今回の記事では、プロジェクトに参加した4人のリーダーに、初めて体験した全社横断の業務改革活動から得られた学びや経験をお聞きします。
石原産業株式会社(以下ISK)について
1920年(大正9年)創業のカガクの分野で幅広く事業を展開する大手化学メーカー。三重県四日市市の工場を主力生産拠点として100年を超える歴史を持つ。
石原産業株式会社(ISHIHARA SANGYO KAISHA, LTD.)
本社:大阪市西区江戸堀一丁目3番15号
四日市工場:三重県四日市市石原町1番地
URL:https://www.iskweb.co.jp/
インタビュアー
大学時代に保育系NPOで日本初の障害児保育園を立ち上げた経験をきっかけに、「社会を変えようと挑戦する人の伴走者」になるべく、コンサルタントとしてのキャリアをスタート。入社後は複数業界のBPM関連PJに多数従事。その他、幅広い案件を経験している。(2021年7月時点)
業務設計から運用へ。そしてコンサルによる支援を卒業し自走体制へ
業務設計フェーズからプロジェクトに参加された春日部様と山本様にも加わっていただき、プロジェクト後半の状況や、プロジェクトをリードして得られた経験などについてお聞きしました。
1997年 石原産業に入社。主に工場プラントの設備管理・保全業務の第一線で活動中。 本プロジェクトには2020年8月より参画。 現在は、機械状態監視のIoT化等の生産性向上に向けた取り組みを実行している。(2022年5月時点)
2009年石原産業に入社。 主にエンジニアリング業務、のちに設備管理業務に従事。 本プロジェクトには2020年9月より参画。 現在は、生産体制強化(業務改革)プログラムの事務局も兼任。(2022年5月時点)
途中参加したリーダー2人から見たプロジェクトの「思想」
熊坂:
では、ここから2020年の状況をお聞きします。3月にプロジェクト活動の方向性が定まりマネジメント層への報告も乗り切りました。その後、具体的なマネジメントやオペレーションを実際の活動に落とし込んでいくフェーズに入ります。
現場メンバーを巻き込み活動を組成していく、このタイミングから参加した春日部さんと山本さんに、プロジェクト参加の際の状況やエピソードをお聞きしたいです。
春日部:
2020年8月からプロジェクトに合流しました。当時、会社の中ではプロジェクト活動についてすでに発表されていたので、自分がどこに配属されるのかがだいたい分かっていたという状況です。
僕がプロジェクトに参加した際の第一印象は「これは宗教的だな」と思っていまして。
プロジェクトは、大上段の目的やベースとなる思想を共有するメンバーを集めて、あとはその思想に則ってみんなが役割分担して動いていく。思想レベルで合意したメンバー達で主体的にコミュニケーションをとり合い何かを成していくというのは、これはある意味宗教的だなと思いました(笑)。
業務IT化プロジェクトは、もともとMOSMS※の思想を参考にされていたじゃないですか。元々MOSMSのことは勉強していたので、同じ思想で進められるんだなぁという安心感がありましたね。
熊坂:
宗教的という表現は面白いですね。確かにそういった側面もあるかもしれないです。
春日部:
そういう状態で入ったことに加えて、それまで業務IT化プロジェクトの皆さんがやってきたことがWBSとして明確になっていて、進捗管理もできる状態だったので、僕の感覚ではすんなり合流できたと思っています。
この頃までに、すでにプロジェクトで発散された議論やテーマが収束されてきた頃だったことも、苦労なくプロジェクトに入れた要因かもしれません。
熊坂:
今の春日部さんのコメントで、プロジェクトの状況が整理されていたと感じていただいていたなら、良かったと思いました。
実際に活動が本格スタートしたところで山本さんにもご参加いただいたと思います。プロジェクト立ち上げ当初から活動を推進されていた上田さん(※上田さんインタビュー記事)から「今後は山本さんがリードしていくのでよろしくお願いします」とご紹介いただいた際、山本さんからすると急な参加で戸惑われていないか気になっていました。
山本:
僕が合流したのは2020年9月です。会社が2021年1月から新体制に変わると発表したのと同時に、自分がプロジェクトに参画することも知りました。そのタイミングで上田さんから「プロジェクトのリーダーを頼みます」と言われたので「やります」という流れです。
前々から設備管理部だけでなく、石原産業の仕事のやり方は正直僕の考えと少し違う部分がありました。石原産業は個人の能力や個々の力で仕事をしている印象があって「標準化」などの考え方とは距離があるなと。ですので、プロジェクトの話を聞いた時に「もともと自分が必要だと思っていたことだし、自分のできる事をやろう」と思ってプロジェクトリーダーを引き受けた、というのが当時の気持ちですね。
熊坂:
そういう背景があったんですね。プロジェクトの進め方や方針についてはどう感じていましたか?
