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元コンサルタントが教育現場を内側から変革する 子どもたちと向き合う高校教師へ

このシリーズでは、LTSを卒業したメンバーにお話を伺います。
第3回はLTS卒業後、学校法人角川ドワンゴ学園が運営する「N高等学校・S高等学校」で活躍する、沖田翔吾さんにお話を伺いました。
沖田 翔吾(学校法人角川ドワンゴ学園 オンライン通学コース運営部 部長)

熊本県八代市出身。2013年LTSに入社後、企業の基幹システム改修や自動車部品メーカーにおける業務プロセス構築と海外展開支援を担当。2017年に学校法人角川ドワンゴ学園へ転職。現職では、N高等学校・S高等学校にて、オンライン上でグループワークを中心とした学習をおこなう「オンライン通学コース」の立ち上げから運営までを担う。(2022年2月時点)

大井 悠(LTS ビジネスアナリスト/マネージャー)

ビジネスアナリシス領域に強みを持ち、多数の業務プロセスに関わるプロジェクトに従事。自社の業務変革の企画・遂行にも従事している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

どんな経験でも、後で必ず役に立つ

大井
大井

お久しぶりです。
そのZoomの背景は、学園のキャンパスですか。

沖田
沖田

そうですね、N高(N高等学校、以下、N高)・S高(S高等学校、以下、S高)の広島キャンパスです。こんな感じなんですよ。

対談中の様子
大井
大井

沖田さんのFacebookで、N高に関する投稿をいつも興味深く読んでいます。
海外留学の引率をされていましたよね。かっこいいなと思いました。
沖田さんは、LTSに入る前から教育に興味があったんですか。

沖田
沖田

そうですね、LTS入社面接の段階で「いつかは熊本で先生になりたいです」と言っていました。
当時、樺島さんからは「部下を育てられるようになるまではいてね」とお言葉を頂いて。

大井
大井

そうだったんですね。

沖田
沖田

教育の思考がある会社で、自分がやりたいことに対して耳を傾けてくれる人がいる、という理由で入社しました。というか、拾っていただきました(笑)。

大井
大井

元々教育に興味があって、コンサルティング会社に行き着いた経緯を教えてください。

沖田
沖田

小学生のころから、先生になりたいと思っていました。
大学時代も留学先で教師をやったりするくらい、先生になることしか見ていませんでした。
でも、大学に在学中、自分がやりたい教育って何だろう、何を伝えたいんだろう、ということが分からなくなりまして…。

沖田
沖田

対象が異なるだけで、アプローチは一緒だなと思い、コンサルティング会社を選びました。

LTS在籍中(出身大学が同じメンバーとの食事会)
大井
大井

教育に関心がある中で、実際に沖田さんがアサインされていた案件は、規模がとても大きく考えていたものとはギャップがあったと思いますが、いかがでしたか。

沖田
沖田

めちゃめちゃありましたね(笑)。
大規模な組織のITプロジェクトに配属され、2年間みっちりご指導いただきました。
その後、静岡に拠点を置くお客様へ、品質管理部門をご支援する案件に配属になりました。

沖田
沖田

教育とは関係がないように見えますよね。

でも、どんな経験でもいずれ学校教育の場で活きると思って取り組んでいましたし、実際に教育の場に身を置いて思うのは、全部が必要だったなということです。 心からやっていてよかったなと思います。

LTS在籍中(LTSチームで雪合戦大会へ出場)

担任の先生から始まり、キャンパス長、新規事業の立ち上げへ

大井
大井

沖田さんがN高に入社されたのは、2017年8月。
4年経ちましたが、どんなことをされているのですか。

沖田
沖田

N高等学校は、学校法人角川ドワンゴ学園が運営している、私立の通信制高等学校で、通称「N高」です。2021年4月には、S高等学校(通称「S高」)も新しく開校されました。

