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リーダーシップ

企業トップがコミットする組織の風土づくり 読書を通して理念や文化を語り合う

LTSでは、代表取締役社長の樺島さんによる「読書会」が実施されています。企業のトップ自身がこのような場を設けたのはなぜか、LTSの目指す姿とは、この読書会を通して気づいたこと、などをインタビューしました。
樺島 弘明(LTS 代表取締役社長CEO)

ING生命保険株式会社(現エヌエヌ生命保険株式会社)後、株式会社IQ3を経て、株式会社ラーニング・テクノロジー・コンサルティングで営業担当ゼネラルマネジャーを務める。2002年3月にLTS設立に参画し取締役に就任。同年12月より現職。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

組織拡大の節目だからこそ読書会を始めた

―――まず、この読書会について教えてください。

読書会は半年かけて、全6回実施します。
参加者には読書会当日までに課題図書を読んでもらい、気づきや学びといった感想、実践できている点・できていない点、よくわからなかった点、私への質問などをA4 1枚にまとめて提出していただきます。当日は、私が質問に答え、全員で議論しながら学びを深めます。
正解、不正解はありません。感じたことを率直に発言してもらっています。

―――この読書会の目的は、「次世代のリーダー・フォロワー育成」だと伺いましたが、樺島さんご自身がここに課題感を感じていたのですか。

課題というよりも、LTSの良い点をさらに強化したいという想いからです。
これまでLTSは「自分が社員だったらこういう組織で仕事したい」という個人的な想いと、「この事業が伸びるためにはこれを外してはいけない」という事業の性格を踏まえて、組織を創ってきました。
そして、全員リーダー・全員フォロワーで、リーダーシップが自由自在に入れ替わる組織、自律した個人が集まりプロフェッショナルとしてチームで行動する組織が大切だと考えるようになりました。
この読書会では、そのような組織創りの背景にあるものを伝えたいと思っています。

―――では、この読書会はLTSの組織作りの一環ということですか。

そうですね。読書会を始めたのが今年(2021年)というのも、LTS単体の社員数が300名を過ぎたからです。
事業も組織も3の倍数で主要テーマや成功ポイントは変化するので、社員数が30、100、300、1,000名と拡大する中で、経営チーム、ミドルマネジメント、採用・育成における施策を進化させる必要があります。
加えて、LTSは職種も増えてきていますし、グループ会社も増えています。組織が拡大しても、LTSがこれまで大切にしてきた想いや座標軸を継承するためには、私自身が言葉にして共有する場が必要だと考え読書会を始めました。

―――実際に読書会を開催して、樺島さんご自身で気づいたことや感じたことなどはありましたか。

まずは、参加者のみなさんが楽しんでいるようで、そこは良かったなと思います。
私も、メンバーとダイレクトなコミュニケーションをとれるのでとても楽しいです
あとは、自分自身を律する機会になっています。課題図書は昔から自分が影響を受けた本を採用しているので、みなさんとやり取りをする中で「あ~最近の自分はここをおろそかにしていたな…」と反省することもあります。
やっぱり、名著のもつパワーって凄いなと感じています。

人生にもリーダーシップを

―――取り上げた本と、その理由を教えていただけますか。

ビジョナリーカンパニー2』『代表的日本人』『EQ』『運気を引き寄せるリーダー』『Who you are?』の5冊です。
「LTSの企業文化の土台にあるものを知ってほしい」「みなさんが自分の人生にリーダーシップを発揮してほしい」の2つが伝えたいことです。
偶然エベレストに登るなんてありませんよね。意思と意図をもって組織を創ってきましたから、そのあたりを初回のガイダンスで話します。
偉大な企業とは?組織文化とは?…歴史上の様々なリーダーに対する理解を深めつつ、自分の人生をよりよくするための“何か”に気づく時間になるよう、この5冊を選びました。

―――仕事以外の私生活の部分にも通じるような回があるんですね。

はい。読書会では、業務の話はあまりしないですね。
「LTSってこうやって創られたんだ」「仕事だけでなく、家族やパートナーとのやり取りにも活かせそうです」といった感想や、「樺島さんの価値観はどこから来ているのですか?」「樺島さんが日常生活で実践できていないことは何ですか?なぜ実践していないのですか?」など、私へのストレートな質問も多く寄せられます。

―――樺島さんのこれまでの人生の中で、今の価値観が生まれるようなターニングポイントがあったんですか。

今回選んだ本を初めて読んだときが、ある意味ターニングポイントだったのかもしれません。今の価値観につながる、気付きのようなものがありました。
例えば、『ビジョナリーカンパニー2』からは、ブランドを作ることは偉大な会社を作ることなんだな、と感じたんです。GoodはGreatの敵である、GoodからGreatに変わるには…というところで、もっとビジョナリーカンパニー読み込もう!みたいな。
本から学ぶことって、本当に多いですよね。

行動は言葉に勝る、行動の判断軸を醸成する

―――参加者のみなさんの、本に対する感想や意見はどうでしたか。樺島さんと同じだったり、違っていたりしましたか。

実は、読書会の価値の半分は、本を読んだ段階で達成しています。
さらに学びを深めるために、他メンバーの感想や私の解説も聴く。そうすると、「あの人はそう受け取ったんだ」とか、「樺島さんはこうやって活かしてきたんだ」とか、より立体的に学ぶことができます。
感想も疑問も、それぞれ違っていて当たり前です。それらをシェアすることで、さらに多くの気づきが生まれていく、これが読書会のよいところです。