山本:
LTSのやり方は、正直最初はついていけなかったです。長い時間を会議に使う意義とか、受け入れられなかったところも実はありました。あれだけの人数で就業時間を使って会議をやる。それだけの効果がちゃんと出るのか?というのは正直思いました。
こういった全社横断活動に対しては、当初は「トップダウンで上の人がやることを決めてそれを展開してくのがいいのでは」と思っていた部分もあります。ただ、そのあたりの考え方はプロジェクトが進むにつれて変わっていきました。
長谷川:
LTSのやり方に対して「納得していないけどまずはやってみよう」と思えたモチベーションはなんだったんですか?
山本:
もし、プロジェクトの推進を社内の上長がやっていたら、僕は反発してやっていなかったかもしれないです。外部のコンサルとして入っていたLTSをある意味信じていたので、それについて行くことが大事だろうと。そういう気持ちでLTSに引っ張ってもらったから、僕もできたと思います。
自分のわからない事、聞きたいことは熊坂さんとかLTSにしつこく聞いていました。
熊坂:
プロジェクトのメンバーが納得していないままLTSが進めてしまうことで、プロジェクトの進め方の理解がずれたりモチベーションが低下することは申し訳ないですし、何としても避けたいと思っていました。そのため山本さんが納得するまで、何度も質問してくださることを頼りにしている部分はありました。非常に丁寧な言葉でカバーしつつも、わからないところはわからないと仰ってくださる山本さんに助けられている気持ちでしたね。
新体制始動に向けた2020年後半、怒涛の会議を超えて
熊坂:
では今度は、山元さん・長谷川さんに伺います。2020年後半は新メンバーを迎えた状態で2020年12月に向けた怒涛の時期があったと思いますが、この時期はいかがでしたか?
山元:
これまでの機構改革は、組織変更の直前になって初めて全社に情報が共有されていました。次の(2021年)1月に機構改革を実施する事を前年(2020年)9月に事前に社内に共有できたことは初めてだったので、プロジェクトが会社のやり方を変えたのはすごいな、ということをまず9月時点で感じました。
その後の9~12月は本当に怒涛の期間だったなという気がしますね。全然隙間がないくらい予定が入っていたので。
長谷川:
9~12月あたりは会議も慣れましたし、やることも割と明確化していましたので心の迷いはありませんでした。
ただ、社内の色々なところで2時間のセッションを連続してやっていて、毎日8時間くらいはセッションでした。なんか売れっ子の芸能人になったような気分で楽しい時期を過ごしました(笑)。
春日部:
9~12月はなんか楽しかったんですよね。
出口が見えているというのと、マネジメントやオペレーションのプロセスが形作られていくという実感がありましたから。
山元:
山本さんに当時の心境を聞きたいのですが、9月以降に途中参加でプロジェクトに入って、リーダーとして担当していた業務オペレーション上の課題が200件くらいあったと思います。大変ではなかったですか?