全国に拠点があり、通学コースではそのキャンパスで授業を受けることができます。
最初は、東京の代々木キャンパスで担任をやっていました。

沖田
沖田

2018年から2年間は、福岡キャンパスの立ち上げとキャンパス長を務めました。

2020年の初めから留学、起業部、投資部などの課外活動を統括するキャリア開発部に部長として移り、今は新しいコースを立ち上げ、その部の部長をしています。

大井
大井

新しいコースの立ち上げということは、新規事業の立ち上げということですか。

沖田
沖田

そうですね。
2021年の4月に、オンライン通学コースという新しいコースを立ち上げました。

沖田
沖田

一般的な通信制の高校は、自宅にいながら動画で学習し、年間で数日間スクーリングという形で面接指導を受ける、全日制と比べて卒業しやすい制度になっています。

N高は、全日制の学校と比べて時間に余裕があるので、その時間を使い、課外授業や職業体験、留学プログラムなどを選択できます。

沖田
沖田

オンライン通学コースでは、通信制の制度を利用して、卒業のためだけの学習ではなく、卒業後の社会で活きる内容をオンラインの学び場に集って学びます。

「問題解決型学習」「課題解決型学習」と言われるPBL(Project Based Learning)※1や21世紀型スキル※2といった内容を授業で扱い、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って仲間同士で話しあい、気づきや学びを得ます。

※1 PBL(Project Based Learning):1990年代初頭にアメリカの教育学者ジョン・デューイが唱えた学習方法。日本では現在、文部科学省によって「アクティブラーニング」が推奨されており、PBLはそのアクティブラーニングのうちのひとつ。
※2 21世紀型スキル:国際団体ATC21sによって定められた、デジタル時代となる21世紀以降必要とされるリテラシー的スキルのこと。思考の方法、仕事の方法、仕事のツール、社会生活という4つのカテゴリに分けられた10項目のスキルが定義されている。
大井
大井

以前から、通信制のコースを立ち上げようという想いがあったんですか。

沖田
沖田

いえ、経営層からN高における現状の課題を解決する手段の一つとして、何か考えてほしいって言われたんですよね。

大井
大井

かなりチャレンジングですね。

沖田
沖田

教育への想いや子どもとのコミュニケーションスキルという面と、組織を俯瞰して見た上で企画の提案ができるという面、両方を持ち合わせていることから、様々なことにチャレンジさせてもらえているのかなと思います。

2020 World Education Weekにオンライン登壇

LTSで培った自分の核となる3つのスキル

大井
大井

いろんなチャレンジをする中で、LTSでの経験はどのように役立っていますか。

沖田
沖田

主に、プロジェクトマネジメント※3、サービスサイエンス※4、ビジネスアナリシス※5の3つですね。

※3 プロジェクトマネジメント:プロジェクトを計画通り完遂できるよう管理すること。計画の立案、スケジュールの作成、人員・物資・予算の見積もりと確保、進行の管理などをおこなう。
※4 サービスサイエンス:様々な学術分野が融合し、サービスについての研究をおこなう学問のこと。
※5 ビジネスアナリシス:企業の事業や業務の分析を担う活動のこと。
沖田
沖田

様々なステークホルダーを理解した上で、物事を推進していくということ。
一般的な学校を例にあげても、一つの組織で、例えば運動会や文化祭などの行事や、学年単位での取り組みがあります。

そして、子どもたち、保護者さま、地域の方、教育委員会や文部科学省などとの繋がりの中で、学校として何を推進する必要があるのか、プロジェクトマネジメントの切り口が重要だと考えています。

沖田
沖田

無形商材を扱っている仕事だからこそ、期待値をしっかりコントロールすることが大切だと考えていて、それはサービスサイエンスの考え方です。
学校で今起きている諸問題の多くは、コミュニケーション不足が原因だと私は思っています。

沖田
沖田

ビジネスアナリシスは、急速に成長しているN高・S高には重要な考え方です。
目まぐるしい環境の中でも、みんなが目線を同じにしないと組織としていい仕事はできないですよね。 なので、ビジネスアナリシスの切り口で事業やサービスを整理するようにしています。

