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プロセス変革・業務改革

“デジタル戦略”立案の要所、顕在化していない課題をどう見つけるか

公益社団法人企業情報化協会(IT協会)主催「第4回 Digital Days 2024」にLTS上席執行役員山本政樹が登壇し、「“デジタル戦略”立案の要所、顕在化していない課題をどう見つけるか」をテーマに講演しました。
山本 政樹(LTS 執行役員)

アクセンチュア、フリーコンサルタントを経てLTSに入社。ビジネスプロセス変革案件を手掛け、ビジネスプロセスマネジメント及びビジネスアナリシスの手法や人材育成に関する啓蒙活動に注力している。近年、組織能力「ビジネスアジリティ」の研究家としても活動している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

講演概要

デジタル戦略立案の要所は、社内の経営課題を分析し、取り組みの候補を生成するところにあります。しかし現実の経営課題は、事業上の課題から、業務やIT基盤に関する課題まで多岐にわたります。しかも、認知できる課題は少数で、隠れた課題を発掘する必要も生じます。この講演では、多義的に使われる“デジタル戦略”という言葉を整理しつつ、デジタル推進部門の立場から経営課題発見の考え方を整理します。

セミナー動画

講演内容のサマリー

Part1  “デジタル戦略”とは?

戦略は大きく分けて「経営戦略」「事業戦略」「機能戦略」の3つのレイヤーに分けられ、下位の戦略は上位戦略の枠組み・インプットを前提に立案することになります。そして、“デジタル戦略”を最も広い範囲で定義すると「DX環境下における経営戦略そのもの」、つまり戦略はすべてデジタル戦略になると考えられます。

「デジタル経営戦略」から落とし込まれた課題が「デジタル事業戦略」となり、そこからさらに落とし込まれた課題が「デジタル機能戦略」へ、そして実行というステップを踏んでいきます。そのため、具体的な取り組み(活動)が実行可能な状態(「デジタル機能戦略」が明確)になっていなければ、実行を担うデジタル推進部門は、戦略を行動に移すことができません。

Part2 実行性のある“取り組み”の姿とは

戦略を立案後、速やかに実行に移すためには、取り組みの概要、推進計画とリスク、取り組みおよびプロダクトのスコープが検討されている必要があります。特に取り組み、およびプロダクトのスコープが不明確では計画を立案することができず、取り組みを実行に移すことができません。

上位戦略から落ちてくる課題には、デジタル機能戦略を立案する上で“機能する課題”と、“機能しない課題”が混ざっており、後者は、ほぼデジタル機能戦略への施策立案の“丸投げ”となる課題です。ただし前者でも、施策推進視点からみて前提事項が明確化されていることは稀です。よって、どちらであっても、事実の確認と問題の明確化が必須となります。

Part3 “事実”を重ね合わせて“問題”を明らかにする

戦略は「何が起きていて、何が問題か」という現状理解のフェーズと、それに対して「何をするか」という施策立案と実行のフェーズに分かれています。戦略立案は施策立案に重きが置いて議論されることが多いですが、その前提となる事実の収集と問題の明確化こそが戦略立案の鍵となります。

現場にいって業務の最前線を見る/調べる、お客様の様子を見る、実際の業務の流れを確認する、システムを確認する、扱っている帳票を見る、数字を見る等、事実を収集し、事業構造とそこで起きていることにくっきりしたイメージができるまで情報を集め、確認を続けることが重要です。

Part4  実行性のあるデジタル戦略立案のために

DX環境下の戦略には、かつての単なる業務の自動化だけではなく、さまざまな経営上・技術上の問題を包括的に解決することが求められます。そのためデジタルプロジェクトには、さまざまなステークホルダーからの異なる要求を適切にマネジメントする必要が生じます。これらの要求を処理し、包括的なプロジェクト(プログラム)マネジメントをするために、デジタル人材の役割が多様化する傾向にあります。

すべての役割をすぐに育成・整備することは難しいため、まずは「ビジネスアナリシス」「プロジェクトマネジメント」「システムアナリシス」の三要素が、適切に運営される体制からはじめるべきです。この場合、特にビジネスの意図をデジタルに落とし込む「ビジネスアナリスト」の育成が急務となります。

まとめ

【実行性のあるデジタル戦略立案の要所】
経営や各ビジネス部門からの要求は、経営戦略・事業戦略を経て、デジタル機能戦略(実行計画)に落とし込まれて、はじめて実行につながります。実行性のある戦略を立てるには、明確なスコープ(取り組み境界)を持ち、エンタープライズアーキテクチャと整合のとれた取り組み単位に落とし込む必要があります。そのためには関係者の証言だけでなく、アーキテクチャの実態を調査し、積み上げた事実に基づいた課題設定を行います。

【デジタル戦略立案のための体制の構築】
デジタル戦略立案は、本来は全社での戦略企画の総力戦です。デジタル推進部門だけでなく、すべての部門の総力を結集する必要があります。しかし、多くの場合は経営や事業・業務部門にデジタルや戦略立案・業務分析のリテラシが不足しており、まとまっていません。
このような状態を打破するためにはデジタル推進体制に、戦略やビジネスアナリシスの専門家も必要です。経営や事業・業務部門をはじめ多方面からの要求を整理し、エンジニアとの橋渡しをする人材を育てる必要があります。専門家の育成が追い付かなければ、外部(例:コンサルティング会社)の支援を得て“それっぽい”デジタル戦略を立てても“絵にかいた餅”になってしまいます。戦略立案とデジタル施策の実行を通じて専門家が育つまでは、無理な戦略・計画を立てないことも必要です。