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プロセス変革・業務改革

【解決・会社あるある~DXが失敗する組織の病理】②メーカーから金融まで。背景を探るⅡ/Ⅱ

変革が「うまくいく企業」と「失敗する企業」の違いとは――。変革できない企業には、「意識」「組織」「経営」3つの壁が存在します。「変革なんかさせない、必要ない」という抵抗意識やあきらめ、営業と製造、本社と支社など組織ごとの温度差、経営層と現場とのコミュニケーション不全…。この3つの壁を突破するキーパーソンが「ミドル」です。ミドルはどう振舞い、意識や行動を変革したらいいのか。2022年11月にLTSの島野陽介、山口恵理が著した「次世代リーダーのための変革実践ガイド」(プレジデント社)は、そのためのアプローチ方法を、豊富な事例とともに解説しています。本書の「1章 DXが失敗する組織の病理」を抜粋して紹介します。 
島野 陽介(LTS 執行役員 Business Structure & Management Dept. 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2021年6月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

山口 恵理(LTS シニアマネージャー)

大手金融機関を経て、LTSに参画。LTS入社後は、事業開発や事業推進、全社ターンアラウンド、DXリーダー育成プログラムの運営などのビジネスコンサルティング案件に従事している。製造業、金融、ヘルスケアなどのビジネスセクターの他、公共セクターへのコンサルティング経験を有する。(2022年11月時点)


⚫限定的な効果に留まる

デジタル推進室の設置後、各本社部門とのコミュニケーションを重ねながらRPAの導入を進めていったが、本社部門ではこれまでも部門活動として省人化・業務効率化が進められてきたこともあり、新たに効果を獲得できる業務は多くなかった。活動が進むにつれて「RPAの導入」自体が目的となってしまい、RPAを運用するための周辺業務が発生。結果的に業務量が増大することもあった。また、RPA検討に際しても不要業務の削減は検討されておらず、「現状業務をそのままRPA化する」という活動となったため、効果は限定的で、リソースシフトを実現できる程の省人化・効率化に至らなかった。

事例6:安易なアウトソースによる業務負荷増

⚫背景

製造業A社は、本社が担う機能の一つである工場の設備保全において、戦略的な投資や故障率の低減に向けた活動ができていないという問題を抱えていた。A社はこの問題を解消すべく、「業務効率化」と「コスト削減」を目的に業務改革プロジェクトを発足した。具体的には、各部署で重複していた定型業務や工事の実行業務を子会社に委託し一部の本社社員を子会社に出向させることで、本社社員の主要リソースを設備投資の企画・戦略立案にシフトさせようとしたのである。しかしながら、「業務効率化」と「コスト削減」という目的は達成できず、かえって業務負荷増、社員のモチベーション低下などの問題が発生する事態を招いてしまい……。

⚫従来よりも悪化

業務の一部を子会社へ委託したことに伴い、A社の設備保全業務が分断されてしまった。「設備の仕様に関する企画検討は本社」「仕様に基づいた修繕実務は子会社」となってしまったのである。加えて、本社の企画検討内容は不備が多く、想定通りに設備修繕が行われず、結果的に品質が低下していった。業務が不連続であることから、本社・子会社間のコミュニケーションコストは増大。本社と子会社との板挟みになった出向者はモチベーションが低下し、業務遂行の質が下がっていった。さらには、本社・子会社間の業務の分断により、子会社から本社に対して現場の設備に関するリアルな情報が提供される機会が減少。本社による積極的な予防保全も促されず、本来実現したかった「戦略的な投資や故障率の低減に向けた活動」につなげることができなかった。

「変革がうまくいかない」3つのパターン

失敗事例を振り返ってみると、失敗のパターンは大きく3つに整理できる(図5)。第一に、変革活動そのものが立ち上がらないパターンがある。第二に、変革活動を開始したものの途中で頓挫したり、停滞したりするパターン。最後に、変革活動は実行されたものの、想定していた効果が出なかったパターンがある。

このことは、変革活動の立ち上げから実行後の効果獲得まで、それぞれの段階で問題が起きていることを意味している。しかも、表出しているこれらの事象は、氷山の一角に過ぎない