沖田
沖田

学校を運営する中で、そういった理論やナレッジをベースにしていくことを主張したいですね。
そういう人材が増えるべきだと思っています。

大井
大井

沖田さんがLTSにいらっしゃった頃は、サービスサイエンスやビジネスアナリシスに関する体系的な社員教育はありませんでしたよね。

沖田
沖田

そうですね。それを3つのスキル概念として自分の核にできたのは、卒業した後でした。
一旦離れて、自分がやっていたことって何だったんだろうって改めて考えて整理すると、その3つにたどり着きました。

対談中の様子(「山本政樹さんの本、何度も読んでいます!みなさんも読んでみてください!」)

教育現場に必要なのは、施策の”その先”を考えられる人

大井
大井

N高の運営はスピード感がありそうですが、難しいことはありますか。

沖田
沖田

教育っていろんな事情があって、ITほど急速には変化してこなかったと思っています。

そこで自分が感じることは、変化の早い環境の中で自分がいろんなことを任せてもらえるありがたみです。一方で、しっかり足場を固めながらやっていきたいという気持ちもあり…そのジレンマはあります。
正直、ジレンマがない現場はないですよね。

沖田
沖田

求められているスピード感の中で、どうやって最大限の仕事ができるか、体制を築けるか、メンバーの育成ができるか、切り替えてやっています。

大井
大井

アメリカでは、学校の先生からビジネスアナリストに転職するケースもあるそうです。

実際に、そのような経歴の方とカンファレンスでもお会いしたことがあります。

沖田
沖田

それは憧れですね。
世間にしっかり目を向けて、教員ということを強みにして羽ばたいていけることが普通になれば、教育現場も変わるんじゃないかなと思います。

大井
大井

私自身、小学生の娘がいますが、学校の先生はすごいなと思います。
コロナ禍では電子端末を生徒全員に配って、オンライン授業を配信していました。

沖田
沖田

でも、困った時の窓口やフォロー体制まで考えきれていない現状もありますよね。
国の方針だからやらなきゃいけないのはそうなんですけど、その先が重要です。
そういうことを考えられる人材が、教育現場には必要だなと思います。

沖田
沖田

新しい教育に取り組もうとした際、仲間が得られない、時間がかかる、現状維持をのぞむ圧力、やりたいことがやれない、といった負のループが存在すると思っています。

沖田
沖田

個人的には、学校教育をより良いものにしていく上で、そういった変化することの阻害要因を、動かしていきたいという想いも持っています。

N中等部の方との対談(https://nnn.ed.jp/recruit/our-people/talks/staff-1/)の様子

子ども一人一人に向き合い、教師としてできるベストを

大井
大井

今では注目を集めるN高ですが、開校当初はネガティブな声もありましたよね。

沖田
沖田

私も転職した時は、半信半疑だったところもありました(笑)。

学校教育に携わり、より良く変えたいと思っていて…当時、スタディサプリ※6やMOOCs(ムークス)※7といった、大規模なオンライン学習ツールが増え、EdTech※8という言葉が出始めていました。

※6 スタディサプリ:リクルートマーケティングパートナーズ が運営している インターネット予備校のこと。
※7 MOOCs(ムークス):Massive Open Online Coursesの略称で、インターネットを通じて無料で世界各国の有名大学の授業を受けることができる、新たな学習環境のこと。
※8 EdTech(エドテック):Education(教育)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、テクノロジーを用いて教育を支援する仕組みやサービスのこと。
沖田
沖田

教育を動かそうと思ったときに、外側から変えることには限界があるので、やっぱり必要なのは学校に入って中から変えることだと思いました。
学校教育に踏み込んだKADOKAWA・ドワンゴは、すごいと思います。

大井
大井

2018年とか2019年とか、進学実績を出したところで風向きが変わりましたよね。

沖田
沖田

そうですね。
東大合格の実績が出たときには、N高でもできるんだ!と思ってもらえたと思います。
そうすると、生徒数が多いからそういう生徒も出るよね、と思われることもあるのですが、私たちは偏差値の基準で子どもたちに入学してもらっていないので。

