LTSはSAPジャパン株式会社と「PartnerEdgeエンゲージメント契約」を締結し、導入や運用・保守に関するコンサルティングサービスを本格的に提供しています。クラウドERP「SAP S/4HANA Cloud Public Edition(以下、SAP Public cloud)」は、日本でも中堅・中小企業を中心に普及期に入りました。企業変革の強力な武器になり得るSAP Public cloudについて、本編ではLTS常務執行役員の髙橋矢と、SAPソリューション事業部シニアマネージャー大塚正、マネージャー渡辺千馬がメリットやデメリット、実際の「導入現場」について意見交換しました。

新卒で食品会社の情報部門に入社し、業務・システムの基本を学び、コンサルタント会社へ転職。 ERP(SAP)の導入で販売管理(SD)担当として、構想策定~導入まで複数社を経験を積む。 その後、複数のSI・コンサルティング会社にて、他のERPの導入・提案も経験し、2024年にLTSへ入社。 現在、SAP Public Cloudの事業立ち上げ、およびSAP Public Cloudの構想策定フェーズPJに参画している。

SAPを中心としたERP(基幹業務システム)の導入案件に従事。 SIerで25年を超えてSAP導入案件に携わり、製造・商社・サービス業等の業種で、PM/PMOやモジュールコンサルタントを経験。 2025年よりLTSへ入社し、SAPのSaasERPである SAP Public Cloudを主力ソリューションとして導入案件を推進する。
ノンコア業務は自動化されていく
髙橋:
日本でもSAP Public cloudは認知されつつあります。しかし、まだ普及の初期であり、実態を把握していない企業が多数だと思います。SAPコンサルタントの立場から、「SAP Public cloud」のメリット・デメリットをどう捉えていますか。
渡辺:
「SAP Public cloud」は追加開発がほぼ不可能であり、Fit to standard(F2S)の必要性が増します。それをメリットとするか、デメリットにしてしまうか、私たちの腕の見せ所です。従来のオンプレミスのSAPでは、追加開発で現行業務への最適化を図っていたので、「SAP Public cloud」導入をリスクに感じる企業も多いでしょう。
特に、業務プロセスが複雑になりがちな大企業では、F2Sの難易度は上がります。しかし今後は、業務プロセスをシンプルにしていくことで企業や業務の変化に敏速に対応することが求められる時代に突入していきます。5年後、10年後の顧客の姿を見据えて、今こそ業務のシンプル化=F2Sへ導きたいと考えています。
大塚:
SAP Public cloudの特徴の一つ、AI agent機能のアップデートにも注目が集まっています。 SAP Public cloud は、年2回の短スパンで新機能を含んだ強制アップデートが実施されます。新機能をより早く取り込んでいく企業では、近い将来、SAP Public cloudの会計・販売・購買処理をAIエージェントが自動的にこなすような、革新的な世界が実現されるでしょう。
これら業務以外でも、「経営判断の資料作成の自動化」では、費やす時間が圧倒的に短縮されるといわれています。経営判断の資料はデータの検索、集計、加工、資料化と工程が多く、定常業務の中でもボトルネックとなっている企業が多いのではないでしょうか。しかしAIエージェントは、情報を入力するだけでレポート案を自動で出力してくれるので、人間は最適な案を選択するだけで良くなります。属人化され足枷となる業務をF2S(標準化)することが、企業の競争力を高める一助になるでしょう。

髙橋:
AIエージェントはいま、特に関心の高い機能ですね。
大塚:
はい。ただ各業種のトップにいる大企業は、その長い歴史で蓄積された膨大なデータ、ブラックボックス化された独自の業務プロセスがあり、簡単にF2Sできない部分もあると思います。その場合、競争業務と非競争業務との見極めが大切になります。誰がやっても価値が変わらない非競争業務は、積極的にするべきと考えます。そうして負担を低減し、競争業務への資源を再投資できるようにすべきでしょう。
渡辺:
そうですね。F2Sが必ずしも唯一の正解ではない、という認識は忘れてはいけないですよね。どうしてもF2Sに寄せきれない部分に関しては、追加開発も一つの手段として残るとは思います。
とは言え、追加開発に必要な人財・お金・時間を用意できないからこそ、SAP Public cloud導入時にF2Sで業務改善に挑む企業が増えている感覚はあります。