「氷山の水面下に、何があるのか

では、氷山の水面下にあるものは何だろうか。失敗事例を組織の構造に照らし合わせ、俯瞰してみよう(図7)ここに隠れているのが、「はじめに」で触れた3つの壁だ

3つの壁とは、「意識の壁」「組織の壁」「経営の壁」だ。そしてこれらは密接に絡み合っている。よくある失敗例に、「組織をまたいだ改革を進めるべく横断組織を設置したのに、機能しない」というものがあるが、その失敗構造を見ても、3つの壁が影響していることがよくわかる。そもそも、縦割りの組織間にある対立を調整し、まとめあげるようなリーダーシップは、単に横断組織として役割を与えられただけでは発揮しにくい

なぜなら、個々の組織における変革意識の低さや変革への抵抗といった「意識の壁」があるからだ。加えて、自部門の利益に固執する過度なセクショナリズムから生まれる「組織の壁」も存在する。さらには、現場任せのマネジメントという「経営の壁」までもが、変革を阻害しているのである。

これら3つの壁を越えられず、社内政治や社内ネゴシエーションに振り回されるなどして、関係者の意識を合わせられないと、経営や関連する組織の巻き込みが不十分になる。そうすると、せいぜい個別組織に閉じた活動か、自身の裁量でできる範囲の活動しかできなくなり、ソリューションベンダーのツールに頼ったり、ベストプラクティス追従など安易な方法を選択したりするケースに陥りやすい。あるいは、活動の当初から、「ERPシステムの導入」「ツールの導入」「アウトソース・シェアード化推進」「業務の標準化」など、施策ありきで進んでしまい、「課題」が曖昧であるケースも多い。結果として、想定していたような効果が出にくい状況に陥ってしまうのである。さらには、このような変革の失敗がトラウマとなり、変革意識の低下や組織間の連携不足につながってしまうことも問題だろう。そうなると、3つの壁はますます高くなってしまう。

このように氷山の水面下には「3つの壁」が隠れているのである。では、さらにその下には何があるのだろうか?

「3つの壁」ができあがる根本原因

関係者が対立構造を解消できず、目線を合わせられない原因。それは、関係者が納得できる変革のストーリーを構築できていないことである。スローガンレベルの曖昧な戦略や、「AI活用」「デジタル化」といった具体性に欠けるDX号令では、ストーリーを構築しづらいという背景もある。しかし、ストーリーの構築が難しい背景はそれだけではない。「何のために」「何を」「どのように」変えていくのか、また、変えることによる事業インパクトは何なのか、といった課題構造(つながり)を捉えられていない点にある。事業インパクトとのつながりを捉えられていないため、「何を変えればよいかわからない」「何が制約になるのかがわからない」「優先順位を決められない」、ゆえに、「変革のストーリーを構築できない」「管掌ラインを越えて関係者を巻き込めない」といった状況になっている(図10)。つまり、変革力の不足から3つの壁を越えられないのだ。

では、「課題構造を捉え変革のストーリーを構築できない」という状況を引き起こしている原因、いうなれば「氷山の底」には、一体何がひそんでいるのだろうか。

【編注】<【解決・会社あるある~DXが失敗する組織の病理】①メーカーから金融まで。背景を探るⅠ>6つの事例の解決策(処方箋)。(図87)



著者メッセージ

変化が常態化しそのスピードが速くなっている中で、自らを変革していかなければ変化に対応できない状況に直面しています。しかし、変革を進めようにもさまざまな壁に阻まれ苦しんでいる企業・担当者が多くいらっしゃいます。
上手くいかないときは必ず何か原因があります。そんなとき、自分がいま見えている現状を一歩引いて俯瞰する、一歩視座を上げてみると突破法が見えてきます。
読者のみなさんには、本書をきっかけに突破法を見つけ出し、あきらめずに前に進んでいただきたいです。私たちも大きな変革の一翼を担うことができるよう、変わり続け、皆さんと一緒に前に進んでいきたいと考えています。