山本:
課題に対処したのはメンバーで、僕自身は調整役だけだったため、僕は全然大変じゃなかった。全然大丈夫でしたよ。
熊坂:
山本さんに「すごく負荷がかかっていますよね?我々で何かできる事ありますか?」と質問した時「全然大丈夫」と返されていた記憶があります。ですが本当は、複数の部門・グループの関係者に課題を説明したり、双方の意見を整理して合意形成を図ったりといった、粘り強く地道なコミュニケーションを積み重ねていたかと思います。
2021年の社内体制のみでの業務自走
熊坂:
2021年1月に新体制に移行して、4~6月までに各業務機能のKPI設定や、設備管理強化のプログラム構築をしていたと思います。
その時の活動の内容、特にマネジメント構築は春日部さんにかなりご活躍頂いたと思いますが、当時のエピソードをうかがえますか?
春日部:
この頃になるとAs Is-To Beの設計からマネジメント活動に落とし込むあたりは、一通り自分の中では理解した気になっていました。なので、自分がマネージャーとして活動するグループのメンバーに、まずこの活動の目的についての刷り込み活動を頻繁にしていたと思います。
「こういう目的があって、機構改革を進めていくためにはこういうことをしないとダメ」とか「ボトルネックを見つけて解消しないとダメ」とか、そういうことばかりを言っていた時期ですね。
熊坂:
ご自身の理解をメンバーに落とし込む活動に注力していたということですね。
春日部:
今までも機構改革は何度かあったのですが、「効果はなんやったん?目的はなんやったん?」というぼんやりしたのが多かったです。
でも今回の機構改革は「効果目標が…」「定量的な評価が…」「何億円の効果出します」など、ある程度数字が出ていて、良くも悪くも「この活動の結果を定量的に評価する仕組みを絶対作りたい」と思っていたので、マネジメント構築は自分なりには頑張ってやりましたね。
熊坂:
今回の活動は、ある意味「今までの組織の目標設定・達成の仕組み・構造自体を変えに行くこと」だったと理解しています。
「目標をしっかり立てて、そこに全員が共通のゴールに向かっていくんだ」という、意識・スローガンを掲げる。さらにそれだけでなく「きちんと仕組みとして継続的に実現できるようにしていこう」ということを「マネジメント構築」とか「プログラム構築」としてやろうとしていたのが、我々の活動だったと振り返っています。
LTSが支援したのは2021年9月末まででした。
9月末までのセッションのうち、アジェンダ設定や当日の司会進行をメインとなり実施していたのが6~7月くらい、その後8~9月は「今後は自走ですよ」「皆さんでやっていただくんですよ」と、色々なところでお伝えしました。長谷川さんからは「本当に自走できるでしょうか?」というご相談や、山元さんからもセッション後に心配するコメントをいただいたりしましたね。
その頃の皆さんの心境やISKさん側全体の動き、さらにその後LTSが抜けてから今に至るまでの状況をお聞きしたいです。
長谷川:
9月末にLTSから卒業した後は、たとえプログラム構築とマネジメント構築は止まってもオペレーション構築は止まらないような動き・活動を実行している段階です。オペレーションさえ動いていればPDCAを回せて改善は進んでいくと思っていますので、オペレーションが止まらないように活動している次第です。
熊坂:
オペレーションが止まらないようにというのは、12月末に作っていた課題一覧や具体的な業務の改善・設計について、一つひとつ見直し改善することを繰返す、という活動だけは止めないように今もやっていただいているということですか?
