズを担う人財の内製化に向けたリスキリングの重要性が増していると考えます。

弊社は、変革人財を育成するサービス「LTS道場」を提供しています。詳細はこちらを参照ください。また、プロセス変革を通じたマネジメント転換を支援しています。詳細はこちらを参照ください。