―――次世代リーダー・フォロワーの「育成」ではなく、経験や価値観のシェアがメインということですか。

そうです。リーダーシップのトレーニングではありません。ビジョンとプリンシプルの共有につながればいいなと思っています。
あとは、経験のシェア。本から得た内容を、自分の経験と照らし合わせて、新しい一面が見つかったり、足りない一面を見つけたり。
リーダーシップというのは、能力資質ではなく判断行動が全てで、行動は言葉に勝る、といいます。その判断軸は何で、どのように醸成されてきたかというあたりを、持ち帰ってもらえたらと思います。
判断行動って、その人の価値観や、上司の指示、所属する組織の風土や空気に影響されますよね。LTSはこういう判断軸をもってやってきたという話とその理由、そう考えるに至った反省の歴史を、ワイワイ話しながらシェアしている感じですね。

LTSが大事にしている「誠実であること」

―――読書会では、LTSの文化に影響を与えた本(ビジョナリーカンパニー、WQ、Who you are?)を題材に、LTSの文化の根幹を共有することで、組織の風土や空気を創っていくんですね。

その一環ですね。
あと、リーダーシップは1日1日の行動の積み重ねでもあるので、『代表的日本人』のp.135に”徳を持つことを望むなら、毎日善をしなければならない…”とあるように、1日1個良い行いをしましょうと。
この日々小善を積むことを「誠実であること」と私は解釈していて、これはLTSの採用基準にもなっています。

―――「誠実であること」とは、どのようなことですか。

誠実さの第一要素は言行一致で、第二要素が日々小善です。
誰でもできるような、小さなよい行いをできるかどうか。電車で年配の方に席を譲るとか、道で困っている人を見かけたら声をかけるとか、ゴミを拾うとかそういうことです。
人って、油断するとすぐに謙虚さを忘れて傲慢になってしまうと思います。ほこりも目には見えないけれども、1日掃除しないと、確実に溜まっている。傲慢さも似ていて、日々何かしらよい行いをしないと、心に驕りや傲慢さがたまっているかもしれない。日々小善は、心や内面の掃除みたいなものです。
誠実さとは、資質でも性格でもなく、日々の言動や習慣にあらわれると考えていて、私自身も注意しています。

―――今のようなお話を読書会で共有するんですね。
はい。そうすると、「感謝の気持ちと表現が大事ですよね」「いい人間であるためには、日々の行動の積み重ねなんですね」「ある時期は素敵に思えた人が傲慢になってしまうことってありますね」と、各々の観点で気づきや学びがあるようです。
ビジネスパーソンとしての成長と人としての成長をあまり区別せず、両方を磨くのがLTSメンバーのよいところなので、採用面接ではビジネススキル・人間性の両面を確認する質問やプロセスを設けていたり…といった話もしますね。

―――見極めるための質問…例えばどのような質問があるか教えていただけますか。

幾つもありますが、成功と失敗を語ってもらうと人間性が出ますよね。
「なぜ、このような素晴らしい成果を出せたのですか」という質問に対して、人への感謝や絆について一切言及しない人は、LTSには合わないなと思ったり。
いろいろな質問を用意しています。

「今日は昨日よりも良いか?」の積み重ねで理想に近づく

―――採用やこの読書会のような取り組みで、LTSは樺島さんの理想の組織に近づいていますか。

「理想の組織」は存在しないし完成しない、終わりがないものと考えています。
大事なのは、今日が昨日よりも良くなっているか
それでいうと、今のLTSは5年前10年前より断然良くなっています。一方で、理想とするところまでは、まだまだかなと思います。

―――樺島さんの理想の組織とは、どのような組織ですか。

まさに、そのあたりを20周年活動でみなさんと一緒に言語化します。
2020年にミッション・ビジョンをアップデートしましたが、社員がミッション・ビジョンそしてバリューを暗記したり、唱和したりするのは、ちょっと違うなと思うんですよね。
言葉よりも行動がすべてなので、実際に体現できているかどうかが大事。行動指針が言えなくても、LTSっぽい判断行動をしてくれるメンバーがいれば、それは理念の浸透ができている状態と捉えています。

―――では、その組織作りを読書会という形で、樺島さん自身が実施するのはなぜでしょうか。

今、LTSには「事業のリーダー」がたくさん生まれています。メンバーが様々な経験をして、キャリアを積み、それぞれの専門分野のリーダーになっています。
一方で、「組織文化のリーダー」は自然に数多く生まれるわけではないので、そこには創業経営者である私がリーダーシップを発揮しないといけないと思ってやっています。
読書会を通して私自身も成長できている実感があるので、気力体力が続く限りはがんばりたいなと。
そして、近い将来、海外メンバーにも同様の読書会を開催しようと考えています。

―――ありがとうございました。


ライター

大山 あゆみ(LTS コンサルタント)

自動車部品メーカーにて、グローバルで統一された品質管理の仕組みの構築・定着化を支援。産休・育休を経て、CLOVER Lightの立ち上げ、記事の企画・執筆を務める。現在、社内システム開発PJに携わりながら、アジャイル開発スクラムを勉強中。Scrum Alliance認定スクラムマスター(CSM)、アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Outsystems Delivery Specialist保有。(2023年12月時点)