長谷川:
そうですね。やっていたのはオペレーション「構築」プロジェクトですので、設備管理機能の目指す状態を実現するためのオペレーションのルールや業務フローができ、定着するまで、さらにはそれらが改善されていくまではずっと続くと思っています。つまりは、永遠に終わらない取り組みですね。構築するオペレーションの中にはマネジメントとかも全部入っていたので、仮にプログラム構築とマネジメント構築が失敗しても、カバーできるプロジェクトがオペレーション構築だと思っています。
山本さんや春日部さんは、今回のように新しい考え方が来ても何とか受け入れて乗り越えるタイプの人ですが、新しい考え方を受け入れるのが簡単ではない人もいます。そういう方も形だけは受け入れようとしてくれますが、やっぱり形だけになってしまうと目指す状態として機能を定義していても、具体的な活動は止まってしまいます。
そういう状況にどう対応すればいいか、今も悩んでいます。
山本:
会社全体や組織の考え方を変えようとすると、やっぱりトップダウンの力が必要になることもあるのかな、というのは正直感じています。
現場レベルの策だけではどうしようもない、というのはあると思っています。
組織自体を上手く回すために、オペレーション構築を通じて僕がみんなに言っているのは「グループの垣根を越えよう。グループという枠で考えるのではなくてもっと大きな単位で考えましょう」ということです。
長谷川:
LTSにいろいろ教えてもらったことのうち、プログラム構築・マネジメント構築の活動はあまりできていないですけど、実際に「個人や組織単位を超えた機能として考える」という風習はちょっとずつ根付いています。
個人の能力ではなく「機能で成果を出す」というのは、全員ではないですけど若い人たちには根付きやすいですね。ボトムアップでもやりやすい状況ができていると感じています。
業務改善プロジェクトを、ミドル・中間管理層がリードする意義や得られる経験
熊坂:
最後に、リーダーとしてプロジェクトに参加して得られた経験や感想をお聞かせください。
長谷川:
もう3年半くらいですか、LTSさんと会ってからは。
3年で本当に勉強させてもらったので、新たな考え方にも触れられるようになり、自分自身すごい自信がついて、どんどんいろんなところに口出しするようになりましたね。なので、逆に山本さんはつらいだろうなと思っています(笑)。
山元:
この3年間で貴重な経験ができました。
工場幹部の前で説明する機会は今までほとんどなかったですし、自分たちがやる事じゃないというのがどこかにあったんですが、今回の活動を通じてそういった機会を経験できてよかったと思います。
3年間のなかでも、21年度は自分の中で一番しんどかったです。新体制に移行してからメンバーが右も左もわからない状態で、でも私は経緯も全部知っているので推進しないといけない立場にいたので、そこはしんどかったなという記憶があります。
一方で21年度の企画グループは、独自で課題を抽出して新たに管理表に追加し解決していく、という動きができるようになってきました。今年(22年度)になってからも、メンバーに「実際にどういった課題があるの?」と聞くとすぐに課題が挙がってくる環境になってきたので、今後に向けて期待が持てると思っています。
春日部:
今回の活動を通して、As Is-To Be設計からマネジメント構築までの落とし込みを一通り経験できたのは僕の中で結構大きかったと思っています。
また、他の人を巻き込んだ活動ができていることが最終的には評価につながっていくのが大事なので、マネジメントで立てた成果指標を達成したメンバーが人事評価で高く評価される仕組み作りを、管理職としてやれたらいいなと思っています。
あと、LTSのExcelとかPPTのテンプレートがおしゃれで今でも使っています。
山本:
この活動を通じて思ったのは、人の考えは様々あるなということです。いかに上手く自然に同じ方向を向かせていくのか?が、組織を強くしていくことなのかなと感じていて、その中で「会議の在り方」は自分自身すごい勉強になりました。
今後の目標としては、四日市工場というか石原産業としての設備戦略を何とかして作って動かしたいと思っています。
長谷川:
この機構改革を通して、ケイパビリティのところまで少し変化が起こっていますよね。
熊坂:
今回のプロジェクトを通じて、石原産業様の中の一人一人の考えや意識が変わり、組織の在り方を変える場に伴走させていただいたこと、そしてプロジェクトに参画したメンバーを通じて新たな変化やインパクトをみなさんが生み出そうとされていることが、このプロジェクトの一番の財産なんじゃないかな、と思いました。ありがとうございました。
ライター
SE・テクニカルライターを経て、LTS入社。ERP導入や業務改革におけるユーザー向け広報・教育企画および業務文書改善など組織コミュニケーションに関連するコンサルティングに従事。2017年よりLTSコンサルティング事業のマーケティングを担当。2021年より本サイト「CLOVER Light」の立ち上げ~運営・編集長を務める。(2024年1月時点)