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プロセス変革・業務改革

【解決・会社あるある~DXが失敗する組織の病理】③組織を分断する「認識の乖離」

変革が「うまくいく企業」と「失敗する企業」の違いとは――。変革できない企業には、「意識」「組織」「経営」3つの壁が存在します。「変革なんかさせない、必要ない」という抵抗意識やあきらめ、営業と製造、本社と支社など組織ごとの温度差、経営層と現場とのコミュニケーション不全…。この3つの壁を突破するキーパーソンが「ミドル」です。ミドルはどう振舞い、意識や行動を変革したらいいのか。2022年11月にLTSの島野陽介、山口恵理が著した「次世代リーダーのための変革実践ガイド」(プレジデント社)は、そのためのアプローチ方法を、豊富な事例とともに解説しています。本書の「1章 DXが失敗する組織の病理」を抜粋して紹介します。 
島野 陽介(LTS 執行役員 Business Development & Insights 事業部 部長)

SIerを経て、LTSに入社。事業開発やDXなどのビジネス・コンサルティング案件に従事。近年は業界を問わず、事業・組織・マネジメント・業務・ITなどの幅広いテーマで、クライアントにおける企業変革の企画・設計および実行に多く関与している。(2024年7月時点)  ⇒プロフィールの詳細はこちら

山口 恵理(LTS シニアマネージャー)

大手金融機関を経て、LTSに参画。LTS入社後は、事業開発や事業推進、全社ターンアラウンド、DXリーダー育成プログラムの運営などのビジネスコンサルティング案件に従事している。製造業、金融、ヘルスケアなどのビジネスセクターの他、公共セクターへのコンサルティング経験を有する。(2022年11月時点)


責任の丸投げ、失敗を認めない・許容しない

結論からいうと、氷山の底にあるものは以下のような組織の問題(図11)である。

責任の丸投げ
●形式的なマネジメント
●自分の失敗を認めない
●メンバーの失敗を許容しない
●縦横の認識乖離
●組織内外における相互不信

このような環境下では、変革意識が醸成されにくく、「課題構造を捉え、変革のストーリーを構築する」というスキルが育ちづらい。結果として、関係者の納得する変革ストーリーを構築できず、氷山の一角として表出している「変革活動を立ち上げられない」「活動の開始後に停滞・頓挫する」「活動を遂行できたとしても現状の延長線上の限定的な効果に留まる」という状況に陥ってしまう。

ここで挙げた氷山の底にある問題を組織の階層別に図示したものが、図12である。経営層とミドルマネジメント、ミドルマネジメントとメンバー、それぞれの間で、これほど多くの認識の乖離が起きているのだ。

認識乖離の例は枚挙に暇がないが、ここでは、ある製品メーカーで実際に起きていた部門間の認識乖離を見ていこう。この企業では、次のような問題が生じていた。

  • 課題は、製品品質がぶれないこと。現状、十分に安定させている。(製造部)
  • いやいや、現状の製造部の品質では顧客要求に応えられない。顧客の要求に合わせて出荷前に組み換えをしなくてはならず、それが面倒だ。(営業部)
  • 設備工事の査定や発注は工務部の仕事だと思うが、慣習上、詳細がわからない中で調達部が実施しており、リスクが高まっている。(調達部)
  • 正直に言うと、経営陣が設定した役割に納得していない。中長期の設備投資計画? 今のところやる気もない。(工務部)
  • なぜ開発部は技術開発をしないのだろうか?(製造部)
  • 既存事業の技術開発をする気はない。それは製造部のミッションだからだ。(開発部)
  • 業務改善を行うと、「主業務以外に時間を使っている」とマイナス評価される。(各現場)
  • この会社でどう生きていけばよいのかわからない。(新設されたデジタル変革推進室)
  • ( 上記を見て)分掌で各部の役割を明確化している。各部の認識は間違っている。これらの意見は訂正しなければならない。(経営企画部)

また、私たちが支援する変革プロジェクトのクライアント側メンバーから、次のような意見があがることがある。これらと同種の意見を、他企業の変革プロジェクトでも受けることがあった。

  • 使えないミドルマネジメントを総入れ替えするよう、外部からトップマネジメントに進言してもらえないか。(製造業における組織変革プロジェクト)
  • 部課長がボトルネックだ。役職者を変革活動から外したほうがよい。そもそも部課長を総入れ替えしなければならない。今替えなければシステム刷新もままならない。間に合わない。(全社的なDX推進プロジェクト)
  • あれもこれもやれやれ言うだけで、ヒト・モノ・カネのマネジメントができていない。(全社的なDX推進プロジェクト)
  • 経営層が方針を決めないので、自分たちは何も進められない。経営層に意思決定するように外部から言ってはしい。(薬局チェーンにおける全社改革プロジェクト)

なぜこのような状態に陥ってしまうのだろうか。

高度成長期の企業モデルが通用しないワケ

日本企業は戦後の高度成長期において、連続的な改善型のイノベーションを武器に世界を席巻した。今振り返ってみれば、高度成長期は環境変化が少なく、右肩上がりの連続的な成長が見込まれ、単一ミッションの追求が勝ち筋となる時代だった。だからこそ、トップの強いリーダーシップと、階層型に機能分化された組織で品質・コストを追求する「カイゼン」を進めてさえいれば、グローバル競争で優位に立てたのである。


※続きは次回の掲載をお待ちください。
 気になる方は変革方法論を豊富に紹介する書籍本編をご覧ください。



著者メッセージ

変化が常態化しそのスピードが速くなっている中で、自らを変革していかなければ変化に対応できない状況に直面しています。しかし、変革を進めようにもさまざまな壁に阻まれ苦しんでいる企業・担当者が多くいらっしゃいます。
上手くいかないときは必ず何か原因があります。そんなとき、自分がいま見えている現状を一歩引いて俯瞰する、一歩視座を上げてみると突破法が見えてきます。
読者のみなさんには、本書をきっかけに突破法を見つけ出し、あきらめずに前に進んでいただきたいです。私たちも大きな変革の一翼を担うことができるよう、変わり続け、皆さんと一緒に前に進んでいきたいと考えています。