大手金融機関を経て、LTSに参画。LTS入社後は、事業開発や事業推進、全社ターンアラウンド、DXリーダー育成プログラムの運営などのビジネスコンサルティング案件に従事している。製造業、金融、ヘルスケアなどのビジネスセクターの他、公共セクターへのコンサルティング経験を有する。(2022年11月時点)
企業変革の現場では、何が起きているのだろうか。
筆者らがさまざまな業界・業種で目にした内容をもとに、変革活動の失敗の状況について、6つの事例を示しておこう。なお、これらの各事例の解決策(処方箋)は、<②メーカーから金融まで。背景を探るⅡ>末尾に掲載しているので、あわせて参照していただきたい。
事例1:現場に丸投げのDX号令
⚫背景
DX先進企業で、その成果から経済産業省の「DX銘柄」にも選ばれた実績を持つ製造業A社。新たに「生産性向上」の経営目標を掲げ、工場ごとにばらばらになっている生産管理プロセスや業務システム、各種データの統合を目指すプロジェクトの発足が発表された。これを受け、現場で全工場を横断するDX推進体制を敷き、プロジェクトを発足させることが決定。各工場から生産部門の課長クラスを集め、現状の課題や目指す姿について議論・検討を進めることにしたのだが……。
⚫変革活動が立ち上がらない
各工場から課長クラスを招集し、DX推進体制を組んだものの、工場ごとに、解決したい問題や将来の目指す姿が異なっていた。加えて、参加メンバーは、自部門内の業務改善は得意だったが、「組織を越えた変革」の成功体験は乏しかった。そのため工場を横断し、全社で解決を目指すような共通の課題設定ができず、プロジェクトは発足しなかった。
事例2:事業部門を巻き込めず立ち上げ失敗
⚫背景
製薬メーカーA社では、コロナ禍で医師への対面営業ができなくなったため、強制的にデジタル化が進んだ。これにより顧客とのコミュニケーションはデジタル化したが、各事業部門の活動が個別最適で、不連続・非効率なマーケティングアプローチとなっていた。競争優位性を向上させるためには、事業を横断するマーケティング・マネジメントや、顧客接点の統合化などで、顧客価値を訴求していく取り組みの重要性が高まっている。そこで全社横断機能としてデジタルを推進する組織を設置し、データ駆動型のマーケティング体系(データ・ドリブン・マーケティング)構築を目標にしたものの……。
⚫変革活動が立ち上がらない
データ・ドリブン・マーケティングで達成したい目標や、横断的なマネジメント機能の構築で各事業部門のノウハウを横展開する仕組みはできている。だが、事業部門の巻き込みが不十分なこともあり、「医師のエンゲージメントを向上させる」というぼんやりとした目標から、具体的な実行計画を描けずにいた。ある競争力の高い製品へ顧客を誘導することは、別事業の売上を棄損する可能性もある。事業を横断する取り組みは、必ずしもすべての事業部門にとってWin-Winになるとは限らない。専門性を追求するそれぞれの組織では、販売に関する規制や方針が異なるため、縄張り意識が強く、組織の壁が大きい。全体最適だとわかっていても、事業を横断する調整は困難で、横断組織をもってしても各部門の協力が得られなかった。
事例3:事業部門からの反発で活動が停滞
⚫背景
金融Aグループは、積極的なM&Aによって事業規模を拡大させていたが、度重なるM&Aに伴い業務機能やITが重複するなどして管理部門が肥大化。抜本的な業務改革が必要となっていたこともあり、グループ横断のデジタル推進室をホールディング直下に設置するとともに、事業会社横断で業務改革活動を開始した。当初は、ペーパレス化やスマートフォンの導入、業務システムの刷新など、現場課題に即した取り組みだったため、スタート直後は事業会社とのコミュニケーションもうまく進んでいた。しかしながら、取り組み内容が抜本的な業務改革、人員や業務の整理となっていくと、徐々に事業会社とデジタル推進室の間に溝が生まれ、活動が停滞してしまい……。
⚫変革活動の頓挫
デジタル推進室の描いた業務改革活動が、各事業会社の現状や推進中の活動を考慮せず、べき論や一般論に終始した機能配置や人員配置計画になってしまい、各事業会社からの猛反対を受けて活動がストップした。
事例4:マイクロマネジメントでプロジェクトが停滞
⚫背景
製造業A社では、社長を統括リーダー、常務を推進リーダーとした全社DX推進プロジェクトが発足。課題仮説をもとに、業務改善やIT基盤の変更、コミュニケーションツールの導入など、複数のプロジェクトが並行して推進されていた。ところが各プロジェクトに遅れが発生し、当初想定していたDXによる効果を摘み取れないまま時間ばかり空費して……。
⚫変革活動の停滞
各プロジェクトには、プロジェクトリーダーとしてそれぞれ経営企画部門や事業部門、情報システム部門の部長クラスが割り当てられていた。一方で、各プロジェクトで実行される施策の一つひとつの決裁権は、DX推進のリーダーである社長や常務が保持するという体制だった。加えて、社長や常務はプロジェクト内の個々の課題や進め方にまで口出しをするマイクロマネジメントであった。それゆえに、各プロジェクトで発生する多くの論点をさばききれない状況に陥ってしまっていた。また、本来は優先度を上げて検討すべきプロジェクトを横断する課題に手がつけられず、それに影響を受ける各プロジェクトの活動も進められずにいた。
事例5:テクノロジー活用の限界
⚫背景
製薬メーカーであるA社は、売上が伸び悩む中、事務スタッフを多く抱えていることによる人件費の増大が経営課題となっており、抜本的な生産性改革が求められていた。そこで、デジタル推進室を設置。事務スタッフが多く配置されている本社部門を中心として、RPAなどのデジタルソリューションを活用した省人化・業務効率化と、付加価値業務へのリソースシフトを実現しようとした。しかし、思うような成果が得られずに……。
著者メッセージ
変化が常態化しそのスピードが速くなっている中で、自らを変革していかなければ変化に対応できない状況に直面しています。しかし、変革を進めようにもさまざまな壁に阻まれ苦しんでいる企業・担当者が多くいらっしゃいます。
上手くいかないときは必ず何か原因があります。そんなとき、自分がいま見えている現状を一歩引いて俯瞰する、一歩視座を上げてみると突破法が見えてきます。
読者のみなさんには、本書をきっかけに突破法を見つけ出し、あきらめずに前に進んでいただきたいです。私たちも大きな変革の一翼を担うことができるよう、変わり続け、皆さんと一緒に前に進んでいきたいと考えています。