実は泥臭く人間的な導入PJ
髙橋:
これまで語ってもらったよう、SAP Public cloudの恩恵を享受するためにも、F2Sが欠かせません。主にユーザサイドに立って導入を担ってきたLTSとして、どのような支援で顧客に価値を提供できますか。
大塚:
F2Sへの支援は、まさにLTSが強みにしている部分であると自負しています。多くのベンダーはシステムありきの支援で、システムに則った業務プロセスしか見えておらず、システム外の業務設計や社内教育までは支援が行き届いていません。システム外にある業務プロセスまで含んだ形での、企業構造全体を捉えたアプローチがなくては全体最適、企業変革を実現することはできません。
LTSはシステム導入をゴールとするのではなく、システム外の業務設計、チェンジマネジメントを含め、顧客の未来に責任を持って支援します。LTSはユーザサイドの支援実績が豊富で、顧客の業務把握、業務プロセス変革、チェンジマネジメントに重きを置いてきたので、SAP Public cloudとの親和性は高いのです。
渡辺:
同感です。SAP Public cloud導入後の「顧客の姿」に責任を持ち、導入の先にある提供価値にコミットしていきたいと考えています。SAP Public cloudは、導入および導入後において、これまでのオンプレ型のERPに比べ、短期導入やトータルコスト(TCO)の費用抑制ができるERPです。また SAP Public cloud のもつ新機能を活用することで導入した企業が多くのメリットを享受できるようサポートし続ける責任があります。

髙橋:
大塚さんは現在、ある企業のSAP Public cloud導入プロジェクト(PJ)に参画されています。〝LTSの強み〟を実感する機会はありますか。
大塚:
LTSが培ってきた「業務構造を把握する力」が活きていると実感しています。SAP Public cloudは従来のものと実装工程が異なり、複数の業務シナリオが用意されています。そこから企業ごとの業務プロセスにマッチするものを選ぶ仕様になっています。そのため要件定義や詳細設定の必要はありません。
コンサルの支援なしでも、自分たちの力で完遂できるように見えるかもしれません。しかし、社内の業務全体を把握している人はいないことが多く、業務を踏まえた最適なソリューション選定、コンセンサスの取得、教育の領域で、特にLTSの支援が活きると感じます。

渡辺:
同意見です。補足するとF2Sが前提だからこそ、顧客企業全体を巻き込むチェンジマネジメントのアプローチが肝になります。これまでのLTSの強みを活かし、CMO(チェンジマネジメントオフィス)を立ち上げ、長期的なプランを策定するのも有効です。
髙橋:
SAP Public cloud導入には、技術力に加えて組織的なコミュニケーション能力も求められるわけですね。
渡辺:
そうです。ERP導入は、全体最適を前提に進む導入PJには、現場の理解が得られなかったり、反発や恐怖心が強まったりすることがあります。
まずは経営層とのコミュニケーションでトップから全体への発信、そしてあらゆるレイヤーに共感する訴求で全社への浸透を実現します。机上の研修プランではなく「キャラバン方式」でコンサルタント自らが社内を駆け回り、ユーザーのネガティブな声にも真摯に向き合わなければなりません。そういった意味で、PJには人間的な泥臭さが必要です。

ソリューションの先にある未来を
髙橋:
そんな泥臭さが、SAPコンサルタントとのやりがいでもありますよね。まだ普及期にある「SAP Public cloud」導入PJは、コンサルタントとしても社会貢献できる分野ですね。
大塚:
そうですね。前例がないからこそ経験を活かし、新たな道を切り拓くことができます。コンサルタントとしても、視座が一段高くなるでしょう。
渡辺:
世界の商取引の80%がSAPソリューションを経由しているといわれています。SAPに関するPJは、簿記や会計と同じよう、コンサルタントの必須科目になるのではないでしょうか。SAPを学ぶことでビジネスを知り、顧客を支援するための力を養うことができるでしょう。
髙橋:
LTSでコンサルとして活躍する面白さはありますか。
大塚:
私のキャリア経験でも、大手のファームだと若手は2~3年経っても言われたことをやるだけ、ということが多いものです。しかし、LTSのコンサルタントは、普及期の「SAP Public cloud」では先駆者として、自らのやる気と能力次第で一歩上の業務を担当することができます。SAP以外のパッケージERPを担当してきた方、ブランク明けの方でもチャレンジ可能な領域です。業界とともに成長できるのではないでしょうか。

渡辺:
LTSはこれまでユーザ側の立ち位置でのERP導入PJへの参画が主で、導入側での立ち位置でERP導入PJへの参画が少なかったと思います。SAP Public Cloud事業を立ち上げることでこれからは導入側の立ち位置でもPJへ参画できるようになっていきます。SAPありきのソリューション・コンサルタントになるのではなく、業務プロセス中心に顧客業務を検討できる業務コンサルタントや、PMOを目指したい。顧客の未来の姿を変えることができる「デジタル時代のベストパートナー」というポジションを一層、確立していきたいですね。これまでのLTSにない導入側の立ち位置にチャレンジしたい人や、導入経験を基にした立ち位置の違いがわかるPMOを目指す人には、非常に魅力的な職場だと思います。
髙橋:
大塚さん、渡辺さん、今回はありがとうございます。LTSは明日の日本を支える企業活動の変革チャレンジに貢献できる人をお待ちしています。
インタビュアー・ライター

2023年にLTSへ入社後、LTSリンクのエージェントサービスにて出向社員として営業業務に従事。現在はLTSのマーケティングチームに所属し、CLOVERの企画・執筆や企業SNSの運用・管理を行っている。趣味はクラリネット演奏、読書。(2025年4月現在)