大井
大井

そんな厳しいお声もあるんですね。

沖田
沖田

N高にはいろんな子どもたちがいます。
大学進学を目指したい子、自分の特技や趣味を伸ばしたい子、高校卒業を目標としている子、また学校で友達を作ることが大きな一歩の子もいます。

沖田
沖田

いろんなスタート地点があって、そこから3年間でどういったゴールを目指すかを一緒に設定し、サポートするのが、私たちの役目だと考えています。

N高等学校 通学コースの授業の様子
大井
大井

子どもたちが選択できる余地が増えましたよね。

沖田
沖田

はい。私たちは教師として子どもたちと接する立場と、親御さんと接する立場がありますが、
その生徒が学校に在籍する間しか、子どもたちをサポートすることができません。
それに対して、親御さんは一生なんですよね。

沖田
沖田

難しいですよね。
親御さんからすると、学校に通うことが正しくて普通だと考える方もいらっしゃると思います。
自分も全日制の学校に通っていたので、よく分かります。

沖田
沖田

ただ、学校に通わなくても学びや情報は得ることができます。友達をつくることもできます。
学校に通わないということをどうとらえるのか、どんな教育がいいかは十人十色だと思っています。

大井
大井

そうですね。
通信という選択肢があることで、未来が広がる子どもたちもいるのではないかなと思います。

沖田
沖田

そのように言っていただけることが、私たちがこの学園を運営する意義だと思います。
LTSの出身者の自分としては、N高やS高って特殊な学校だと見られる可能性があるからこそ、
中にいる人間はこれだけ真剣に、誠実に向き合っているということが少しでもお伝えできたら嬉しいなと思っているんですよね。

大井
大井

コンサルタントとして、いろんな現場の業務から得たものを、しっかりと次のフィールドで活用できていることはすごいですね。
一つ一つの経験を大切にされているんだなと感じます。

何事にも真摯に向き合い、仲間やお客様を大切に

大井
大井

LTSのメンバーや、これからコンサルティング会社へ入社する人へのアドバイスをいただけますか。

沖田
沖田

私はLTSが大好きで、とても感謝しています。

LTS在籍中(同期との食事会)
沖田
沖田

改めて考えると、LTSって誠実の塊だなと思っていて…真っ直ぐやる、正しくやる。
現場に出るファーストステップとしても「お客様に誠実に向き合う」「お客様に好かれる」を大事にしていますよね。
自分もそれで居場所をもらっていたと思うので、その姿勢は忘れないでほしいです。

沖田
沖田

私は自分が能力ではなく、人柄や向き合う姿勢でしか、認めていただくことしかできないと考えています。
失敗してもすぐに認めて謝罪して次に向かう、という何事にも真摯な向き合い方も大切です。

大井
大井

ストイックなのが伝わってきますね。

沖田
沖田

LTSには現場でも骨を拾ってくれる上司がいましたし、お客様も厳しくご指導・フォローしてくださって、信頼関係が構築されていました。
ある現場では、お客様が本当にあたたかくて、ちゃんと実家に帰ってる?とか、ちゃんとご飯食べてる?とか、いつも気にかけてくださいました。

沖田
沖田

そんなお客様に対してもっとできることはなかったか、今でも考えることはあります。
なので、そういうお世話になった方のためにも、引き続き実直に頑張っていかなきゃいけないと思っています。

大井
大井

素敵ですね。
社内のメンバーにも、LTS卒業生がどのように活躍しているか、積極的に伝えていきたいです。

沖田
沖田

他にも、活躍している卒業生が沢山いることは聞いています。
そういう人たちが育ったLTSなので、間違いないと思いますよ。

沖田
沖田

でももし、しんどい人がいたら、いつでも話聞くので連絡してください(笑)。
角川ドワンゴ学園の採用ページにも、私はいますので。

大井
大井

ありがとうございました。


ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)